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天使降臨
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「なっ……」
すっかり忘れていた。……でもあれは魔法……になるのかな?
私は、気を抜いたせいで徐々に消えつつある闇の炎……魔素を眺めた。……うん、多分魔力の素なんだから魔法なのかもしれない。
「おい! お前がズルしたせいで俺様のアンモブライトちゃんが大変なことになっちまったじゃねぇか! どうしてくれるんだよ!」
リザードマンは、つかつかと私に歩み寄ってくると、すっかり動かなくなってしまったイカさんを指さしながら大声を張り上げた。……アンモブライトちゃんっていうのね……この子。
「ご、ごめんなさい……必死で……」
「謝って済むかよ!」
リザードマンはトライデントをブンッと振って、私のお腹に突きつけた。なにすんの!
「ちょっと、勝負はもうついたはずでしょ!」
「知ったことか、チート野郎が!」
「なっ!?」
その言葉は心外だった。最強美少女魔法使いのカナちゃんとは違って、今の私の力は養成所で修行した力と、苦しみ抜いた挙句に手に入れた力……それをチートだなんて……
リザードマンはそのままトライデントを押し込んでくる。私はトライデントの先の部分を握って抵抗するけど、闇のオーラは既に消えかけていて、さっきみたいな超絶パワーは出ない。
「ほら死ねよ!」
「……く、くぅぅぅっ!」
……ジリジリと槍の先が近づいてくる。何故か歓声が大きくなる。……私を……忌々しい人間を殺せと、みんなが言っている。露出したお腹に槍の先が刺さって血が滲む……痛っ……
『辞めんか』
その時、なにやら頭の中に響くような深い男の人の声がして、なにかが私達の近くにドサッと着地した。途端に会場が一気に静まり返る。
「あぁ?」
リザードマンは手を止めると、声のする方に顔を向けた。私も続けてそちらをうかがう。
『勝負がついた後の諍いは厳禁。ルール違反をしているのはお前の方だ』
「ノーラン様!?」
リザードマンは驚愕の声を上げる。私の隣に立っていたのは、銀色の鎧を着た影のような塊……魔王四天王の1人、デュラハンのノーランだった。
「し、しかし、あいつは魔法を使いました! ズルをしたんですよ?」
『ふん……あれが魔法だと……? お前はどこに目をつけている?』
「は、はぁ?」
ノーランの言葉にリザードマンは気の抜けた声を上げる。
『あれは魔素。体内にある魔力の塊だ。魔法とは魔素を練り直して呪文によってそれぞれの目的を与えたもの。目的のない魔素は、魔法ではない』
「そんなむちゃくちゃな……」
『例えばだ。元から体内に備えているものを使用してはいけないというのなら、鳥人は飛ぶことができないし、お前たちリザードマンはその頑丈な鱗を使ってはいけないな。……どうする? 次から鱗を全て剥がして出場するか?』
「それは……」
「じゃあ私は別にルール違反してたわけじゃないんですね!?」
私はちょっと食い気味に尋ねた。ノーランはゆっくりと頷く(といっても鎧の頭の部分が少し動いただけだけど)と
『うむ、今日の試合実に見事であった。褒めて遣わす』
「あ、ありがとうございます?」
あれ、もしかしてまた褒められてる……? あんな泥沼みたいな試合で? 体もボロボロでいまだに立ち上がることもできないし……
『我もモンスターギャルドのが好きでな。今日は本当にいいものが見れた。見所がある娘だカタリーナよ。そのうちに直々に鍛えてやるとしよう。我などは体のほとんどを魔素で作られているようなものだからな。いくらでも魔素使い方を教えてやろう』
そう告げると、呆気に取られている私やリザードマンを残して、ノーランはガシャンガシャンと鎧を鳴らしながら悠々と歩き去っていくのでした。
養成所に帰った私は、マシューと共にエミールに回復魔法をかけてもらうと、師匠のディランから祝福を受けた。
「初勝利おめでとう。しかもノーラン様から直々にお褒めの言葉をいただいたそうではないか。さすが我が弟子だ」
「あ、ありがとうございますっ」
私はとにかく褒められるのが大好きなので、デレデレとしてしまう。
そんな様子を見て、兄弟子のトラウゴットとオーウェンは気分が良くないようで、遠巻きにしながらこちらを睨んでいるよ……怖っ、近寄らないようにしよう。
「しかしあの魔素? というものを自在に操るのは、某には教えられぬこと故、お言葉に甘えてノーラン様に教えてもらうといい」
「えっ、いいんですか!?」
「あぁ、師匠としても、弟子の成長は楽しみで仕方ない。是非行ってくるがよい」
「……やった!」
私、また強くなれる! うまく制御できなかったあの闇のオーラを自由自在に操ることができるんだ! そしたらきっと……多分勇者パーティーともやりあえるくらいになれる……と思う。……私、ノーラン様の元で強くなってくるよ!
まあでも、ノーランにはその前に勇者パーティーの討伐という役目があって、それを果たすためにこのサンチェスの街にやってきたんだから、まずは私達も勇者に備えないとね!
しかし、私の戦いぶりに感動したのはノーランだけではなかったみたいで……
その数日後、あることが起きた……
その日、私がいつものように起きて朝ごはんの準備をしていると……
「たーのもー!」
という大きな澄んだ叫び声が聞こえてきた。いったい何事だろう……
私は厨房から顔を覗かせて周囲の様子を確認する。……誰かが養成所の入り口にいる?
養成所の入り口といっても明確な扉なんてものはなくて、何となく色んな建物とか設備とかが集まっている当たりが入り口……なのかな?
「ディラン様いますかー!?」
いや、いますけどぉ……多分本人は出てこないんじゃないかな?
お客さんが養成所を訪れることなんか珍しいからちょっと気になった私は、声のする方へ向かって急いだ。そこにいたのは……
「あれっ、クロエちゃんじゃん!」
水色の髪の美少女水精、クロエだった。お久しぶり!
「やっほー! カタリーナお姉さん!」
クロエは私に気づくと元気よく両手を振る。あー、懐かしいこの感じ……でもクロエは私を見ても驚いた様子はない。もしかして私がここにいることを知っていた?
「驚かないのね…? 私がディランに弟子入りしてることに」
「ん? そんなのカタリーナお姉さんがデビューした時から知ってたよ。確かにその時はちょっと驚いたけど……モンスターギャルドにハマってくれたのは嬉しいけど、まさか自分でやり始めちゃうなんてね……」
さすが……さすがモンスターギャルドオタク……
いやでも待てよ……そういえばクロエは私が人間だってことを知らなかったはずでは?
「……私が人間だってことも知ってたの……?」
「デビューの時に知ったかな……それもちょっと驚いたよ。アークドリアードかと思ってたから、蔦が禿げちゃったのかと……アークドリアードって、あの蔦が剥がれると人間になっちゃうんだね!」
「なりません!」
ちょっとこの子酷い勘違いをしてませんか!?
「私は最初から人間だったの! でも蔦で変装して騙してたのよ…」
「そうだったの!?」
目を丸くするクロエ。ちゃっかりしてそうに見えて実は結構天然だったりするのかもしれない。
「どう? 軽蔑した?」
私は自嘲気味に尋ねてみる。
「どうして?」
しかしクロエは少し首を傾げただけだった。……そっか、妖精は元々中立。人間とも魔物とも上手くやっている種族だから、魔物どもみたいに人間に対する偏見がないのかもしれない。
「カタリーナお姉さん、すごいと思うよ。デビュー戦からずっと見てたけど、何回負けてもめげずに戦って……この前の試合は、絶望的な状況からの大逆転! モンスターギャルドでは珍しい女性選手ってこともポイント高いよね! 私の好きな選手の1人だよ?」
「ほぇぇ!?」
クロエちゃんにずっと見られてた恥ずかしい! 私のあんなとこやこんなことも!
…でも、ずっと応援してくれてたんだ……クロエのことだから、最前列で応援してくれてたんだろうけど、全く気づかなかったよ……ん? 待てよ?
「じゃあこの前『諦めないで!』って叫んでくれたのは……」
「あっ、聞こえてたんだ……嬉しいな!」
く、クロエさん!! あぁ……あなたのお陰であの試合は勝てたんだよぉぉ……ありがとう! ありがとう!
「じ、じゃあこの前『応援してるよ、頑張って!』っていうファンレターをくれたのは……」
「私だよ?」
……て……
「天使か!?」
「ん!? 私はウィンディーネだけど!?」
ついつい心の声が出ちゃった。クロエ改め天使は首を傾げて困惑している。ごめん! でもとにかく嬉しくて……
「クロエちゃんのおかげで私は今まで続けてこれたんだよぉ……ほんとにありがと!」
「ううん、私はファンとして当然のことをしただけだよ。好きなら好きって伝えないとね!」
「おぉ……さすがです!」
私は目の前の小さなウィンディーネが本当に愛おしくなって、思わずぎゅっと抱きしめてしまった。
「うわっ!」
「あ、そうだ。クロエちゃんはここに何をしに来たの?」
驚いた声を上げるクロエに抱きついたまま、私は尋ねた。
「えっ、あぁそうだ! この前のカタリーナお姉さんの活躍を見て、私もモンスターギャルドをやりたくなって!」
「えぇ!?」
つまり、私みたいな感じでディランに弟子入りしに来たのかな? でもこんな小さい女の子が……って私だって人のこと言えないか。クロエの方が私よりも強そうだし。
「弟子入りさせてくれるかは分からないけど、とりあえずディランを呼んでくるね!」
私はクロエから離れると、ディランを呼びに行った。
「どうしたカタリーナ、飯か?」
「いや、ちょっと弟子入り希望のお客さんが……」
呑気に尋ねるディランに私は答える。
「なんだ、これ以上弟子を増やすことはできん。帰ってもらえ」
……言うと思った。私の時も割と渋られたもん。
「でも、とても有望な子なんです。とりあえず会うだけあってもらえませんか?」
ディランは眉を少し動かすと
「……ほう、カタリーナがそう言うなら……会うだけだぞ?」
ゆっくりと腰を上げるディラン。私はそんなディランを案内して、クロエの所に戻ってきた。
「連れてきたよー」
「あぁ、ディラン様!」
クロエは間近で見るディランに感激した様子だ。
「……話は聞いたぞウィンディーネの娘。某に弟子入りしたいそうだな?残念ながら某は今弟子を募集していないのだ」
「そ、そんなぁ!? そこをなんとか! 絶対に役に立ちますから!」
甘えた声を出すクロエ。……うん、たまに出るあざとさも健在!
でも私はその言葉であることを思い出した。
「あっ、この子ウィンディーネなので水が出せます。絶対役に立ちますよ!」
「なんと……」
私の援護射撃に、ディランは俄然興味を示したようだ。
「確かに、水が出せるウィンディーネは得がたい存在だ。……面白い、よしカタリーナ!」
「は、はい!?」
「お主がこの娘と練習試合をせよ。もし娘が勝つことができれば弟子入りを認めよう」
あぁぁっ! 出たよこのパターン! 私が弟子入りするときもこのパターンだったな……そっか、これはいつものパターンなんだ……
でも私の時は相手は一番弟子のトラウゴットだったのに、ハードルがだいぶ下がってないかなぁ……それだけ水が魅力的なのかな?
「カタリーナお姉さんと対戦できるんですか!? 是非! 是非やりたいです!」
「えぇ……」
私はあまり乗り気ではない。好きな相手と戦うのは嫌だし……そういう意味では、半分はムカつく奴らとはいえ、好きなレオンやアンジュのいる勇者パーティーと戦うのだってちょっと気がかりな部分あるけどね。
「よし、そうと決まれば練習場へ行くぞ」
「はーい!」
でも、ノリノリで嬉しそうにディランの後に続いて歩くクロエを見てると……少しだけ付き合ってあげようって気にはなるかな。よーし、やるなら私も本気でやらないとね。クロエをがっかりさせないように!
私も少し遅れて2人に続いて練習場へ向かった。
すっかり忘れていた。……でもあれは魔法……になるのかな?
私は、気を抜いたせいで徐々に消えつつある闇の炎……魔素を眺めた。……うん、多分魔力の素なんだから魔法なのかもしれない。
「おい! お前がズルしたせいで俺様のアンモブライトちゃんが大変なことになっちまったじゃねぇか! どうしてくれるんだよ!」
リザードマンは、つかつかと私に歩み寄ってくると、すっかり動かなくなってしまったイカさんを指さしながら大声を張り上げた。……アンモブライトちゃんっていうのね……この子。
「ご、ごめんなさい……必死で……」
「謝って済むかよ!」
リザードマンはトライデントをブンッと振って、私のお腹に突きつけた。なにすんの!
「ちょっと、勝負はもうついたはずでしょ!」
「知ったことか、チート野郎が!」
「なっ!?」
その言葉は心外だった。最強美少女魔法使いのカナちゃんとは違って、今の私の力は養成所で修行した力と、苦しみ抜いた挙句に手に入れた力……それをチートだなんて……
リザードマンはそのままトライデントを押し込んでくる。私はトライデントの先の部分を握って抵抗するけど、闇のオーラは既に消えかけていて、さっきみたいな超絶パワーは出ない。
「ほら死ねよ!」
「……く、くぅぅぅっ!」
……ジリジリと槍の先が近づいてくる。何故か歓声が大きくなる。……私を……忌々しい人間を殺せと、みんなが言っている。露出したお腹に槍の先が刺さって血が滲む……痛っ……
『辞めんか』
その時、なにやら頭の中に響くような深い男の人の声がして、なにかが私達の近くにドサッと着地した。途端に会場が一気に静まり返る。
「あぁ?」
リザードマンは手を止めると、声のする方に顔を向けた。私も続けてそちらをうかがう。
『勝負がついた後の諍いは厳禁。ルール違反をしているのはお前の方だ』
「ノーラン様!?」
リザードマンは驚愕の声を上げる。私の隣に立っていたのは、銀色の鎧を着た影のような塊……魔王四天王の1人、デュラハンのノーランだった。
「し、しかし、あいつは魔法を使いました! ズルをしたんですよ?」
『ふん……あれが魔法だと……? お前はどこに目をつけている?』
「は、はぁ?」
ノーランの言葉にリザードマンは気の抜けた声を上げる。
『あれは魔素。体内にある魔力の塊だ。魔法とは魔素を練り直して呪文によってそれぞれの目的を与えたもの。目的のない魔素は、魔法ではない』
「そんなむちゃくちゃな……」
『例えばだ。元から体内に備えているものを使用してはいけないというのなら、鳥人は飛ぶことができないし、お前たちリザードマンはその頑丈な鱗を使ってはいけないな。……どうする? 次から鱗を全て剥がして出場するか?』
「それは……」
「じゃあ私は別にルール違反してたわけじゃないんですね!?」
私はちょっと食い気味に尋ねた。ノーランはゆっくりと頷く(といっても鎧の頭の部分が少し動いただけだけど)と
『うむ、今日の試合実に見事であった。褒めて遣わす』
「あ、ありがとうございます?」
あれ、もしかしてまた褒められてる……? あんな泥沼みたいな試合で? 体もボロボロでいまだに立ち上がることもできないし……
『我もモンスターギャルドのが好きでな。今日は本当にいいものが見れた。見所がある娘だカタリーナよ。そのうちに直々に鍛えてやるとしよう。我などは体のほとんどを魔素で作られているようなものだからな。いくらでも魔素使い方を教えてやろう』
そう告げると、呆気に取られている私やリザードマンを残して、ノーランはガシャンガシャンと鎧を鳴らしながら悠々と歩き去っていくのでした。
養成所に帰った私は、マシューと共にエミールに回復魔法をかけてもらうと、師匠のディランから祝福を受けた。
「初勝利おめでとう。しかもノーラン様から直々にお褒めの言葉をいただいたそうではないか。さすが我が弟子だ」
「あ、ありがとうございますっ」
私はとにかく褒められるのが大好きなので、デレデレとしてしまう。
そんな様子を見て、兄弟子のトラウゴットとオーウェンは気分が良くないようで、遠巻きにしながらこちらを睨んでいるよ……怖っ、近寄らないようにしよう。
「しかしあの魔素? というものを自在に操るのは、某には教えられぬこと故、お言葉に甘えてノーラン様に教えてもらうといい」
「えっ、いいんですか!?」
「あぁ、師匠としても、弟子の成長は楽しみで仕方ない。是非行ってくるがよい」
「……やった!」
私、また強くなれる! うまく制御できなかったあの闇のオーラを自由自在に操ることができるんだ! そしたらきっと……多分勇者パーティーともやりあえるくらいになれる……と思う。……私、ノーラン様の元で強くなってくるよ!
まあでも、ノーランにはその前に勇者パーティーの討伐という役目があって、それを果たすためにこのサンチェスの街にやってきたんだから、まずは私達も勇者に備えないとね!
しかし、私の戦いぶりに感動したのはノーランだけではなかったみたいで……
その数日後、あることが起きた……
その日、私がいつものように起きて朝ごはんの準備をしていると……
「たーのもー!」
という大きな澄んだ叫び声が聞こえてきた。いったい何事だろう……
私は厨房から顔を覗かせて周囲の様子を確認する。……誰かが養成所の入り口にいる?
養成所の入り口といっても明確な扉なんてものはなくて、何となく色んな建物とか設備とかが集まっている当たりが入り口……なのかな?
「ディラン様いますかー!?」
いや、いますけどぉ……多分本人は出てこないんじゃないかな?
お客さんが養成所を訪れることなんか珍しいからちょっと気になった私は、声のする方へ向かって急いだ。そこにいたのは……
「あれっ、クロエちゃんじゃん!」
水色の髪の美少女水精、クロエだった。お久しぶり!
「やっほー! カタリーナお姉さん!」
クロエは私に気づくと元気よく両手を振る。あー、懐かしいこの感じ……でもクロエは私を見ても驚いた様子はない。もしかして私がここにいることを知っていた?
「驚かないのね…? 私がディランに弟子入りしてることに」
「ん? そんなのカタリーナお姉さんがデビューした時から知ってたよ。確かにその時はちょっと驚いたけど……モンスターギャルドにハマってくれたのは嬉しいけど、まさか自分でやり始めちゃうなんてね……」
さすが……さすがモンスターギャルドオタク……
いやでも待てよ……そういえばクロエは私が人間だってことを知らなかったはずでは?
「……私が人間だってことも知ってたの……?」
「デビューの時に知ったかな……それもちょっと驚いたよ。アークドリアードかと思ってたから、蔦が禿げちゃったのかと……アークドリアードって、あの蔦が剥がれると人間になっちゃうんだね!」
「なりません!」
ちょっとこの子酷い勘違いをしてませんか!?
「私は最初から人間だったの! でも蔦で変装して騙してたのよ…」
「そうだったの!?」
目を丸くするクロエ。ちゃっかりしてそうに見えて実は結構天然だったりするのかもしれない。
「どう? 軽蔑した?」
私は自嘲気味に尋ねてみる。
「どうして?」
しかしクロエは少し首を傾げただけだった。……そっか、妖精は元々中立。人間とも魔物とも上手くやっている種族だから、魔物どもみたいに人間に対する偏見がないのかもしれない。
「カタリーナお姉さん、すごいと思うよ。デビュー戦からずっと見てたけど、何回負けてもめげずに戦って……この前の試合は、絶望的な状況からの大逆転! モンスターギャルドでは珍しい女性選手ってこともポイント高いよね! 私の好きな選手の1人だよ?」
「ほぇぇ!?」
クロエちゃんにずっと見られてた恥ずかしい! 私のあんなとこやこんなことも!
…でも、ずっと応援してくれてたんだ……クロエのことだから、最前列で応援してくれてたんだろうけど、全く気づかなかったよ……ん? 待てよ?
「じゃあこの前『諦めないで!』って叫んでくれたのは……」
「あっ、聞こえてたんだ……嬉しいな!」
く、クロエさん!! あぁ……あなたのお陰であの試合は勝てたんだよぉぉ……ありがとう! ありがとう!
「じ、じゃあこの前『応援してるよ、頑張って!』っていうファンレターをくれたのは……」
「私だよ?」
……て……
「天使か!?」
「ん!? 私はウィンディーネだけど!?」
ついつい心の声が出ちゃった。クロエ改め天使は首を傾げて困惑している。ごめん! でもとにかく嬉しくて……
「クロエちゃんのおかげで私は今まで続けてこれたんだよぉ……ほんとにありがと!」
「ううん、私はファンとして当然のことをしただけだよ。好きなら好きって伝えないとね!」
「おぉ……さすがです!」
私は目の前の小さなウィンディーネが本当に愛おしくなって、思わずぎゅっと抱きしめてしまった。
「うわっ!」
「あ、そうだ。クロエちゃんはここに何をしに来たの?」
驚いた声を上げるクロエに抱きついたまま、私は尋ねた。
「えっ、あぁそうだ! この前のカタリーナお姉さんの活躍を見て、私もモンスターギャルドをやりたくなって!」
「えぇ!?」
つまり、私みたいな感じでディランに弟子入りしに来たのかな? でもこんな小さい女の子が……って私だって人のこと言えないか。クロエの方が私よりも強そうだし。
「弟子入りさせてくれるかは分からないけど、とりあえずディランを呼んでくるね!」
私はクロエから離れると、ディランを呼びに行った。
「どうしたカタリーナ、飯か?」
「いや、ちょっと弟子入り希望のお客さんが……」
呑気に尋ねるディランに私は答える。
「なんだ、これ以上弟子を増やすことはできん。帰ってもらえ」
……言うと思った。私の時も割と渋られたもん。
「でも、とても有望な子なんです。とりあえず会うだけあってもらえませんか?」
ディランは眉を少し動かすと
「……ほう、カタリーナがそう言うなら……会うだけだぞ?」
ゆっくりと腰を上げるディラン。私はそんなディランを案内して、クロエの所に戻ってきた。
「連れてきたよー」
「あぁ、ディラン様!」
クロエは間近で見るディランに感激した様子だ。
「……話は聞いたぞウィンディーネの娘。某に弟子入りしたいそうだな?残念ながら某は今弟子を募集していないのだ」
「そ、そんなぁ!? そこをなんとか! 絶対に役に立ちますから!」
甘えた声を出すクロエ。……うん、たまに出るあざとさも健在!
でも私はその言葉であることを思い出した。
「あっ、この子ウィンディーネなので水が出せます。絶対役に立ちますよ!」
「なんと……」
私の援護射撃に、ディランは俄然興味を示したようだ。
「確かに、水が出せるウィンディーネは得がたい存在だ。……面白い、よしカタリーナ!」
「は、はい!?」
「お主がこの娘と練習試合をせよ。もし娘が勝つことができれば弟子入りを認めよう」
あぁぁっ! 出たよこのパターン! 私が弟子入りするときもこのパターンだったな……そっか、これはいつものパターンなんだ……
でも私の時は相手は一番弟子のトラウゴットだったのに、ハードルがだいぶ下がってないかなぁ……それだけ水が魅力的なのかな?
「カタリーナお姉さんと対戦できるんですか!? 是非! 是非やりたいです!」
「えぇ……」
私はあまり乗り気ではない。好きな相手と戦うのは嫌だし……そういう意味では、半分はムカつく奴らとはいえ、好きなレオンやアンジュのいる勇者パーティーと戦うのだってちょっと気がかりな部分あるけどね。
「よし、そうと決まれば練習場へ行くぞ」
「はーい!」
でも、ノリノリで嬉しそうにディランの後に続いて歩くクロエを見てると……少しだけ付き合ってあげようって気にはなるかな。よーし、やるなら私も本気でやらないとね。クロエをがっかりさせないように!
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