エルフのせいで魔法が使えなくなって勇者パーティーを追放された私は、魔王様の部下として復讐することを誓いました

早見羽流

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呪いの正体は

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 翌日、日が昇るや否や私は野営していた場所から出て、近くの草むらに入っていった。どうしても確かめないといけないことがある。

 カナちゃん情報によると、呪いっていうのはかけられると体のどこかにマークが出るものが多いらしい。謎の痣だったり刺青だったり、角とか翼とかが生えていたり、いろいろ。とりあえずそれを確かめないと!

 運がいいことに野営地の近くには小さな池があった。池には先客がいて、白い羊か鹿のような魔獣が1匹水を飲んでいたけど、あれはホワイトディアーといって大人しい魔獣で、近くに寄って触っても全然余裕な子なんだって。

 でも、私が近づくとホワイトディアーはじーっとこちらを伺ってから、慌てて逃げ始めた。どうしたんだろう? 私があまりに可愛いから恐れをなしたとか? ……いやいや。

 ──はっ、もしかして、私のカンペキフェイスに何かあったのでは!?

 急いで池の縁まで走ると、恐る恐る池を覗いて、水面に映る自分の顔を確認した。…しかしそこには超絶美少女のカナちゃんのお顔があるだけで別に変なことは無い。確かにちょっと寝癖はついてるけど、そんなことで魔獣が怯えるわけがないし。

 顔が大丈夫なので一安心した私は、体を確認しようと思って、着ていたローブをするすると脱ぐとそこら辺の木にかけておいた。カナちゃんのカンペキボディがお披露目する。
 そのまま見とれてる余裕はないのでとりあえず両手両足、胴体脇の下、下着の中まで順番に確認していってなにか異常がないか見ていったけど、特に何も変化はないみたい。

 どうしても無理だったのが背中の方。池を背にして首を回してうまーく水面に映るのを見れないかなーとか思ってやってみたり、股の下から覗いてみたりいろいろ試したけどどうにもよくわからなかった。挙句の果てにバランスを崩して池に落ちそうになった。

「うわっと……」

 私は神がかった体幹を発揮してなんとか池ポチャを回避すると、顔を上げた瞬間に近くで呆れ顔でこちらを見ていたアンジュと目が合った。

「お、おはよう!」

「おはようじゃないわよあんた。突然いなくなるから心配して探したのに、見つけたら服脱いで池の周りで謎のダンスを踊ってるんだから。いよいよ頭がイカれたのね! おめでとう!」

「だから違うのこれは……!」

「はぁ……大丈夫よ。昨日カナが倒れた時に調べてみたけど、別に変な魔法とか呪いとかはかかってなかったわ。多分変なものを食べたか、私の加護バフに拒絶反応を示したんじゃないかなってホラントが言ってた。まああんた今まで私の加護でぶっ倒れたことないし、後者は違うんじゃない?」

 だから違くてー! それは惚れ薬のせいで私はその後自分にかけられた呪いを探しててー! って言おうとしたけど、どう説明すればいいだろう? レオンとちゅーしてたつもりがルナとちゅーしてて呪いがかかりました! なんて言えるわけがない。私のバカを晒しているし、そもそも頭がおかしいと本気で思われそう。

「あっ、そうだアンジュ、1つお願いがあるんだけど」

「なによ? 私は脱がないわよ? 比較して優越感に浸ろうと思ってもそうはいかないわ」

「じゃなくて! 私の背中になにか変なものがついてないか確認してほしいの」

「はぁ?」

 呆れたような声を出すアンジュに構わずに私は彼女に背を向けた。

「……あっ、これはまずいわ!」

「えっ、なにかついてるの!?」

 アンジュの声に私の心臓は止まりかけた。なに?もしかしてやっぱり呪いがかかって……?

「背中にお肉がついてるわ。あんた食べ過ぎよ。食べるわりには呪文唱えてるだけで動かないし、働かないし、頭も使わないから、摂取した脂肪が全部こことか! ここに! 溜まってるのよ!」

 アンジュは私の胸のとかお尻とかを指さしながら言った。なんだぁただの嫉妬か……びっくりして損したよ。

「ふっふっふっ」

「ほらほら、さっさと服着て向こうに戻りなさいよ。置いていくわよ?」

「えへへ、はーいっ」

「なにご機嫌なのよ。キモッ」

 だって、とりあえず呪いにはかかってなさそうってことが分かったんだもん! 嬉しいよ!
 その後、野営地に戻ってきた私たちは、勇者パーティーの男連中とルナに遭遇した。

「……げっ」

 昨晩のアレがあるので、私はルナを見るなり顔を顰めたけど、向こうは素知らぬ様子で、どうしたんですかカナさん? とか言っている。不敵な笑みは浮かべてないし、やっぱり昨晩のは夢だったのかなぁ……。

 そして、レオンをはじめとする勇者パーティーのメンバーから、大丈夫か? みたいなことを口々に聞かれ、大丈夫、みたいなことを返事して、アンジュも、カナは頭悪いから知恵熱でも出たんでしょう。みたいなコメントをして場を和ませたので、この件はもうこれで終わりになったらしい。

「んじゃ、出発すっか!」

 とクロードが言い出して、私たち勇者パーティー+エルフの少女ルナは最寄りの街を目指して来た道を引き返し始めた。しかし数分歩くとすぐに先頭を歩いていたクロードは右手を横に突き出して、私たちに止まるように指示した。

「なにごと?」

「……この先に何かがいる」

 私の問いにクロードが答えた。えっ、何も見えないけど……。

「……大きいな」

「こっちに来ますよ!」

 目を閉じて聴覚に意識を集中していたレオンとルナが口々に言った。
 だから何も見えないし聞こえないんだけど!? 私、索敵スキルないの? まあそんなこと仲間がやってくれるし、必要ないんだけどね。

「隠れた方がいいかな? それとも戦うか?」

「ルナもいるし、不必要な戦闘は避けたい。隠れよう」

 ホラントの質問にレオンが答える。その声とともに私たちは次々に道端の茂みに飛び込んだ。と、同時に、私にもなにやら大きなものが道を歩く音が聞こえてきた。ドシンドシンって。
 隠れてるからこちらからも向こうの様子は見えないけど、確かにだんだん近づいてきている。何が来てるのかは分からない。でも見ようとすると隠れてる場所がバレそうだから我慢しないと……。

「ちょっとカナ、暑苦しいからちょっと離れて……」

「好き好んでアンジュの隣にいるわけじゃないし!」

 茂みに隠れながらも私とアンジュの小競り合いは発生する。パーティーの立ち位置的にも、私以外の勇者パーティー唯一の女の子ってことからも、なぜか近くにいつもアンジュがいる。

「静かにしないと見つかりますよ!?」

 後ろからルナに注意されちゃった……ごめんなさい。

 ドシン……ドシン……。

 大きな生物はもうすぐ目の前にいるみたい。私たちは息を潜めてそれが通り過ぎるのを待っていると、私突然後ろから衝撃を受けた。

「あうっ!?」

 バランスを崩して茂みから転がり出てしまう。アンジュが息を飲む音が聞こえた。や、やばい! 早く戻らないと見つかっちゃ……?

 上を見上げた私は、大きな目玉と目が合った。しかもその目玉は大きな頭のど真ん中にあって、口元からは大きな牙がのぞいている。大きな棍棒を持った浅黒い肌の隻眼の巨人。
 身長は軽く10メートルはあるかも……カナちゃん情報によると、〝サイクロプス〟とても凶暴なやつで、棍棒で殴られたらみんなミンチになっちゃうかも。

「あ、あはは……こんにちはー?」

 私はできるだけ刺激しないように気さくに挨拶すると、四つん這いになったままするすると後退して茂みに戻ろうとした。しかし、返ってきたお返事は

 グォォォォッ!!

 という巨人の咆哮! 呪文を唱えている時間はない! やばいやばい死ぬ死ぬ!

「やむを得ない! 総員攻撃オールオフェンス!」

「うぉぉぉっ!!」

 レオンの号令に、まずクロードが茂みから走り出て、サイクロプスが反応できていない隙に大剣で巨人の右足を深々と切り裂いた。飛び散る血飛沫。うわー、痛そう。

 グァァァァッ!!

 と吼える巨人、あまり効いているようには見えない。あんなに深々と切り傷を与えたのに、どんどん傷は塞がっていってるし……サイクロプスには再生能力があるんだ。
 巨人は棍棒を振りかざすと、私やアンジュたちが集まっているあたりを狙って、ブゥン!! とすごい勢いで薙いできた!

「はぁぁぁっ!!」

 ガイーン!! という凄い音。ホラントが手に持っていた盾でサイクロプスの棍棒を受け止めたんだ。さすがはパーティーで1番硬い男!

「サイクロプスの弱点は雷ですが、傷口を焼けば再生を遅らせることができます!」

「アンジュは雷、カナは炎、早くしろ!」

 ルナのアドバイスにレオンがすかさず指示を飛ばすと、クロードが集中攻撃していない方の足に向かって突っ込んでいった。……なんてカッコイイんだろう……。
 クロードとレオンが両足を狙って、ホラントが棍棒を引き受ける……この隙に……。

「しっかりしなさいよほら!」
 
 今だにサイクロプスとエンカウントしたショックが抜けない私を、アンジュが励ましてくれる。そして、バシッと、槍でお尻を叩いてきた。痛い! でもそのおかげで私はショックから立ち直る。よし、もう大丈夫。アンジュは槍で叩くと同時に私と自分に〝速詠スピードキャスト〟の加護バフをかけていたようだ。

 私も呪文の詠唱を開始する……ってあれ?

「……っ!?」

 魔法を使おうとした時、突然私のお腹に差し込むような痛みが襲いかかった!

 ──えっ、なにこれ

 ──痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
 ──痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

「いたたたたたぁ……」

 そして猛烈な頭痛と吐き気も……ま、まさかこれが……?

「……うぷっ」

 うわマジで吐きそう。とてもじゃないけど魔法どころの騒ぎではない。地面にうずくまって苦しむ私。視界の隅でちらっと映ったルナは、昨晩のあの不敵な小悪魔風笑みを浮かべていた。あ、あのガキ……じゃなくてババア!

「カナ!?」

 アンジュの心配そうな声とともに、私の体を優しい光が包むのがわかった。多分〝回復ヒール〟とりあえずといった感じでかけてくれたものかもしれないけど、こころなしか痛みが和らいだかも……。

「ちょっと……あんたこれって……」

「……ん?」

 アンジュの声に私は自分の手を見てみると、手からなんか闇のオーラみたいな禍々しいのが出ている!? ……手だけじゃない、私の全身から……これが呪いの〝印〟ってやつかな…?

「大丈夫……? 立てる…?」

 私はなんとか頷くと、ゆっくり立ち上がった。時間が経つにつれてゆっくりと痛みと吐き気は治まってきたようだ。でもまだ痛いけど……。

「うわぁぁっ!?」

 見ると、ホラントが巨人の棍棒をまともに食らって吹き飛ばされているところだった。前衛がもたない……! 早く魔法を唱えないと! ……でも、魔法を使おうとするとまた呪いが……。

「氷獄の矢よ、敵を貫け! ……煉獄氷結矢ブリザードアロー!」

 ルナの声、するとゴガガガガッ! という音が響いて、サイクロプスの胴体を太い氷の矢が貫き、そのまま背後の大木に突き立った。

 グギァァァァァッ!!

 サイクロプスはもがきながら氷の矢の拘束から逃れようとしている。弱点属性ではないし、敵には再生能力があるから有効打ではないけど、逃げる時間を稼ぐには十分。ほんとにナイスな判断だ。

「撤退! 撤退!」

 アンジュが叫ぶと私に肩を貸しながら、また来た道を引き返し始めた。勇者パーティーの他のメンバーとルナも後に続く。うー、ほんとに情けない。私は、私は最強だったはずなのにぃ!!
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