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episode3 隣国の侵略を耐え抜け!
47. 告白
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☆ ☆
というわけで、ゲーレ共和国に赴くことになった私たち。
領主のユリウスと私そして通訳兼護衛兼足役のリアの合わせて三人は、シルバーウルフのマクシミリアンの背に乗って、西の方角へと旅立ったのだった。
(それにしてもこのマクシミリアン、馬よりも断然速くて快適……)
私は、ビュンビュンと後ろに流れていく景色を目で追いながら感嘆していた。もしヘルマー領の全ての馬がシルバーウルフになったとしたら、移動効率が上がるかもしれない。それ以前にアマゾネス以外の者にシルバーウルフが従うのか微妙なところだが、一考の余地があると思った。
馬だと二日かかったゲーレとの国境に、たった一日で到達した私たち。その場で一夜を明かし、翌日にゲーレに入ることにした。
ユリウスもリアも疲れていたのか、簡単な食事を終えるなりマクシミリアンの体毛に埋もれるようにして眠り始めた。しかし私はどうもソワソワして眠れなかった。
(あの時、ライムントがゲーレ軍に放った魔法は『死の霧』。吸い込んだ者の神経を麻痺させ、ほんの数十秒で死に至らしめる闇の上級魔法……。ゲーレ軍の被害は計り知れないはず)
そんなライムントと手を組んでいた私たちを、ゲーレの人間が快く思うはずがない。ユリウスが直に謝罪しに行っても受け入れてもらえるかどうか……。下手をすれば途中で捕まって殺されるか、はたまた捕虜にされるか。
(ユリウス様は領主として捕まるわけにはいかないから、いざとなったら彼だけでも逃がすようにリアさんには頼んであるけど……)
リアは私よりも遥かに強い。実際、リアは道中で、「ライムントの背後をとった時、脅さずにそのまま殺しておけばよかった」とかなり悔やんでいた。あのライムントとも渡り合えるくらいなのだから、信用してもいいだろう。
だがそれはあくまでも最悪の事態。そうなれば呑気に品評会とか言ってる場合ではなく、本格的にアルベルツ侯爵と共にゲーレと戦わなければならない。ゲーレと戦うことも、アルベルツ侯爵と手を組むことも不本意だった。
「……上手くいくといいんですけど」
何気なく呟いた時、ふと隣のユリウスと目が合った。彼はマクシミリアンにもたれかかりながらもこちらをしげしげと眺めていた。
「──なんですかユリウス様? 寝てなかったんですか?」
「こんな大事な時に寝てられるか……ヘルマー領が生きるか死ぬかの時なんだからな。──まあ、生きるか死ぬかなのはいつものことか」
フッと自嘲気味に笑うユリウス。その笑顔はどこかぎこちなく、彼の緊張が見て取れた。
「大丈夫です。なんとかなります。根拠はないですけど、そういう予感がするんです」
本当はそんな予感なんて全然しなかったが、ユリウスの表情を見ていたら、そう言わなければいけない気がした。
「そうか……よかった」
ユリウスはひとまず安心したように目を閉じた。彼にはゆっくり休んで貰わないといけない。──明日に向けて。
「──なあティナ」
しばらくしてユリウスが目を閉じたまま私を呼んだ。
「なんですか?」
「ずっと一緒に……いてくれるか?」
「えっと、それはどういう……?」
突然のことに私は困惑した。
(一緒にいる……ってことはつまり結婚したいってこと? いやいや、男色家のユリウス様に限ってそんなことは万に一つもないはず……それでも無意識に期待している私はアホなのかもしれない……)
「俺はな、所詮22歳の若造なんだよ。それが自分より遥かに歳上の相手と駆け引きをしなきゃならない。──正直に言って、不安なんだよ」
「ユリウス様は上手くやっていると思いますけど、アルベルツ侯爵が相手の時だって──」
「結局、一見親身になってくれる侯爵に甘えて、まんまと搾り取られてしまっているだけだ。俺は一人じゃ弱いんだよティナ。──だから」
私は唾を飲み込みながら続きを待った。きっと彼は告白的なセリフを口にするのではないかと、そう思ったのだ。
「ウーリはいまいち頼りないし、ギルドマスターどもやミリアムは何考えてるのかわかったもんじゃないから、結局お前だけが頼りなんだよ。俺のこと支えてくれないか?」
「ユリウス様……私だってユリウス様より歳下の18歳ですよ? 頼りにされても困ります……」
「そっか、すまんな。でも俺はお前のこと心の底から信用している。女じゃなかったら結婚したいくらいだ」
「ぶふっ!?」
そのあまりにもストレートな告白と玉砕のダブルパンチは齢18の乙女のピュアなハートを打ち砕くには十分すぎる火力を有していた。私は唐突な目眩に襲われた。
(つまりはユリウスは私のことを好き。でも男じゃないから結婚はしたくないと……性格面で問題があるのだとしたらまだ直せるけど、性別は変えられない以上脈ナシとみた方がいいかもしれない……)
「──どうした?」
「なんでもあるませんよ? ほんとになんでもねーでございますですわ!」
「変な言葉使うな……」
パニックに陥った私をクスクスと笑うと、ユリウスはすぐに寝息を立て始めた。ひとまず彼の不安を和らげることには成功したようだった。ユリウスと話したことで少し気が紛れた私も程なくして眠りに落ちたのだった。
☆ ☆
翌日、夜明けと共に私たちはゲーレ共和国に入った。ここからは部外者なのでいつ襲われるかわかったものではない。とはいえ、シルバーウルフの巨躯に恐れをなしているのか、襲ってくるものはいなかった。
周りの景色はだだっ広い草原から次第に岩肌の目立つ砂漠に変わりつつある。ゲーレ共和国の土地の大半は砂漠や草原であり、遊牧民以外の農耕民族は数少ない『オアシス』と呼ばれる緑や水のある土地や、海辺の土地で生活しているらしい。
「ゲーレの首都はなんていう名前でしたっけ?」
「確か、シンヨウとかいったかな? ゲーレ語はよく分からん」
「ゲーレ共和国という名前ですら、セイファート人が勝手に呼んでるだけですからね……」
ユリウスとそんな会話をしていると、急にマクシミリアンが速度を落とし停止した。前方に視線を向けると、ゲーレ軍と思われる兵士の一団が進路を塞いでいた。その数約100名ほど。兵士たちはシルバーウルフの姿に恐れおののきながらも、口々に何かを叫びながら手に持った槍を振り回していた。
「『武器を捨ててモンスターの背中から降りろ』だって。──どうする? 強行突破する?」
「いえ、私たちは戦いに来たのではありません。言われた通りにしましょう」
私とユリウス、リアの三人は大人しくマクシミリアンの背中から降りる。
ユリウスは腰に差したロングソードを鞘ごと抜いて兵士たちの前に置き、その上にリアが腰から抜いた二本のナイフポンポンと投げた。最後に私がフライパンを乗せると、案の定兵士たちは怪訝な表情で私を眺めはじめた。
私は手を上げて抵抗の意思がないことを示しながら兵士たちに訴えた。
「私たちはヘルマー領から来ました。──モウ首席に会わせていただきたいのですが……」
「ルア・ベルデ・アルマ!」
「──えっ?」
何かを叫びながら詰め寄ってくる兵士たち。リアがその言葉を訳すよりも前に、私の喉元に数本の槍が突きつけられた。
というわけで、ゲーレ共和国に赴くことになった私たち。
領主のユリウスと私そして通訳兼護衛兼足役のリアの合わせて三人は、シルバーウルフのマクシミリアンの背に乗って、西の方角へと旅立ったのだった。
(それにしてもこのマクシミリアン、馬よりも断然速くて快適……)
私は、ビュンビュンと後ろに流れていく景色を目で追いながら感嘆していた。もしヘルマー領の全ての馬がシルバーウルフになったとしたら、移動効率が上がるかもしれない。それ以前にアマゾネス以外の者にシルバーウルフが従うのか微妙なところだが、一考の余地があると思った。
馬だと二日かかったゲーレとの国境に、たった一日で到達した私たち。その場で一夜を明かし、翌日にゲーレに入ることにした。
ユリウスもリアも疲れていたのか、簡単な食事を終えるなりマクシミリアンの体毛に埋もれるようにして眠り始めた。しかし私はどうもソワソワして眠れなかった。
(あの時、ライムントがゲーレ軍に放った魔法は『死の霧』。吸い込んだ者の神経を麻痺させ、ほんの数十秒で死に至らしめる闇の上級魔法……。ゲーレ軍の被害は計り知れないはず)
そんなライムントと手を組んでいた私たちを、ゲーレの人間が快く思うはずがない。ユリウスが直に謝罪しに行っても受け入れてもらえるかどうか……。下手をすれば途中で捕まって殺されるか、はたまた捕虜にされるか。
(ユリウス様は領主として捕まるわけにはいかないから、いざとなったら彼だけでも逃がすようにリアさんには頼んであるけど……)
リアは私よりも遥かに強い。実際、リアは道中で、「ライムントの背後をとった時、脅さずにそのまま殺しておけばよかった」とかなり悔やんでいた。あのライムントとも渡り合えるくらいなのだから、信用してもいいだろう。
だがそれはあくまでも最悪の事態。そうなれば呑気に品評会とか言ってる場合ではなく、本格的にアルベルツ侯爵と共にゲーレと戦わなければならない。ゲーレと戦うことも、アルベルツ侯爵と手を組むことも不本意だった。
「……上手くいくといいんですけど」
何気なく呟いた時、ふと隣のユリウスと目が合った。彼はマクシミリアンにもたれかかりながらもこちらをしげしげと眺めていた。
「──なんですかユリウス様? 寝てなかったんですか?」
「こんな大事な時に寝てられるか……ヘルマー領が生きるか死ぬかの時なんだからな。──まあ、生きるか死ぬかなのはいつものことか」
フッと自嘲気味に笑うユリウス。その笑顔はどこかぎこちなく、彼の緊張が見て取れた。
「大丈夫です。なんとかなります。根拠はないですけど、そういう予感がするんです」
本当はそんな予感なんて全然しなかったが、ユリウスの表情を見ていたら、そう言わなければいけない気がした。
「そうか……よかった」
ユリウスはひとまず安心したように目を閉じた。彼にはゆっくり休んで貰わないといけない。──明日に向けて。
「──なあティナ」
しばらくしてユリウスが目を閉じたまま私を呼んだ。
「なんですか?」
「ずっと一緒に……いてくれるか?」
「えっと、それはどういう……?」
突然のことに私は困惑した。
(一緒にいる……ってことはつまり結婚したいってこと? いやいや、男色家のユリウス様に限ってそんなことは万に一つもないはず……それでも無意識に期待している私はアホなのかもしれない……)
「俺はな、所詮22歳の若造なんだよ。それが自分より遥かに歳上の相手と駆け引きをしなきゃならない。──正直に言って、不安なんだよ」
「ユリウス様は上手くやっていると思いますけど、アルベルツ侯爵が相手の時だって──」
「結局、一見親身になってくれる侯爵に甘えて、まんまと搾り取られてしまっているだけだ。俺は一人じゃ弱いんだよティナ。──だから」
私は唾を飲み込みながら続きを待った。きっと彼は告白的なセリフを口にするのではないかと、そう思ったのだ。
「ウーリはいまいち頼りないし、ギルドマスターどもやミリアムは何考えてるのかわかったもんじゃないから、結局お前だけが頼りなんだよ。俺のこと支えてくれないか?」
「ユリウス様……私だってユリウス様より歳下の18歳ですよ? 頼りにされても困ります……」
「そっか、すまんな。でも俺はお前のこと心の底から信用している。女じゃなかったら結婚したいくらいだ」
「ぶふっ!?」
そのあまりにもストレートな告白と玉砕のダブルパンチは齢18の乙女のピュアなハートを打ち砕くには十分すぎる火力を有していた。私は唐突な目眩に襲われた。
(つまりはユリウスは私のことを好き。でも男じゃないから結婚はしたくないと……性格面で問題があるのだとしたらまだ直せるけど、性別は変えられない以上脈ナシとみた方がいいかもしれない……)
「──どうした?」
「なんでもあるませんよ? ほんとになんでもねーでございますですわ!」
「変な言葉使うな……」
パニックに陥った私をクスクスと笑うと、ユリウスはすぐに寝息を立て始めた。ひとまず彼の不安を和らげることには成功したようだった。ユリウスと話したことで少し気が紛れた私も程なくして眠りに落ちたのだった。
☆ ☆
翌日、夜明けと共に私たちはゲーレ共和国に入った。ここからは部外者なのでいつ襲われるかわかったものではない。とはいえ、シルバーウルフの巨躯に恐れをなしているのか、襲ってくるものはいなかった。
周りの景色はだだっ広い草原から次第に岩肌の目立つ砂漠に変わりつつある。ゲーレ共和国の土地の大半は砂漠や草原であり、遊牧民以外の農耕民族は数少ない『オアシス』と呼ばれる緑や水のある土地や、海辺の土地で生活しているらしい。
「ゲーレの首都はなんていう名前でしたっけ?」
「確か、シンヨウとかいったかな? ゲーレ語はよく分からん」
「ゲーレ共和国という名前ですら、セイファート人が勝手に呼んでるだけですからね……」
ユリウスとそんな会話をしていると、急にマクシミリアンが速度を落とし停止した。前方に視線を向けると、ゲーレ軍と思われる兵士の一団が進路を塞いでいた。その数約100名ほど。兵士たちはシルバーウルフの姿に恐れおののきながらも、口々に何かを叫びながら手に持った槍を振り回していた。
「『武器を捨ててモンスターの背中から降りろ』だって。──どうする? 強行突破する?」
「いえ、私たちは戦いに来たのではありません。言われた通りにしましょう」
私とユリウス、リアの三人は大人しくマクシミリアンの背中から降りる。
ユリウスは腰に差したロングソードを鞘ごと抜いて兵士たちの前に置き、その上にリアが腰から抜いた二本のナイフポンポンと投げた。最後に私がフライパンを乗せると、案の定兵士たちは怪訝な表情で私を眺めはじめた。
私は手を上げて抵抗の意思がないことを示しながら兵士たちに訴えた。
「私たちはヘルマー領から来ました。──モウ首席に会わせていただきたいのですが……」
「ルア・ベルデ・アルマ!」
「──えっ?」
何かを叫びながら詰め寄ってくる兵士たち。リアがその言葉を訳すよりも前に、私の喉元に数本の槍が突きつけられた。
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