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萌え
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弁解しておくと、私は釣られるほどにココアが好きで好きで仕方がないわけではない。ただ、先程から食べてばかりで少し喉が乾いていたというかなんというか……。それでも、甘いものばかり食べてその上甘いものを飲んでしまうのは、私が生粋の甘党だからかもしれない。きっと心羽先輩もそうだろう。
とかなんとか考えているうちに、私と心羽先輩は茉莉に背中を押されるようにして『メイドカフェ』という看板が立てられている教室の中に入ってしまった。
うぅ……メイドカフェなんてアキバに通うようなオタクが行くところでしょうなんで私が……
「うわ……」
教室に踏み入れた私は思わず舌を巻いた。そこは、普段は教室として使われていたとは思えないほど凝った飾り付けや内装が施されており、まさに中世ヨーロッパに存在したであろう豪華な屋敷の一室──ダイニングルームのようであった。席数は少なく、客入りもぼちぼちといった感じだが、気合が入っているのは十分伝わってくる。この高そうな椅子やテーブルはどこから運んできたのだろうか。
私が感心していると、教室の後ろ半分くらいをカーテンで仕切ったエリアから、カーテンを開けて一人の小柄なメイドさんが飲み物をお盆に乗せて現れた。
けど、なにか違和感がある。その正体はすぐにわかった。メイドさんの頭の上には黒いネコミミのカチューシャが乗っており、ネコミミと同じ色の尻尾も生やしていたのだ。
「あっ……」
ネコミミメイドはこちらに気づくと興味津々といった様子で眺めてきた。すかさず茉莉が声をかける。
「真矢、挨拶して?」
「お、おかえりなさいませにゃ! お嬢様!」
「メイドカフェかと思ったら、猫カフェだったわ……」
隣の心羽先輩が神妙な面持ちで呟いたので、私は思わずクスッと笑ってしまった。
「こちらへどうぞ、お嬢様」
茉莉が空いている席の椅子を引いて恭しく礼をしてくる。普段は見ることのできない新鮮な茉莉を見れてかなり貴重な体験だけれど、どこかこそばゆい。いつもみたいにからかってきてほしいが、これがメイドのたしなみというやつなのだろう。
「ありがと」
向かいでは真矢と呼ばれたネコミミメイドに同じように椅子を引いてもらった心羽先輩が座り、ご褒美とばかりに真矢の顎の下を撫でている。真矢は目を閉じて気持ちよさそうにしていた。マジで猫だ。
「……じゃあ遠慮なく」
私も茉莉が引いてくれた椅子に座ろうとしたが……そこに椅子はなかった。
「ふわぁぁぁっ!?」
視界が揺れ、ドンッと音を立てて尻もちをつく。痛い。
どうやら茉莉が私が座るタイミングで椅子をずらしたらしい。こいつ……!
「も、申し訳ございませんお嬢様ー!」
「どうしてくれるの! 責任者を出しなさいはやく!」
「あたしが責任者でございますー!」
「うそつけ!」
完全に頭にきた私が、舌を出しておどける仕草をした茉莉に詰め寄ると、茉莉の方も私に身体を寄せながら、耳元でこう囁く。
「で、もう告白したんですか?」
「はぁ?」
「……だろうと思いました。タマちゃん先輩は苦手なおかずは後に残しておくタイプですからね」
「なんのこと?」
「お膳立てしてあげますから、ここで告っちゃいましょう」
なんだ、もしかして茉莉ったら、私に心羽先輩に対して告白をするように迫ってきてる……?
「ちょっと、勝手に話進めないで?」
「大丈夫です大丈夫です。会長さんには黙ってますよ。あたしこれでも口は固いんです」
「そう。なら安心……ってそういう意味じゃなくて!」
心羽先輩から怪訝な視線が飛んできたので、コホンと一つ咳払いをして椅子に腰をかけると、慌てていたせいか、なにもしていないのに椅子から滑り落ちそうになってガチで慌ててしまった。背後の茉莉がクスクスッと笑うのが聞こえたが、今回は完全に私が悪いので怒るのはやめておく。
「ご注文はなんにしますかにゃ?」
「えっと、ココアがあるって聞いたんだけど」
「ありますにゃあ。300円ですにゃ。アイスでいいですかにゃ?」
「アイスで」
「た、タマもそれで!」
心羽先輩が真矢に注文するのに合わせて私もココアを頼むと、ネコミミメイドさんは「了解にゃぁ!」と言いながらカーテンで仕切られたバックヤードに消えていく。元気ないい子だ。
「ウチの真矢、気に入りました? いい子でしょう? ご指名料は1000円です。お嬢様方ならお触り自由ですよ。それ以上のことは別料金になりますが、アフターは──」
「アコギな商売しようとしないの。風紀委員に怒られるよ?」
「冗談ですよさすがに……」
茉莉は肩をすくめると、「ごゆっくり」と言いながら私の肩を叩いてバックヤードに行ってしまった。何を企んでいるのだろう。お膳立てするとか言っていたけれど、ゆっくり距離を縮めたい私としてはありがた迷惑というか……。
にしても茉莉、生徒会にいる時よりも一段とキラキラしていたなぁ。こういう晴れ舞台で輝ける人は本当に尊敬する。
「まーたそういう顔してる……」
顔を上げると、ジト目の心羽先輩がいた。
「やめなよそういうの。他人と比べて自分が劣っているところを探してばかりいると、どんどんダメな人間になるよ」
「まあ、もともと私なんて優れた人間じゃないですし……」
「めんどくさ。まあ嫌いじゃないけど」
「……?」
心羽先輩は「この話は終わり」と言わんばかりに右手を振る。思わず出かけた質問を引っ込めるしかなかったけれど、先輩のその反応は喜んでいいのか悲しむべきなのか、よく分からない。そもそもなんで私が落ち込む素振りを見せたのかすら自分でも分からない。
私が最近事ある毎にネガティブになってしまうのは、きっと心羽先輩に叱って欲しいからなのかもしれない。
そうこうしているうちに、真矢と背格好の似ている別のメイドさんが、ココアを持ってきた。そして、ぺこりと一礼だけするとグラスを無造作に机の上に置いて立ち去ろうとする。
「あーっ、ダメだよありすちゃん。ちゃんとアレやらなきゃ……!」
「……っ! えっ」
案の定、バックヤードから眺めていた茉莉の指導が入り、ありすと呼ばれたメイドさんはビクッとした末に心底嫌そうな顔をした。
「お、おいしく……なあれ? ……っ!」
「あっ、ちょっと待って!」
真っ赤になって廊下へ走り去ってしまったありすを追いかけて、茉莉も教室を出ていく。テーブルの上には大きなグラスに入ったココアが一つだけ残されていた。二つ頼んだのに、なぜか一つだけだ。ありすと呼ばれたメイドさんが間違えて持ってきたのかもしれない。……それにしても
「デカいね」
「……ですね」
心羽先輩は、そこら辺を歩いていた真矢を捕まえると
「あの、ココア二杯頼んだんだけど?」
「えっ、あぁそれは茉莉ちゃんが……ですにゃ」
「???」
「茉莉ちゃんの指示で……これで二人分ですにゃぁ」
「「えっ……」」
当然、私たちは困惑した。すると、真矢はおもむろに真っ赤なストローを二本取り出してグラスに挿した。そして胸の前で、手でハートマークを作ると
「おいしくなぁれ、萌え萌えにゃん!」
「……」
「かわいい……」
「というわけで、ごゆっくりにゃ!」
可愛いの圧で押し切った真矢ちゃん。固まった私たちを置いてそそくさとバックヤードに逃げ込もうとする。が、心羽先輩の硬直が解けるのが一瞬早かった。
「ちょ、ちょっと待ってよ。これを二人で飲めっていうの?」
「……茉莉ちゃんの指示で」
「茉莉ちゃんどこいった?」
「いやぁ、すみませんねえうちの若いのが」
心羽先輩が真矢を問い詰めていると、ありすを連れ戻してきた茉莉が素知らぬ顔で現れた。若干困り気味だった真矢は、救世主が現れたかのように目を輝かせた。
「どういうことか説明してよ」
「えっと、これはなんというか、一種のサービスというか……あははっ」
「笑って済ませるな」
「つまりですね。なかなか関係が進展しないお嬢様方へ、あたしたちメイドからの心遣いとうか……!」
「余計なお世話よ。そもそもわたしと玲希はそういう関係じゃないし」
「あれ? 違ったんですか?」
茉莉がこちらに視線を移してきたので、三回くらい頷いておいた。茉莉は「しまった」といった様子で額に手を当てた。
「すみませんあたしとしたことが早とちりを……! すぐに新しいものをご用意しますので!」
茉莉が目配せをすると、真矢とありすの二人がすぐに二つのグラスでココアを持ってきた。異様に用意周到だ。きっと最初からこうなることを見越して準備していたに違いない。茉莉──恐ろしい子!
「タマちゃん先輩、渡橋先輩、改めて紹介しますね。うちのクラスメイトの猫屋真矢ちゃんと、仁科ありすちゃんです。二人ともいい子なんですよぉ」
再びメイドさんが三人揃ったタイミングで茉莉はクラスメイトの紹介を始めた。私たちも口々に「どうも」と挨拶をする。
終始ニコニコとしている真矢ちゃんに対して、ありすちゃんはどこか目が虚ろで心ここに在らずといった感じ。闇を抱えているという面では、茉莉の恋人の羚衣優に通じるところがある。きっと茉莉との相性は悪くはないのだろう。猫好きの茉莉が真矢を気に入るのは言わずもがな。つまり、予定調和の組み合わせだ。
挨拶を終えたメイドたちは、他の客に呼ばれて三々五々散っていく。メイドさんは忙しいものだ。私と心羽先輩もココアを飲みながらしばしのんびりとした時間を過ごした。
だが、そんな時間も長くは続かなかった。
突然、長らく沈黙していた私のスマートフォンが鳴ったのだ。メッセージアプリの通知。それでも、私の背筋に嫌な汗が伝う。私がアプリでやり取りしている相手はほとんど生徒会のメンバーだ。突然お呼びがかかるということは、何か問題が発生したか、はたまた心羽先輩とデートをしているのが絢愛の知るところとなったか……。
「すみませんちょっと……」
心羽先輩に断ってスマートフォンを開くと、そこには絢愛からのメッセージがあった。
『たまきんたいへん! たいへんなの!』
────────────
※ゲスト出演は茉莉のクラスメイト
・猫屋真矢
・仁科ありす
とかなんとか考えているうちに、私と心羽先輩は茉莉に背中を押されるようにして『メイドカフェ』という看板が立てられている教室の中に入ってしまった。
うぅ……メイドカフェなんてアキバに通うようなオタクが行くところでしょうなんで私が……
「うわ……」
教室に踏み入れた私は思わず舌を巻いた。そこは、普段は教室として使われていたとは思えないほど凝った飾り付けや内装が施されており、まさに中世ヨーロッパに存在したであろう豪華な屋敷の一室──ダイニングルームのようであった。席数は少なく、客入りもぼちぼちといった感じだが、気合が入っているのは十分伝わってくる。この高そうな椅子やテーブルはどこから運んできたのだろうか。
私が感心していると、教室の後ろ半分くらいをカーテンで仕切ったエリアから、カーテンを開けて一人の小柄なメイドさんが飲み物をお盆に乗せて現れた。
けど、なにか違和感がある。その正体はすぐにわかった。メイドさんの頭の上には黒いネコミミのカチューシャが乗っており、ネコミミと同じ色の尻尾も生やしていたのだ。
「あっ……」
ネコミミメイドはこちらに気づくと興味津々といった様子で眺めてきた。すかさず茉莉が声をかける。
「真矢、挨拶して?」
「お、おかえりなさいませにゃ! お嬢様!」
「メイドカフェかと思ったら、猫カフェだったわ……」
隣の心羽先輩が神妙な面持ちで呟いたので、私は思わずクスッと笑ってしまった。
「こちらへどうぞ、お嬢様」
茉莉が空いている席の椅子を引いて恭しく礼をしてくる。普段は見ることのできない新鮮な茉莉を見れてかなり貴重な体験だけれど、どこかこそばゆい。いつもみたいにからかってきてほしいが、これがメイドのたしなみというやつなのだろう。
「ありがと」
向かいでは真矢と呼ばれたネコミミメイドに同じように椅子を引いてもらった心羽先輩が座り、ご褒美とばかりに真矢の顎の下を撫でている。真矢は目を閉じて気持ちよさそうにしていた。マジで猫だ。
「……じゃあ遠慮なく」
私も茉莉が引いてくれた椅子に座ろうとしたが……そこに椅子はなかった。
「ふわぁぁぁっ!?」
視界が揺れ、ドンッと音を立てて尻もちをつく。痛い。
どうやら茉莉が私が座るタイミングで椅子をずらしたらしい。こいつ……!
「も、申し訳ございませんお嬢様ー!」
「どうしてくれるの! 責任者を出しなさいはやく!」
「あたしが責任者でございますー!」
「うそつけ!」
完全に頭にきた私が、舌を出しておどける仕草をした茉莉に詰め寄ると、茉莉の方も私に身体を寄せながら、耳元でこう囁く。
「で、もう告白したんですか?」
「はぁ?」
「……だろうと思いました。タマちゃん先輩は苦手なおかずは後に残しておくタイプですからね」
「なんのこと?」
「お膳立てしてあげますから、ここで告っちゃいましょう」
なんだ、もしかして茉莉ったら、私に心羽先輩に対して告白をするように迫ってきてる……?
「ちょっと、勝手に話進めないで?」
「大丈夫です大丈夫です。会長さんには黙ってますよ。あたしこれでも口は固いんです」
「そう。なら安心……ってそういう意味じゃなくて!」
心羽先輩から怪訝な視線が飛んできたので、コホンと一つ咳払いをして椅子に腰をかけると、慌てていたせいか、なにもしていないのに椅子から滑り落ちそうになってガチで慌ててしまった。背後の茉莉がクスクスッと笑うのが聞こえたが、今回は完全に私が悪いので怒るのはやめておく。
「ご注文はなんにしますかにゃ?」
「えっと、ココアがあるって聞いたんだけど」
「ありますにゃあ。300円ですにゃ。アイスでいいですかにゃ?」
「アイスで」
「た、タマもそれで!」
心羽先輩が真矢に注文するのに合わせて私もココアを頼むと、ネコミミメイドさんは「了解にゃぁ!」と言いながらカーテンで仕切られたバックヤードに消えていく。元気ないい子だ。
「ウチの真矢、気に入りました? いい子でしょう? ご指名料は1000円です。お嬢様方ならお触り自由ですよ。それ以上のことは別料金になりますが、アフターは──」
「アコギな商売しようとしないの。風紀委員に怒られるよ?」
「冗談ですよさすがに……」
茉莉は肩をすくめると、「ごゆっくり」と言いながら私の肩を叩いてバックヤードに行ってしまった。何を企んでいるのだろう。お膳立てするとか言っていたけれど、ゆっくり距離を縮めたい私としてはありがた迷惑というか……。
にしても茉莉、生徒会にいる時よりも一段とキラキラしていたなぁ。こういう晴れ舞台で輝ける人は本当に尊敬する。
「まーたそういう顔してる……」
顔を上げると、ジト目の心羽先輩がいた。
「やめなよそういうの。他人と比べて自分が劣っているところを探してばかりいると、どんどんダメな人間になるよ」
「まあ、もともと私なんて優れた人間じゃないですし……」
「めんどくさ。まあ嫌いじゃないけど」
「……?」
心羽先輩は「この話は終わり」と言わんばかりに右手を振る。思わず出かけた質問を引っ込めるしかなかったけれど、先輩のその反応は喜んでいいのか悲しむべきなのか、よく分からない。そもそもなんで私が落ち込む素振りを見せたのかすら自分でも分からない。
私が最近事ある毎にネガティブになってしまうのは、きっと心羽先輩に叱って欲しいからなのかもしれない。
そうこうしているうちに、真矢と背格好の似ている別のメイドさんが、ココアを持ってきた。そして、ぺこりと一礼だけするとグラスを無造作に机の上に置いて立ち去ろうとする。
「あーっ、ダメだよありすちゃん。ちゃんとアレやらなきゃ……!」
「……っ! えっ」
案の定、バックヤードから眺めていた茉莉の指導が入り、ありすと呼ばれたメイドさんはビクッとした末に心底嫌そうな顔をした。
「お、おいしく……なあれ? ……っ!」
「あっ、ちょっと待って!」
真っ赤になって廊下へ走り去ってしまったありすを追いかけて、茉莉も教室を出ていく。テーブルの上には大きなグラスに入ったココアが一つだけ残されていた。二つ頼んだのに、なぜか一つだけだ。ありすと呼ばれたメイドさんが間違えて持ってきたのかもしれない。……それにしても
「デカいね」
「……ですね」
心羽先輩は、そこら辺を歩いていた真矢を捕まえると
「あの、ココア二杯頼んだんだけど?」
「えっ、あぁそれは茉莉ちゃんが……ですにゃ」
「???」
「茉莉ちゃんの指示で……これで二人分ですにゃぁ」
「「えっ……」」
当然、私たちは困惑した。すると、真矢はおもむろに真っ赤なストローを二本取り出してグラスに挿した。そして胸の前で、手でハートマークを作ると
「おいしくなぁれ、萌え萌えにゃん!」
「……」
「かわいい……」
「というわけで、ごゆっくりにゃ!」
可愛いの圧で押し切った真矢ちゃん。固まった私たちを置いてそそくさとバックヤードに逃げ込もうとする。が、心羽先輩の硬直が解けるのが一瞬早かった。
「ちょ、ちょっと待ってよ。これを二人で飲めっていうの?」
「……茉莉ちゃんの指示で」
「茉莉ちゃんどこいった?」
「いやぁ、すみませんねえうちの若いのが」
心羽先輩が真矢を問い詰めていると、ありすを連れ戻してきた茉莉が素知らぬ顔で現れた。若干困り気味だった真矢は、救世主が現れたかのように目を輝かせた。
「どういうことか説明してよ」
「えっと、これはなんというか、一種のサービスというか……あははっ」
「笑って済ませるな」
「つまりですね。なかなか関係が進展しないお嬢様方へ、あたしたちメイドからの心遣いとうか……!」
「余計なお世話よ。そもそもわたしと玲希はそういう関係じゃないし」
「あれ? 違ったんですか?」
茉莉がこちらに視線を移してきたので、三回くらい頷いておいた。茉莉は「しまった」といった様子で額に手を当てた。
「すみませんあたしとしたことが早とちりを……! すぐに新しいものをご用意しますので!」
茉莉が目配せをすると、真矢とありすの二人がすぐに二つのグラスでココアを持ってきた。異様に用意周到だ。きっと最初からこうなることを見越して準備していたに違いない。茉莉──恐ろしい子!
「タマちゃん先輩、渡橋先輩、改めて紹介しますね。うちのクラスメイトの猫屋真矢ちゃんと、仁科ありすちゃんです。二人ともいい子なんですよぉ」
再びメイドさんが三人揃ったタイミングで茉莉はクラスメイトの紹介を始めた。私たちも口々に「どうも」と挨拶をする。
終始ニコニコとしている真矢ちゃんに対して、ありすちゃんはどこか目が虚ろで心ここに在らずといった感じ。闇を抱えているという面では、茉莉の恋人の羚衣優に通じるところがある。きっと茉莉との相性は悪くはないのだろう。猫好きの茉莉が真矢を気に入るのは言わずもがな。つまり、予定調和の組み合わせだ。
挨拶を終えたメイドたちは、他の客に呼ばれて三々五々散っていく。メイドさんは忙しいものだ。私と心羽先輩もココアを飲みながらしばしのんびりとした時間を過ごした。
だが、そんな時間も長くは続かなかった。
突然、長らく沈黙していた私のスマートフォンが鳴ったのだ。メッセージアプリの通知。それでも、私の背筋に嫌な汗が伝う。私がアプリでやり取りしている相手はほとんど生徒会のメンバーだ。突然お呼びがかかるということは、何か問題が発生したか、はたまた心羽先輩とデートをしているのが絢愛の知るところとなったか……。
「すみませんちょっと……」
心羽先輩に断ってスマートフォンを開くと、そこには絢愛からのメッセージがあった。
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