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とても個性的
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「……ふぅ、すっかりおなかいっぱいになっちゃいましたね」
「そうね。あの人たち、人の胃袋が無限だと思って、無限に食べ物食べさせてくるから困る」
「でも楽しかったですね」
「うん」
料理部でひたすらクレープを食べさせられた私と心羽先輩。腹ごしらえしてからダンスと思ったけれど、流石に今の状態でダンスはキツいかもしれない。それに、満腹になったからか眠くなってきた。
「あっ、だめだもう眠い……」
「お腹いっぱいで眠くなるって、子どもみたい」
「むぅ……いいですもん。どーせタマは子どもなんですよわかってますよそんぐらい!」
「へそ曲げなくてもいいじゃない……」
眠くて、思わずぐずるようなことを言ってしまったけれど、心羽先輩は軽くあしらっただけで、少しふらついている私が人混みではぐれないように手を引いてくれたりする。こういうちょっとした気遣いというか、何気ない行動がいかにも『先輩』って感じだ。
しばらく歩いていると、私たちはクラスごとの屋台が並ぶグラウンドに出た。それぞれのクラスが自分たちで決めたものを売っているだけあって、やはり圧倒的に食べ物が多い。とてもいい匂いがして、食べたばかりだというのになぜかお腹が空いてくる。
「ここはやっぱり食べ物ばかりね……別のところ行こっか」
「は、はい。お任せします!」
今日のプランは全部心羽先輩にお任せしているので、私はひたすら心羽先輩に手を引かれて連れられているだけだ。お散歩中の犬ですらもっと意志を持って動くだろう。
と、誰かに突然行く手を遮られた。
見ると、髪を金髪に染めていかにも怖そうな先輩が仁王立ちしながらこちらを睨みつけている。髪色がわりと自由な星花女子学園だが、真っ金髪というのはなかなかいない。とはいえ、金髪自体は生徒会に羚衣優がいるので私は慣れている。──問題は目の前の先輩の風貌だった。
目つきは鋭く立ち居振る舞いは威圧的。手には何か看板のようなものを持っており、それがまた先輩の恐ろしさを強めている。私は咄嗟に心羽先輩の腕にしがみついた。心羽先輩は私の行動に少し驚いたようだったが、それよりも目の前の先輩に気圧されて足がすくんでしまっているようだ。
金髪の先輩は手に持った看板をグサッと地面に突き刺す。看板にはカラフルな絵柄と共に『ちゅろす♡』と書いてあった。そのギャップがまた怖い。
「お前、5組の渡橋だよな? ちょっと顔貸せよ」
「えっ、はっ、はぁ?」
「だからさぁ……ウチの屋台寄ってけっていってんの。それとも何か? 忙しいのか今?」
「い、いやぁ……あの、わたしは妹の方で……」
「そっか悪ぃ、似てたから……まあいいや渡橋の妹。姉の友人を助けると思ってチュロス食べてくれよ」
「えっと、まあいいですけど」
どうやら心羽先輩は姉の名前を出されると弱いらしい。
心羽先輩が答えると、金髪の先輩はフッと微笑んだ。先程までの威圧感はどこへやら、嬉しげな雰囲気が伝わってくる。
「よかった。アタシこんなナリだからさ、呼び込み任されてもみんな怖がって来てくんねぇのよ」
「は、はぁ……」
確かに初対面であんなにガンつけられたら怖い。私一人だけだったら即刻走って逃げ出していただろう。でも、こうして話を聞いてみると根はいい人そうだった。人は見かけによらないものだ。
「でもわたしたちさっき料理部でひたすらクレープを食べさせられて、お腹いっぱいなんですよね」
「まあまあそんなこと言わずに、一本でもいいから買ってくれよチュロス……」
心羽先輩と私は目を見合わせた。
「一本だけなら……」
渋々といった感じだが、なんとなく断るとこの金髪の先輩が何かしてきそうで怖かったというのもあったのかもしれない。とにかく私たちは、上機嫌になった金髪の先輩に連れられて、屋台のうちの一つにやってきた。
甘いいい匂いがする。チュロスというのは細長い揚げパンに砂糖をかけたようなお菓子で、主に都会のテーマパークなどで見かけることが多い。星花女子たちにとっては非日常感を味わえる食べ物ということで密かに人気なのだが、このクラスは金髪の先輩の客引きが上手くいっていないせいか、屋台の前に集まっている人影はまばらだった。そしてその数少ない客も、私たちが近づくと波が引くように去っていってしまった。よほど金髪の先輩は恐れられているらしい。
「うわぁ、また沙夜のやつがお客さん追い払ったわー、マジうける」
「いやいや、皆ボクの美しさに恐れをなしたのさ。いわば必然と言うべきだろうね」
「蜂谷殿、歌越殿、そろそろ真面目にやらないと売れ残りが大量に出ることになりますぞ!」
チュロスの店番をしているのはショートウルフの先輩と、おかっぱの先輩、サイドテールの先輩、おしとやかでお嬢様な先輩の四人組。少し離れたところで別の看板を持ちながら遠巻きにしている三つ編みおさげの先輩が一人。──なのだけど、なんだかなぜこのチュロスが売れていないのかわかる気がする。
「うるせーぞお前ら! ほら、お望み通り客連れてきてやったからな」
「へーえ、珍しいこともあるものだね」
「あぁ?」
「……なんでもない」
ショートウルフの先輩はニヤニヤしながら金髪の先輩を煽っていたが、金髪の先輩がひと睨みすると流石に黙った。
「明らかに人選ミスだろこれ。どーすんだよマジで」
「なせばなるーなさねばならぬーなにごともー、そう、人生万事サイオーガホース! 風の向くまま気の向くまま、流されていくだけさー!」
「うるせー!」
今度はおかっぱの先輩が愉快に歌い始め、金髪の先輩はツッコミが追いつかないようだ。その隙に、心羽先輩がサイドテールの先輩に声をかける。
「あの、せっかくなんでチュロス1つ……」
「あ、ありがとうございますぅぅぅ! このご恩、一生忘れませんぞ! この華視屋流々、命に替えても必ず──」
「えっ、えっ……」
あまりに先輩方がフリーダムすぎるので、さすがの心羽先輩も困惑気味だった。やっぱり、ここは私がなんとかしないと! 普段から個性豊かな生徒会の面々を相手にしているせいで、こういう人たちの扱いは慣れている。
正しい対処法はズバリ──無視!
ということで、私は一番話が通じそうなおしとやかな先輩に声をかけた。
「あの、タマも一つお願いします」
おしとやかな先輩は何も言わずにただこくこくと頷くと、私からお金を受け取って、代わりにできたてのチュロスを手渡してくれた。それみたことか話しかける相手を選べばなんとかなるんですよ! とドヤ顔で心羽先輩を振り返ると、先輩はなんか変な顔をしていた。
「愛想ねぇな。なんとか喋れよ御山」
金髪の先輩に小言を言われて、御山と呼ばれたおしとやかな先輩は、スゥゥと深呼吸した。──かと思いきや。
「まいどありでぇす! あははーっはっはーっはっは!」
「はぁ?」
「だから、加奈子は喋るな動くなって言ってんじゃん……」
「だって、喋れって言われたからさ!」
「やめなよ、黙ってれば美人なんだから、置物として存在しててくれよ」
「正直そろそろ限界だったのよねー? 本気出してもいい?」
「だめだって!」
突然テンションが上がり始めた御山先輩をショートウルフの先輩が黙らせようとしてまた小競り合いが発生する。私はその様子を見て暫し唖然とした。おしとやかなお嬢様だと思って話しかけたのに、イメージ崩壊も甚だしい。私は自分の常識力を疑い始めた。
「びっくりしただろう? うちのクラスメイトが悪かったね。まあ、あまり関わり合いにならない方いいよ」
困惑している私と心羽先輩に声をかけてきたのは、ずっと様子を見ていた三つ編みの先輩だった。この人はほかの四人と違って落ち着いているように思える。
よかった助かった……。と私たちはホッとため息をついたのだった。
「そうね。あの人たち、人の胃袋が無限だと思って、無限に食べ物食べさせてくるから困る」
「でも楽しかったですね」
「うん」
料理部でひたすらクレープを食べさせられた私と心羽先輩。腹ごしらえしてからダンスと思ったけれど、流石に今の状態でダンスはキツいかもしれない。それに、満腹になったからか眠くなってきた。
「あっ、だめだもう眠い……」
「お腹いっぱいで眠くなるって、子どもみたい」
「むぅ……いいですもん。どーせタマは子どもなんですよわかってますよそんぐらい!」
「へそ曲げなくてもいいじゃない……」
眠くて、思わずぐずるようなことを言ってしまったけれど、心羽先輩は軽くあしらっただけで、少しふらついている私が人混みではぐれないように手を引いてくれたりする。こういうちょっとした気遣いというか、何気ない行動がいかにも『先輩』って感じだ。
しばらく歩いていると、私たちはクラスごとの屋台が並ぶグラウンドに出た。それぞれのクラスが自分たちで決めたものを売っているだけあって、やはり圧倒的に食べ物が多い。とてもいい匂いがして、食べたばかりだというのになぜかお腹が空いてくる。
「ここはやっぱり食べ物ばかりね……別のところ行こっか」
「は、はい。お任せします!」
今日のプランは全部心羽先輩にお任せしているので、私はひたすら心羽先輩に手を引かれて連れられているだけだ。お散歩中の犬ですらもっと意志を持って動くだろう。
と、誰かに突然行く手を遮られた。
見ると、髪を金髪に染めていかにも怖そうな先輩が仁王立ちしながらこちらを睨みつけている。髪色がわりと自由な星花女子学園だが、真っ金髪というのはなかなかいない。とはいえ、金髪自体は生徒会に羚衣優がいるので私は慣れている。──問題は目の前の先輩の風貌だった。
目つきは鋭く立ち居振る舞いは威圧的。手には何か看板のようなものを持っており、それがまた先輩の恐ろしさを強めている。私は咄嗟に心羽先輩の腕にしがみついた。心羽先輩は私の行動に少し驚いたようだったが、それよりも目の前の先輩に気圧されて足がすくんでしまっているようだ。
金髪の先輩は手に持った看板をグサッと地面に突き刺す。看板にはカラフルな絵柄と共に『ちゅろす♡』と書いてあった。そのギャップがまた怖い。
「お前、5組の渡橋だよな? ちょっと顔貸せよ」
「えっ、はっ、はぁ?」
「だからさぁ……ウチの屋台寄ってけっていってんの。それとも何か? 忙しいのか今?」
「い、いやぁ……あの、わたしは妹の方で……」
「そっか悪ぃ、似てたから……まあいいや渡橋の妹。姉の友人を助けると思ってチュロス食べてくれよ」
「えっと、まあいいですけど」
どうやら心羽先輩は姉の名前を出されると弱いらしい。
心羽先輩が答えると、金髪の先輩はフッと微笑んだ。先程までの威圧感はどこへやら、嬉しげな雰囲気が伝わってくる。
「よかった。アタシこんなナリだからさ、呼び込み任されてもみんな怖がって来てくんねぇのよ」
「は、はぁ……」
確かに初対面であんなにガンつけられたら怖い。私一人だけだったら即刻走って逃げ出していただろう。でも、こうして話を聞いてみると根はいい人そうだった。人は見かけによらないものだ。
「でもわたしたちさっき料理部でひたすらクレープを食べさせられて、お腹いっぱいなんですよね」
「まあまあそんなこと言わずに、一本でもいいから買ってくれよチュロス……」
心羽先輩と私は目を見合わせた。
「一本だけなら……」
渋々といった感じだが、なんとなく断るとこの金髪の先輩が何かしてきそうで怖かったというのもあったのかもしれない。とにかく私たちは、上機嫌になった金髪の先輩に連れられて、屋台のうちの一つにやってきた。
甘いいい匂いがする。チュロスというのは細長い揚げパンに砂糖をかけたようなお菓子で、主に都会のテーマパークなどで見かけることが多い。星花女子たちにとっては非日常感を味わえる食べ物ということで密かに人気なのだが、このクラスは金髪の先輩の客引きが上手くいっていないせいか、屋台の前に集まっている人影はまばらだった。そしてその数少ない客も、私たちが近づくと波が引くように去っていってしまった。よほど金髪の先輩は恐れられているらしい。
「うわぁ、また沙夜のやつがお客さん追い払ったわー、マジうける」
「いやいや、皆ボクの美しさに恐れをなしたのさ。いわば必然と言うべきだろうね」
「蜂谷殿、歌越殿、そろそろ真面目にやらないと売れ残りが大量に出ることになりますぞ!」
チュロスの店番をしているのはショートウルフの先輩と、おかっぱの先輩、サイドテールの先輩、おしとやかでお嬢様な先輩の四人組。少し離れたところで別の看板を持ちながら遠巻きにしている三つ編みおさげの先輩が一人。──なのだけど、なんだかなぜこのチュロスが売れていないのかわかる気がする。
「うるせーぞお前ら! ほら、お望み通り客連れてきてやったからな」
「へーえ、珍しいこともあるものだね」
「あぁ?」
「……なんでもない」
ショートウルフの先輩はニヤニヤしながら金髪の先輩を煽っていたが、金髪の先輩がひと睨みすると流石に黙った。
「明らかに人選ミスだろこれ。どーすんだよマジで」
「なせばなるーなさねばならぬーなにごともー、そう、人生万事サイオーガホース! 風の向くまま気の向くまま、流されていくだけさー!」
「うるせー!」
今度はおかっぱの先輩が愉快に歌い始め、金髪の先輩はツッコミが追いつかないようだ。その隙に、心羽先輩がサイドテールの先輩に声をかける。
「あの、せっかくなんでチュロス1つ……」
「あ、ありがとうございますぅぅぅ! このご恩、一生忘れませんぞ! この華視屋流々、命に替えても必ず──」
「えっ、えっ……」
あまりに先輩方がフリーダムすぎるので、さすがの心羽先輩も困惑気味だった。やっぱり、ここは私がなんとかしないと! 普段から個性豊かな生徒会の面々を相手にしているせいで、こういう人たちの扱いは慣れている。
正しい対処法はズバリ──無視!
ということで、私は一番話が通じそうなおしとやかな先輩に声をかけた。
「あの、タマも一つお願いします」
おしとやかな先輩は何も言わずにただこくこくと頷くと、私からお金を受け取って、代わりにできたてのチュロスを手渡してくれた。それみたことか話しかける相手を選べばなんとかなるんですよ! とドヤ顔で心羽先輩を振り返ると、先輩はなんか変な顔をしていた。
「愛想ねぇな。なんとか喋れよ御山」
金髪の先輩に小言を言われて、御山と呼ばれたおしとやかな先輩は、スゥゥと深呼吸した。──かと思いきや。
「まいどありでぇす! あははーっはっはーっはっは!」
「はぁ?」
「だから、加奈子は喋るな動くなって言ってんじゃん……」
「だって、喋れって言われたからさ!」
「やめなよ、黙ってれば美人なんだから、置物として存在しててくれよ」
「正直そろそろ限界だったのよねー? 本気出してもいい?」
「だめだって!」
突然テンションが上がり始めた御山先輩をショートウルフの先輩が黙らせようとしてまた小競り合いが発生する。私はその様子を見て暫し唖然とした。おしとやかなお嬢様だと思って話しかけたのに、イメージ崩壊も甚だしい。私は自分の常識力を疑い始めた。
「びっくりしただろう? うちのクラスメイトが悪かったね。まあ、あまり関わり合いにならない方いいよ」
困惑している私と心羽先輩に声をかけてきたのは、ずっと様子を見ていた三つ編みの先輩だった。この人はほかの四人と違って落ち着いているように思える。
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