夜行性の暴君

恩陀ドラック

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魔術の章

仲直り2

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 周辺を探したが壱重の気配は掴めず、昢覧は諦めて一旦明日紀の所に戻った。いい音がしただけの手緩いビンタが明日紀には充分な破壊力で、まるで魂が抜けたようになっている。壱重も爾覦島には行くはずだから気を落とすなと言って励まし、再び逃げるように部屋を出た。あんな明日紀は見ていられない。

 帰宅した昢覧を出迎えたのは絢次一頭だけだった。玄関のハイヒールで事情を察する。壱重は居間で知悠を相手にボール投げをしていた。大して面白くなさそうな壱重に比べ、ボールを追いかける知悠の生き生きしたことと言ったら。

 ――壱重さんが俺を見て、俺に向かってボールを投げる。拾うついでにボールを舐める。ボールを受け取った壱重さんの手に俺の唾液が付く。それが繰り返される……もう壱重さんを舐めているのと同じなのでは!?


「ここに居たんだね。外探してた」


 気が抜けた昢覧はラグに座り込んだ。走り回ったのはなんでもない。明日紀に疲れた。


「明日紀はどうだった?」

「落ち込んでたよ。しばらく部屋で大人しくしてんじゃねーかな。やっぱおかしいわ、あいつ。ガチで恋愛相談してくるし自分で自分のこと変だろーだって。もう恐怖なんだけど。なんであんななっちゃったんだろ」

「ああなったのは最後の実験の日から。その前に会ったときは普通だった」

「それって……」


 香織の死後は実験のとき以外三人別行動をしていた。明日紀がどこでなにをしていたのか細かいことは知らない。だが直近で最大の出来事は間違いなく悪魔召喚だ。明日紀がなにかされたとしたら、それができるのは悪魔くらいなものだろう。しかし変化の方向性が悪魔のイメージとあまりに乖離しており、その正答は突飛な仮説として隅に追いやられてしまった。昢覧たちは早々に原因の究明を諦め、明日紀にどう対応していくかに論点を絞った。


「さっきは暴走したけど、最近の明日紀は基本的に私が嫌がる事はしない。二人きりにならなければ私が受ける被害は減るはず。昢覧は常に明日紀と一緒にいるようにしてほしい」


 壱重を守るなら明日紀にくっついていた方がいい。壱重に張り付くと要らぬ勘繰りを招いて話が拗れる未来しか見えない。


「明日紀と二人か~。大丈夫かなあ」

「昔のこと思い出したの?」

「思い出してはない。昔の事はもういいんだ。明日紀とも話し合って一応解決したし。あれは封印すべき過去だよ。思い出しちゃいけないんだ。忘れよう壱重ちゃん」

「私が見てたこと聞いたんだ」

「頼むから忘れて!」


 昢覧が明日紀と二人になるのを躊躇ったのは誘惑を受けたせいだ。実は明日紀はからかっただけで実際事に及ぶつもりはない。少なくとも今は壱重しか愛したくなかった。食事で人間を抱くのも煩わしいくらいだ。だがそんな内心を昢覧は知らないし、聞いたところで信用できない。


「なんで今さら俺まで……」

「そうやって嫌がるから。前はデレデレして嫌な顔なんてしなかった。でも今は悪戯されても嬉しくないでしょ」

「確かに嬉しくはなんないね。てゆーかデレデレって……そんなふうに見えた?  見えたのか……じゃあそうかもね。ははは……」


 明日紀が初めて昢覧に手を出したのは魔の交差点での邂逅から数日後。崇人は明日紀を拒んだ。そういう態度を示した者は過去に何人もいた。性的嗜好や社会的立場など理由は様々。だが結局みんな最後には快楽に跪いた。違ったのは崇人だけ。精神干渉下でも嫌悪感を露わにするほど心の底から結紫とのセックスを嫌がった。結紫がますます気に入ったのは言うまでもない。ところが吸血鬼化した崇人は結紫に隷従してしまった。碧以に手を出さなかったのはそのせいだ。逃げない獲物は狩りの対象にならない。

 崇人が吸血鬼となった初めての夜、結紫に自分とセックスしたいかと問われ強く否定したのは理性で濾過された言葉だ。肉欲は常に結紫を欲していた。あれから二十余年の歳月を経て成長した昢覧は親吸血鬼への隷従から少しずつ自由になって、以前のように明日紀の裸体に目を奪われなくなりハグには友情しか感じないまで自分を取り戻していた。自由な崇人が戻ってきたようで明日紀は嬉しかった。さてどう料理してやろうかと計画を練っていたところで今回の異変が起きた。昢覧が無事でいられるのは悪魔のお陰だった。


「とにかく、嫌がるからちょっかい出されるの」

「そんな事言われても俺明日紀とそういう事したくないよ。男だし家族なのに」

「明日紀にそんな言い分が通用すると思う?」

「うぅ、明日紀め、なんて奴だ」


 ますます明日紀と二人になりたくなくなってしまった昢覧から泣きが入って、なるべく三人でいることで話が落ち着いた。これは応急処置だ。とりあえず先延ばしにしていた伝染型の方を解決しなければならない。昢覧たちは再び明日紀の待つ最上階へと向かった。







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