夜行性の暴君

恩陀ドラック

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ダンピールの章

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 マンションに帰宅した真貴まきは仕事の鞄を放り投げて、自分のベッドの上で営む男女に向かって般若の形相で歩み寄った。


「そんなに浮気したいかこの裏切り者!」


 上になっていた男を突き飛ばして、女には平手をお見舞いする。ぼんやりした二人に異変を感じるどころかますます激昂し、ブロンズ製の置物で男の頭部を強打した。額から血が滴る。もう一度置物を振りかざしたとき「動くな」と命じられ全身が硬直する。初めて聞く声の主を探して、唯一自由な眼球をぎょろぎょろと動かした。壁に掛けられた額の硝子に赤い光が反射している。この部屋にあんな物はなかった。


「おまえたちは続けろ」


 再び営みが始まり、汗、唾液、涙、愛液、精液、血液が白いシーツに染みを作っていく。立ち尽くしていた真貴は、自分の横を通ってベッドに上がった女から目が離せなくなった。泥臭い交わりに加わった彼女は汚されるほど清らかに彩られ、一人蓮の花のように気品を失わない。内から光が溢れ出ている。

 その美しい蓮の花はもう一人の女をベッドから蹴り落とした。同時に硬直が解けた真貴は筋肉と節々の痛みで床に手を着いた。


桃子ももこ……」


 落とされた女と真貴は交際関係にあった。二人はこの部屋で同棲している。真貴は自堕落な桃子の面倒を見てきた。借金を肩代わりして、就職も真貴の口利きでやっと決まって、家事だってほとんど真貴がやって、身体の方だって可愛がってやってるのに、いつまでもふらふらふらふら。嫌になったなら出ていけばいいのに、思わせ振りなことを言って利用して。


「私がどれだけっ……地獄に落ちろ!」


 首に指が食い込んで、桃子の白かった顔面が鬱血で赤黒くなる。そんな死に顔にまた腹が立って、真貴は彼女を持ち上げ叩き落して、平手打ちをし、足蹴にした。ふと横を見ると女と目が合った。目の覚めるような美貌が真貴を現実に引き戻し、また別の夢に誘う。

 見れば見るほど不釣り合いだった。桃子の浮気相手としても、間男の連れとしても、この部屋にも。彼女の正体がなんだったら納得できるだろう。返り血で染まり殺人者に微笑みを向ける美女に相応しい肩書を真貴は知らなかった。


「それを風呂場に持ってこい」


 そう言うと彼女は男を伴って一足先に浴室に行ってしまった。我に返ると桃子の死体は酷く重たい。どうにか毛布に包んで、やっとの思いで引き摺っていく。途中、浴室からぶつかるような音と男の呻き声が数回聞こえた。真貴が到着した頃には打って変わって静まり返っていた。

 中からドアが開けられ、びしょ濡れの美女が桃子の死体に手を伸ばす。出しっぱなしのシャワーの水が前屈みになった胸の先端から筋になって流れ落ち、赤い床を濯いで排水口に消えた。片手で持ち上げられた桃子は空の浴槽の中で赤い身体を折り畳んでいる男の上に重ねられた。遊び終わって片付けられる人形のようだった。


「名前を教えてください」


 彼女は真貴が差し出したタオルを受け取り問い掛けは無視した。真貴は水滴が次々と拭き取られるのをじっくり観察した。

 髪から落ちる雫を辿って、真貴も寝室へ戻る。取ろうとしていた下着をさっと取って足元に差し出した。まだ湿り気のある爪先がするりと通される。目と鼻の先にある膝頭にとうとう我慢の限界がきた真貴はそっと口を付けた。すべすべの内腿を舐め上げて、柔らかい割れ目にもキスをする。押し広げようとすると肩に脚を乗せられた。真貴はこの素晴らしい光景を生涯忘れないだろう。

 ぷにぷにでぬるぬるの綺麗でいやらしいそこは、どれだけ舐めても舐め足りない。愛液が溢れる様は何度見ても見飽きないし、クリトリスが可愛くて悪戯するのを止められない。剥いて、押して、扱いて、広げて、舐めて、吸って。ぴちゃぴちゃ、くにゅくにゅ、ぬぽぬぽ……時間も忘れて貪った。残念ながら脚を下ろされてしまったので、床に落ちていた下着を上まで引き上げる。

 見上げた先にはつんと存在を主張する乳首。ほんの少し膨らんだ乳輪と同じ、小さめでピンクがかってかわいらしい。今まで放っておいたお詫びにキスをした。くにゅくにゅと口の中で転がされるうちに固くなって、もっと構いたくなってくる。下から掬い上げておっぱい全体を揺らしたり、乳首だけ何度も弾いたり、強く吸ってみたり。こちらも名残惜しいが下着に収める。引き締まった腹部や脇、それに背中にもキスを贈り、服を着付けた。

 最後に向かい合って唇と唇を合わせる。しっとりして柔らかい。おまんこと同じくらい性的な唇。舌と舌で追いかけっこして、くすぐって、混ざり合った。唇を離し改めて女の美貌を見詰める。その煌めく瞳に自分の姿が映されているという事実は、眩暈がするほどの陶酔感を真貴にもたらした。桃子はろくでなしだったが、この夢のような女を連れて来てくれたことには感謝したい。失恋の痛みはもはや恋焦がれる苦しみに変わっていた。


「次はいつ貴女に会えますか?」


 壱重はあまり女が好きではない。男ならとりあえず挿入させておけば勝手に性感を高めてくれるから、こちらはどう痛めつけるか考えるだけでいい。しかし女は快楽も与えてやらないといけない。性に淡白な壱重には非常に面倒に感じる。その点、真貴は悪くなかった。所謂バリタチで奉仕は求めない。恋人を扼殺した後で別の女を口説く狂気も面白い。真貴はここまで一度も精神干渉を受けておらず、本心から壱重に尽くしたいと思っている。だから自分の名を呼ぶ栄誉を与えることにした。

 こうして新しい下僕の座を得た真貴から報せが届いたのは、香織の死から半年ほど経った頃だった。公務員をしている真貴は、日光アレルギーの子供を学校に通わせたいという相談があるという情報を掴み壱重に一報を入れた。そういう人間がいたら知らせるように言いつかっていたまでで、その意味するところは知らない。壱重が確認したところ、その子供はダンピールだった。再び巡って来た実験の機会に吸血鬼たちは沸き立つのであった。







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