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ダンピールの章
もう子供じゃないⅠ-1
しおりを挟む二回目の会議は一ヶ月後に行われた。前回の会議の後から野本家は全室に隠しカメラが配置され、三人の吸血鬼が交代で監視していた。これから視聴する動画はダンピールの生態を収めた貴重な資料だ。全員が注目する中、モニターに子供部屋が映し出された。カメラの真ん前で下半身を裸にした香織は、画面奥のベッドに上がり脚を広げた。背中を丸めて自分の股間を覗き込んでいる。しばらくそうしてから、人差し指で中央の突起をつついた。
「ひぃんっ」
強い刺激に驚き、また恐る恐るつついてみる。夢中になってつんつん、つんつん。くりくり、くりくり。
「あ、あ、あ、くっ~、はあ、はあ……」
初オナニーで初クリイキした瞬間だった。続けて別日のオナニー現場の数々が流れる。寝る前に自室で一人になったときが定番のオナニータイムだ。撮られているとも知らず仰向けで大胆に脚を広げ、ひたすらクリトリスをこする。鏡で観察しながら性器をいじくる日もあった。
視聴終了後、知悠は頭を抱えた。この仕打ちはいくらダンピールでも気の毒になる。オナニーする女性は珍しくないと昢覧が慰めの言葉を掛けるが、そういう問題ではない。昢覧は自分で言っておきながら、うっかり妹で想像してしまい微妙な気分になった。絢次は退屈そう。壱重は終始淡々としている。明日紀だけが上機嫌だ。
「ふふ、まさに思う壺。思い通りになるって気持ちが良いなあ」
事態が急展開を見せたのは明日紀が裏から手を回したためである。お風呂拒否は成長過程で起こる一般的なイベントに過ぎなかった。他に変化のない香織にとうとう我慢の限界がきた明日紀は、香織の同級生の女子を一人選び精神干渉を用いた。
明日紀の傀儡と化した彼女は香織を秘密の遊びに誘った。くすぐられて笑うのを我慢するという他愛もない遊び。人気のない場所でベタベタと身体を触られても、香織は別に嫌ではなかった。最近一番仲の良かった友達と疎遠になって淋しく思っていた香織は、むしろ新しい仲良しができて嬉しかった。友達の指が敏感な所を掠めたときは、恥ずかしさより気持ちの良さへの驚きが強かった。
「今のなに?」
「お股の真ん中のここ。触るとすごく気持ちいいんだよ」
友達が下着を下ろしてがに股になって見せてくれた。香織も真似して下着を下ろす。チャイムが鳴って、その日はそれだけで家に帰った。どうしてもあの快感が頭から離れなかった香織は、寝る前に下着を下ろして脚を広げた。続きは動画で観た通りだ。翌日からは友達と気持ちのいいところを触り合った。家でも毎晩オナニーをする。香織は完全に性に目覚めたと断定された。
明日紀は七歳の頃、近所の八歳の少年にフェラチオをしたことがあった。快感を覚えた少年は暇さえあればおちんちんする(彼はオナニーをこう表現した)ようになり、精通前なのに絶頂を感じるまでになった。彼は週に一度は最近したおちんちんについて明日紀に報告した。友達にも教えて触り合ったことや、それを大人に見つかりそうになったこと、今度友達のお兄さんのおちんちんするところを見せてもらう約束をしたことなど。話の最中もおちんちんしていて、達したあとで自分はおかしいのではないかと心配を始める。だが数日経つとまた呼ばれてもいないのに報告をしに来てイキ顔を披露するのだった。この経験を参考に誘導したところ、まんまと術中に嵌まってくれたというわけだ。
「その年で仕上がってる……明日紀の思い出話ってヤバイのしかないのな」
「無邪気な少年たちのほのぼのエピソードだよ?」
「悪い子」
壱重の一言は一部の男性に妙な気を起こさせた。
カメラに映らない変化もあった。出方にムラがあって薄かった香織のオーラがはっきりしたのだ。ダンピールと知らなければ人間と見間違う。伝染型吸血鬼にオーラを見る能力がないことは実証されており、これが偶然でないなら契約型吸血鬼を欺くためとしか考えられなかった。最悪の方向に向かう可能性が出てきてしまったことになる。
後日、いつもの如く力業で伝染型吸血鬼を連行した。威圧感の高い美形三人とガタイのいい強面二人に囲まれてすくみ上がる可哀想な伝染型男今泉陽介。これからこの男を使ってダンピールの有害性を検証する。最終的にセックスさせてみるわけだが陽介は難色を示した。繁殖を第一義とする伝染型吸血鬼が妊娠できない個体に興味を抱かないのは、当然予想される反応であった。
「満足する仕事をしたらご褒美をやるよ」
それがこの腕の中にあるものだとでも言うように、明日紀は壱重を抱き寄せて頬にキスを贈った。黙って目を伏せる壱重は従順で大人しいお嬢さんにしか見えない。これは効果覿面で、数名が息を呑んで壱重を見詰めた。
知悠は仕事を始めたことにして、香織の迎えを陽介にやらせた。下校から知悠が帰宅する深夜までの数時間は二人きりとなる。大人しかった性格が覚醒してから正反対になっていて、すぐ陽介と打ち解けた。香織の方から陽介に抱き付いて甘える仕草を見せる。陽介が子供の頃好きだった遊びとしてくすぐり合いの話題を出すと、香織はすぐ食い付いてきた。男性の体も触ると気持ちがいい部分があると知り驚き、強い興味を示した。
二人はくすぐり合いと称した相互手淫を始めた。香織が先にいかされる。つい最近自慰を覚えたダンピールでは、性交のために生きている伝染型男に敵わなかった。父親譲りの強い性欲を持つ香織が一度で満足できるはずがなく、何度もそれをおねだりした。フェラチオ、玉舐め、肛門舐め。精液を飲む。オナニーを見せる。騎乗位素股での腰振り。これらを数日かけて仕込まれて、香織は嬉々として習得していった。
香織と会っていない間、陽介は経過観察という厳しい監視下に置かれた。どこへ行くにも何をするにも契約型吸血鬼が付いて回る。普段通りに行動できるとはいえ落ち着かない。特に壱重の番のときは完全に羞恥プレイだった。我慢しようという発想はない。この待遇に一部から強い反発の声が上がったが明日紀は取り合わなかった。ここまで陽介の容態に変化がなく、実験は次の段階へ進められる。
「前に昢覧おにいさんと一緒に遊びに行ったところがあっただろう? あそこに、今度は明日紀さんたちも一緒に全員で行かないかって」
ここから先は実験を肉眼で観察するため舞台を変える。時間ぎりぎりまで快楽を貪っていた香織は何食わぬ顔で帰宅した知悠を出迎え、旅行の提案に大喜びした。
「陽介も是非一緒にって言われたんだけど、どう?」
「行きます」
演技力はともかく、陽介も打合せ通りの台詞を吐いた。
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