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ダンピールの章
一人称は俺2
しおりを挟む「そもそも吸血鬼に魔術は使えない」
「あー、怒られるから」
「いや、そういうんじゃなくて人外には使えない。なんだか知らないけど、人間にしか使えないことになってる。魔術師は人間から派生したジョブで、魔術は固有スキルみたいな」
「へえ~、明日紀は本当に色んなこと知ってるねえ」
期待以上の知識を披露されて昢覧は素直に感心した。初めから明日紀に教えてもらえばよかったかも知れない。だが、魔術師が人狼や吸血鬼を作れることは知らないようだ。他の魔術師が数日かけて魔術を完成させていた中で、知悠を操って次から次へと人を殺させていた田坂はかなりのやり手だったに違いない。
「ふふ、伊達に長生きしてませんよ。なんでも訊いてちょうだい」
「はい、質問! 魔術師は誰に生贄を捧げてんの? やっぱり悪魔?」
「それね。魔術師もよくわかってないんだ。すごい遠い存在で、会えないし話もできないんだって。だから生贄送りました了解くらいの簡単なやりとりも、雰囲気でなんとかしてるって。
悪魔の方は会おうと思えば会えるけど、目の前に来られると雑談とかできる雰囲気じゃなくて、たぶん今まで誰もそんな質問したことないんじゃないかな。別に知らなくても困らないし、怒られたら嫌だし。だからその質問の答えはわからない」
「そっかー。もいっこ気になったんだけど、例えばの話だよ? ダンピールが滅茶苦茶強かったとするじゃん。戦っても絶対殺されちゃう。勝ち目無し。死にたくなけりゃ逃げるしかないってくらいの。そうなったとしたら、悪魔はどうすると思う? 敵前逃亡は死刑? 捕まえて戦わせる? でもそれって吸血鬼全体を危ない目に合わせないっていうのに矛盾してるよね?」
「そんなの考えてもみなかった。でも確かに……」
長い間他の追随を許さない最強種の一人として食物連鎖の頂点に君臨してきた明日紀は、吸血鬼を上回る強敵が現れるなど想像だにしていなかった。昢覧の疑問はもっともだ。恐ろしい支配者であると同時に守護者でもある悪魔。自らが命を与えた種族が滅びの危機に瀕したとき、はたして手を差し伸べてくれるのだろうか。一介の吸血鬼がいくら考えたところで答えの出る問題ではなかった。
「あー早くダンピールが大きくならないかな。あれが敵か味方か分かればどうすればいいか分かるのに。もう俺が開発してやろうかな」
「あんな子供でもいけるのかよ。明日紀、守備範囲広過ぎだろ……」
児童はあまり人気のメニューではないがありふれている。明日紀の食の好みは至って普通だ。
「昢覧が偏食なだけなんだよなあ……あ、最近は男も大丈夫になったんだっけ」
「は? なにそれ」
「絢次としてるんでしょ?」
「はあー!? なんで俺が絢次と!?」
「この前壱重に慰めてもらってたじゃない」
絢次に新しいサービスを強要された数日後、昢覧は壱重に会いに行き、何も聞かないで慰めてほしいと言って、ハグしてすりすりなでなでしてもらった。野郎の体に触れたくなかったので、一緒に居た明日紀からのハグはきっぱりお断りした。今までベッドの上で起きたあれこれはペットがしたおいただから、別になんの抵抗もなく喋っていた。でも自分が絢次に手コキしてやってるなんて知られたくない。そうして多くを語らなかったため、明日紀は二人が行く処まで行き着いたのだと思ってしまったのだった。
「誤解だ。してない。明日紀が想像してるようなことは断じてしてない!」
「じゃああれは壱重に抱きつきたかっただけか」
「待って、それも誤解ぃ」
「おい絢次! おまえたちどこまでやってるんだ」
「言わなくていい黙ってろ!」
寝室から出てきた絢次は、手コキまでだと正直に答えた。
「黙ってろって言ってんだろぉぉ!!」
「それだけ? 絢次はずいぶん我慢強いな。もう犯せば? おまえが鳴いて謝れば許してくれるよ。な、昢覧」
「な、じゃねえよ。なんてことを言うんだ」
「だってじれったくて。ダンピールの前に昢覧を開発してやろうか?」
「しなくていい!!!」
不穏な発言を残して明日紀は出て行った。一眠りして食事を摂ったらまた一からやり込みプレイに没頭するつもりだ。
「絢次。明日紀の言ったことを真に受けるなよ」
「……」
「け、絢次くん?」
「なんで黙ってたの?」
「だって……恥ずかしいだろ……」
「昢覧が魔術を調べてるの、まだ内緒にしないとだめ?」
「そっちの話かよ!」
昢覧が魔術関連のことを明日紀たちに黙っていたのは悪魔からの制裁を恐れてのこと。だが先程の明日紀の話でその心配が無用とわかった。それでも黙っていたのはもう少し玩具を独り占めしたかったから。差し迫った状況ではないのだからそれくらいは許してほしい。必要とあらば魔術師が偽吸血鬼を作れる情報はただちに開示するつもりでいる。
「明日紀に怒られる」
「ちょっと黙ってたくらいで明日紀は怒らねーよ。おまえも知悠も明日紀にビビり過ぎ。いい奴なのに」
明日紀がいい奴なのは相手による。絢次は自分がその中に入っているとは思えなかったし、秘密の共有を少し重荷に感じていた。明日紀に怒りを向けられたら、きっと心臓が凍りつくくらい恐ろしい。頼りになるのか暢気なだけなのか分からない昢覧に、絢次は不安を感じずにいられなかった。
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