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ダンピールの章
ヴァンパイアハンターヴァンパイア
しおりを挟む親子吸血鬼との出会いから一月。昢覧は立て続けに四人の伝染型吸血鬼を発見していた。いずれも男で、女吸血鬼の色香に惑わされて噛みつかれている。吸血鬼化したあとで家族や友人と連絡を取る者はいなかった。肉欲に溺れてそれまでの人間関係を忘れていく。中途半端に倫理観を持ち合わせているところも共通している。基本的に暴力を好まない。繁殖したがる割に生れる子供には全く興味を示さない。そういう人間を選んだというより、全部ひっくるめての吸血鬼化のようだ。
情報を聞き出した後はヴァンパイアハンターごっこをした。十字架を片手に伝染型を追い詰め、弱らせたところで心臓に白木の杭をぶち込む。映画の方のヴァンパイアハンターだ。欠損が再生されないのが確認できたので、一人だけ殺さないで頭皮を剥いでから逃がしてみた。頭皮がなくなると重力で皮膚が下がって、情けなかった顔がもっと情けなくなった。明日紀と壱重は送られてきた画像を見て大笑いした。
明日紀は壱重を一人で徘徊させた。彼女を同伴させたのは単純に一人旅に飽きたのと、こうやって街を歩かせて囮にするためだ。伝染型は人外の世界に疎く、自分たちが唯一の吸血鬼と思っている。真の吸血鬼を知らない彼らは接し方も弁えていない。焦点を合わせない。関心を示さない。空気になってやり過ごす。これが街で吸血鬼に遭遇したときの正しい対処法なのだが、一定の距離を保ってついてくる男がいた。風貌と挙動から伝染型吸血鬼に違いない。
その様子を明日紀はビルの屋上から見守っていた。人間の醸す陽炎の中で二人の人外を見分けるのは容易い。どこかに伝染型女が現れるのを期待して気配を殺す。
明日紀たちも二ヶ月で四人の伝染型を発見している。今夜の男で五人目だ。こちらの収穫も昢覧の報告と大差ない。伝染型吸血鬼は肉欲の奴隷。子孫繫栄に熱心とも言える。相手に暴力を振るわないのも、母体を傷付けないためと考えれば腑に落ちた。ダンピール対策を取るのであれば伝染型男駆除と並行して、餌食にされた女を捜し出さねば片手落ちだ。しかし伝染型男は女をとっかえひっかえして相手の素性など覚えていない。まだダンピールが脅威と決まったわけではないし、実質不可能なのでその場に居る女以外は無視することにした。
数人の同族とも出会い、敵意を見せた者は殺した。被害者が片手で数えきれなくなったとき、壱重が忠告した。
「ちょっとやりすぎ」
死んだ同族の中には力の強い者もいた。あれの死は多くの人外に影響を与えるだろう。残された餌場に流れ込んだ同族同士の争い。グール達も一枚岩ではない。新しい取引先や、それが決まるまでの食料の仕入れを巡って争いになる恐れもある。
明日紀は生来用心深い。運転を控え転居や改名を繰り返すのも、そういう性質の表れだ。そこまでしている吸血鬼はなかなかいない。最近はそういった気配りが億劫になってきていた。もっと自由に、何も気にしないで振舞いたい。そうして考えなしにした結果が同族のための活動で同族殺しという本末転倒である。
「年なのかな……」
若くして時を止めた明日紀には老いが解らない。わからない事をわからない物のせいにして、わかった気になって先送りにする。そういう姑息さは確かに年のせいかも知れない。だがまだ可愛い壱重の進言ならば素直に聞き入れようという心の柔軟性はあった。反省した明日紀はそれから同族殺しはなるべく控えることにした。
眼下では壱重が伝染型男に近付いていくのが見えた。遠巻きに見ているばかりの男に痺れを切らしたのだろう。男の腰が引けている。伝染型男は揃いも揃って不甲斐ない。今夜の獲物も例にもれず軽薄で臆病で脆弱。一時間と数分の後に、仕事を終えた壱重が明日紀の元へ戻ってきた。
「おかえり壱重。おつかれさま」
頬に労いのキスを受けて、壱重はほんの少し頷いた。素っ気無い態度が可愛らしい。離れようとする壱重を捕まえて深く口付ける。人目につきづらい場所と性質だが、絶対ではない。なんの前触れもなく始まった屋外での愛撫に、さっきまで男を誘惑していた女は可哀想なくらい恥ずかしがって、押し退けようとする手が震えている。
たっぷりと唾液を堪能してから、明日紀は壱重の前を開けさせた。乳首を口に含む。もっと困らせたくて、わざと下品な音を立てて吸い付いた。
「後ろ向いてスカートを持ち上げて」
総レースの繊細な下着が足首まで下ろされる。明日紀はすぐには触れず、まずは目で楽しんだ。無防備に晒された形のいい尻が、恥ずかしそうにもじもじと揺れている。壱重が大人しく命令に従っているのは、抵抗が明日紀を喜ばせるだけだとわかっているから。だが羞恥と怒りで紅潮した頬が、結局彼を喜ばせてしまっている。
尻肉を割り開いて肛門を舐めた。自然と腰が突き出され、足が開いてくる。柔肉の合間に差し込まれた指が、唾液とは違うぬかるみを掻き混ぜて水音を立てた。
「ふふ、外でもちゃんと感じてくれるんだね」
場所も時間も関係ない。明日紀が望めばそれが愛し合うタイミングとなる。わかった上での意地悪だ。心が搔き乱された壱重の奥を、明日紀は熱い異物で一息に蹂躙した。反論の機会など与えない。怯えていた肉体を、ゆるゆると揺らして従順にさせる。やがて訪れた長く続く穏やかな絶頂に壱重が降参した。
「もうやめて」
「気持ちいいって言ってごらん。もっと声を聞かせて」
感じるがままに声を上げろということだ。密室でも抑えている声を、この開かれた空間で。気持ちがいいなんて、今まで口にしたことがない。そんなのは肉欲に溺れた者が発する言葉だ。感じてしまっているだけで恥ずかしいのに、喜んでいるなんて欲しがっているなんて認めたくない。
さっきまでの優しさは打ち遣って、明日紀は短いストロークで激しく責め立てた。絶頂に達して力が入らない壱重の片足を持ち上げる。丸見えになった結合部分を夜風が撫でた。激しい羞恥心が壱重の心を弱くする。
「んうぅ!」
乳首を絞られて身体の中心が痺れた。誇りが明日紀に上塗りされる。
「ああっ、やっ……あっ、あ、あ、も、やめ……ああっ」
「可愛い壱重。こんなに乱れて」
嬌声が夜に溶ける。明日紀はいやいやを繰り返す壱重を離さなかった。がくがくと震える体にこれでもかと杭を打ち込む。壱重はもう周りの事など気にしていられなくなり、完全に明日紀に身を委ねた。それが明日紀の見たい壱重の姿だった。
それ以降、怒った壱重とは別行動になった。再会したのは三ヶ月後に自宅で。昢覧も交えて旅の報告を交わすも目新しい情報はなかった。ダンピールも正常に成長していて特にこれといった出来事はない。その後も一人か複数で伝染型探しの旅に出ては戻る暮らしが続いた。
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