夜行性の暴君

恩陀ドラック

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吸血鬼の章

吸血鬼についてⅡ

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 翌日。紫束と飯田が外出し、家には結紫と碧以の二人しかいない。


「結紫、ちょっといい?」

「いいよー」


 返事はいいがゲームの画面から目を離さない。


「吸血鬼って死んだらどうなる?」

「消えるよ。俺らの体は実在してるけどこの世の存在じゃないの。借り物みたいな。だから死体は残らないし、カメラに映らないのもそのせいだって言われてる」

「借り物……って誰から?」

「おっ、いい質問。誰だと思う~?」


 結紫はゲームを一時停止してコントローラーを置いた。


「いや分からねえよ。ヒントくれ、ヒント」

「じゃあヒント其の一。たまに映画に出てきます」

「たまに映画に出てきて体を貸してくれる人……フランケンシュタイン的な?」

「ブブー、はずれ。ヒント其の二。魔法陣から出てきます」

「えっ、嘘でしょ?  まじで?  悪魔?」

「正解!」

「いや嘘だろ、いくらなんでも悪魔って。え、本当に?」

「吸血鬼嘘つかない」

「その台詞がすでに嘘じゃん!  待って待って、吸血鬼は吸血で仲間を増やすんだろ?  悪魔から借りてるってどういうこと!?」

「もー碧以ぃ、まだそんな事言ってんのぉ?  吸血なんか特に意味ないんだってば。今まで噛みついても何も起こらなかったでしょ?」


 ではどうやって同族を増やすのか。それには吸血鬼にしたい人間を供物にして悪魔を呼び出す。捧げられた人間は悪魔との契約によって吸血鬼に変えられる。儀式を執り行った吸血鬼が親、新生吸血鬼はその子となる。


「謎システム!  つか俺悪魔と契約してたのかよ」

「悪魔は本っ当に危ないから気を付けてね。前にやっちゃいけない事の説明したでしょ。あれ、取り締まってるの悪魔だよ。美形じゃないと吸血鬼になれないのも、悪魔が美形好きだから。変なの捧げた召喚者が消されたって話もある。めちゃくちゃ強くて、ちょっと何考えてるか分からないから必要最低限しか関わっちゃ駄目。あんまり悪魔のことを話題にしたり考えたりするのも駄目。勘づかれる。話戻すけど、だから吸血鬼の体っていうのはあんまりこの世のものじゃないんだ。死ぬと消えるのも、たぶん元の持ち主のところに戻っていくんだと思う」

「地獄行き確定なのひどくない?」


 別に天国に行きたいと思っていたわけじゃないが、吸血鬼として真っ当な生活をしているだけで地獄行きは理不尽に感じた。


「地獄って人間が考えてるような場所じゃないみたいだよ。あと魂になったら自我とかなくなるっぽい」

「へぇ~。じゃあいっか」

「相変わらず軽いなあ」

「だって考えても変えられないことを悩んでもしょうがなくね?  今度召喚の仕方教えて。あれ、でも危ないんだっけ。よくそんな事したなあ!」

「碧以とずっと一緒に居たかったから」


 結紫は少し恥ずかし気に微笑んだ。上目遣いで小首を傾げるというあざとさ。たまにこうした不意打ちを喰らって、その度に碧以はどぎまぎしていた。


「お、俺も結紫と一緒に居たい……」


 頬を赤らめて好意に応えた。碧以は同性愛者ではないのだが、結紫にだけはなんだか弱い。結紫とは家族で仲間で同族で友達で理解者で、自分を受け入れてくれて一緒に笑ってくれるしかわいい。もし結紫が酷いことをしたとしても、かわいいから許してしまう気がする。


「ところでどうして急に死んだときのことが気になったの?」

「ああ、基やんの試合会場で吸血鬼に会ったんだ。会っただけでなんとなく分かるもんなんだな。んで、そいつがなんか感じ悪くて。殺したらどうかなるのかなって気になった」

「感じ悪いだけで殺そうとする辺り碧以らしいわ」

「最悪の場合だよ?」


 碧以は口を尖らせて眉尻を下げた。茶目っ気を見せても殺そうとしていることに変わりはない。





 飯田と別れて入った会場にそいつは居た。見た目は二十代前半の男。むさくるしい野郎ばかりの観客の中で、雰囲気のある中性的美形は浮いていた。試合を見ているといつの間にか隣に立っていたそいつが、すんと鼻から空気を吸い込んだ。


「臭うな……たくさん浴びただろう」

「血のことなら、まあね。だめかな」


 そいつは碧以の答えをせせら笑った。吸血鬼が血を浴びるなんて、碧以にとっては猫が顔を洗うくらい普通のことだ。何が可笑しいのかさっぱりわからなかった。


「今はそういう時代じゃない。おまえらのような野蛮な奴らは時代遅れなんだ。他にいくらでもやりようはある」

「へー。どんなやり方?」

「飼育だ」

「つまんなそう」


 遠慮のない即答がそいつをイラつかせた。碧以に食って掛かる。


「馬鹿が!  おまえみたいな奴がいるから──」


 吸血鬼の隠密性は自分の声で破られる。大きな声は周囲の人間に自分の存在を知らしめ、美貌故に注目を集めることになってしまう。そいつは自分の失態に気付くと舌打ちをして、また気配を消して会場を出て行った。




「絶対そいつ知ってる奴だわー。名前なんだっけ~」


 名前は思い出せないが結紫の知り合いらしい。不殺を旨とする一派に属している男だ。彼らは殺さない食事を推奨していて、人間の家畜化がもっともスマートでサスティナブルな方法としている。非常に手間がかかる上に質の低い食事しか得られないため、真っ当な吸血鬼からは嫌われている。


「なんでそんなのがこの辺に居るんだ。面倒くせぇ」


 元々親密な間柄であったり吸血鬼化を伴う関係でもない限り、吸血鬼同士で交流を持つことはほとんどない。完全に単独で生きていける吸血鬼は仲間を作る必要がないし、上手くいかない場合が多いからだ。吸血鬼になる人間は概して人間性に問題がある。強い自我と攻撃性を有し、同族への仲間意識や協調性が希薄だ。そんな譲らない者同士が出会えば早晩不和が生じる。

 もし軋轢が納まりのつかない次元まで発展したら殺し合いになる。ルールはない。直接対決はもちろん、操った人間を差し向けてもいい。射出武器で遠隔から攻撃するのも有りだ。敵が完全に屈服するまで蹂躙する。間違っても報復など企てないよう、とことんまで追い詰める。たいていの場合死を以って決着とする。

 碧以も、もしまた会って舐めた態度を取られたら殺す気でいる。他所の領域を侵しただけで充分な理由だ。ただ気になるのは悪魔の存在。


「勝手に殺したら怒られない?」

「んーん。俺も何人かったことあるけど別に何もなかったよ」


 吸血鬼も死に際には痙攣したり、絶望した眼をするのだろうか。想像して碧以はワクワクした。






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