夜行性の暴君

恩陀ドラック

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吸血鬼の章

デビュー戦

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 紫束の運転で三人は出掛けた。車は山を下り田園の中を走る。助手席の崇人は外の景色を眺めるのに夢中になっていた。申し訳程度の街灯しかないのに、まるで昼間のようによく見える。吸血鬼の能力だ。昨日の夜も見えていたはずだが、衝撃事件の数々に振り回されて気がつかなかった。


「居た」


 田んぼの中の四つ辻に若い女が一人で立っている。この日のために事前に仕込んであった女だ。精神干渉で操られていて従順そのもの。後部座席に引っ張り込まれても抵抗しない。街灯から遠いこの場所で車のライトを落とすと、女からは横に居る結紫の顔もよく見えなかった。


「全部脱げ」


 結紫は女が脱ぎ終わるまでに取り上げた荷物の検査をした。それから女を仰向けにさせて、尻の穴まで見える体勢にすると膣に指を突っ込んだ。くちゅくちゅと濡れた音が鳴る。


「何も入ってないだろうな?」

「はい。あぁっ」

「通信機器を仕込む奴もいるから」


 急に始まった友人の濡れ場に困惑する崇人のため、紫束が解説を入れた。怪しいものは何も見つからず、服を着させると車は市街地へ向かって走り出した。





 到着したのは街中にある高級マンション。監視カメラがあちこちに設置されているが、吸血鬼はカメラには映らないため気にしなくていいそうだ。人を殺しても証拠一つ残さない。見咎められることもない。仮に目撃されたとしても精神干渉で如何様にもできる。つい先日まで殺される側の立場だった崇人は複雑な思いになった。

 最上階の部屋は、燃やしたあの家と同じように物が少なかった。広い部屋が余計に広く見える。高い天井から下がるシャンデリアが明かりを灯すことはない。女を前に立たせて、三人は真ん中にポツンと置かれたソファーに腰を下ろした。崇人はこれからこの女を使って吸血鬼の食事の作法を教えてもらう。結紫が説明を始めた。


「吸血鬼のエネルギー源は人間の死の恐怖と性的興奮。この二つを同時に、ちょうどよく釣り合ってる状態を目指して。死んじゃうかも、でも気持ち良くて止められない、みたいなね。獲物の状態は見ればわかる……人間の感情が見えるって話しはしたっけ?」


 吸血鬼は人間の感情がオーラとして見える。言われてみれば、崇人は最近視界が揺らぐことがたまにあった。ヴァンパイアハンターと戦ったときや、下僕が紫束に殴られたとき。あれは気のせいでも疲れ目でもなく、今思えばオーラが見えていたのだろう。


「具体的なやり方は、やっぱりセックスしながら流血させるのが一般的になるね。相手は人間じゃないとダメ。なるべくキレイなやつがいい。上手くいくとなんか陽炎みたいなもやっとしたものが出てくるんだけど、それがごはんだから吸ってみて」

「血じゃなくてもやもやがごはん……?」

「俺たち、血、吸わない」

「吸血鬼なのに!?」


 吸血鬼という呼称は、噛みついて流血させることから生まれた誤解に因る。死を感じさせるのが目的で、血液そのものに意味はない。芽生えかけていた崇人の吸血鬼としてのアイデンティティがまたゼロに戻った。


「じゃあ風呂場に移動して実践してみよう」


 崇人がチラリと見ると、紫束は目も合わさずしっしっと手を振った。紫束に参加する気は一切ない。崇人も、待ってる間どうするのかなと思って見ただけである。参加されても気まずい思いをするだけだ。というか既に気まずい。






 広々とした風呂場に全裸の男女が三人。複数プレイ未経験な崇人はそわそわと落ち着かない。さっき服を脱ぐ時、女より結紫に目が行った。超絶美少年のアンバランスな完成形が露わにされていく様は感動すら覚えた。彼は股間も美しかった。男の股間にそんな感想を持つ日がこようとは。普段あまり感じたことのない羞恥心を感じてしまう。


「俺が出すから、出たら吸ってね」


 まずは結紫が愛撫をして女の死の恐怖と性的快楽を煽ってもやもやを出すから、それを吸えという話だ。だけど初めて結紫の裸体をみたせいで崇人はちょっと違う想像をしてしまった。今はまだ力ない結紫の男根が上を向き、その先端からぴゅっと飛び出す白い液体。余韻に震えるピンクの亀頭。他の男なら断固お断りだけど、結紫のちんこなら迷わず吸える。飲めというなら飲んでやる。今まで女にさせてたことも結紫のためなら全部できる。結紫とだったらどんなことでも――

 ぽつりと滴り落ちた血の鮮やかさが崇人を現実に引き戻した。女の白い裸体に赤くうねる血痕を遡ると、目から赤光を放つ結紫が居た。首筋に牙が食い込むのと同時に乳房と股間を愛撫されて、女は嬌声のような悲鳴を上げている。


「おお~、吸血鬼だあ!  なんか観たことあるやつぅ!」

「崇人、出たのわかる?」


 注意して目を凝らすと、ぼんやりとしていた女のオーラが濃厚に広がるのが見えた。近付いて深呼吸してみると、それは気付け薬のように崇人を覚醒させた。ふわふわしていた輪郭が、ばしっと実線で縁取りされたような。今まで感じたことのない刺激が体を駆け巡る。


「すご……」

「触ってみな」


 女の胸を揉むと、眉を顰め痛みと快感を堪えている。血と一緒に "もや" が滲み出た。


「バランスを保てればそのまま最期まで行けるよ」


 崇人は女を導くのに集中した。噛みつき、揉みしだき、突き刺し、舐めまわし、貫き、引き裂く。そうして出てきたものは崇人を昂らせ、あっという間に悦楽の波に攫われてしまった。






 どれだけの時間夢中になっていただろうか。人心地ついた崇人は所々乾いた血溜まりの中に腰を下ろし、ひとつ大きく息を吐いた。待ち構えていたように浴室のドアがノックされ、いつの間にか居なくなっていた結紫がひょいと顔を出す。


「崇人くーん。時間なくなるから、そろそろ出る準備してねー」

「ああ」

「あれ、殺さないの?」


 床に転がされた女は、絶頂の余韻と終焉の気配にぴくぴくと痙攣していた。


「死ぬとこ見てる」

「ふっ、あはは、なにそのデザートタイム。やっぱお前人間に向いてないわ、ははは!」


 もはや隠す気がない崇人は見られているのも構わず股間を扱いて射精した。赤黒い血に点々と散らばる白濁。物になった人。素晴らしい対比が崇人を得も言われぬ多幸感で満たした。








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