夜行性の暴君

恩陀ドラック

文字の大きさ
上 下
5 / 119
吸血鬼の章

吸血鬼についてⅠ

しおりを挟む
 


 玄関と反対の北側にあるキッチンにぽつぽつと集まった吸血鬼は、閉じたブラインドの横から入り込む夕日を避けて各々腰を落ち着けた。これからここで崇人は吸血鬼としての訓戒を授かる。


「まず絶対やっちゃいけないことから教えるね」


 決して許されない行いとは、吸血鬼全体の不利益になるようなこと。例えば種族の存亡に関わるような危機を招いたり、人間が本来知り得ない知識を与えたりしてはならない。禁を犯したら死ぬ。


「吸血鬼にも法律とかあるんだな」


 禁止事項があるということは取り締まる誰かがいる。アウトローの印象があったから、吸血鬼にも社会があると知り驚きだ。


「法律というか……まぁ詳しくは慣れてきたら教えてあげる。それさえ守ればあとは自由だよ。次はやったら死んじゃうことだけど」


 吸血鬼は頭部と心臓をどちらか一方でも失うと死ぬ。この二つの部位は欠損してしまうと再生できない。最大の弱点は日光だ。条件によって多少の差異はあるが、命取りになると思っておいて間違いはない。そのため日中は全身を覆う格好で過ごす吸血鬼も多い。直射日光さえ防げれば昼間でも自由に動けるのだ。
そうなるとヴァンパイアハンターの定石、朝の奇襲が通用しなくなる。特に日本では、人間が武器を携帯しやすい夜間の襲撃が珍しくない。敵はいつどこから襲ってくるかわからない。人であった頃のように法や倫理で守られた生活を送れると思ったら大間違いだ。


「十字架は?」


 崇人の知る吸血鬼は聖水やニンニクも苦手だ。映画だと首からニンニクを下げた神父が十字架と聖水を両手に持って吸血鬼を追い詰めていた。他には銀、白木の杭、流水も苦手ではなかったか。


「今言ったやつ全部ノーダメ。そんなに弱点だらけだったらやってけねーわ」


 それらで怯む吸血鬼は映画の真似をしているだけだ。ふざけたり人間を騙したりしたいときにやる。


「あとは吸血鬼の種族特性について説明するね」


 まずは不死と言っても過言ではない再生能力の高さ。不老で病気もしない。次に高い身体能力。人間の数十倍の膂力と持久力、研ぎ澄まされた感覚を持つ。特に視覚は猫のように暗闇を見通し、実体のないものも見ることができる。必要なときには勝手に出てくる切れ味鋭い爪と牙もあり、その身一つで獲物を仕留めるのに充分な身体能力を有している。

 次いで隠密性。人間は吸血鬼を認識できない。カメラで写すこともできない。さらに人間限定で意識を乗っ取り肉体を操り記憶を書き換えることができる。それで起こさせた交通事故を、人間だった崇人も目撃している。あの交差点で起きた事故はほとんど結紫たちが仕組んだものだ。別に深い意味はない。なんの変哲もない交差点で事故を頻発させて、魔の交差点と呼ばせるという遊びだ。操り人形にできる人数と期間は吸血鬼による。今の崇人では目の前の一人でやっとだろうが、もっと経験を積めば人数も期間も増える。隠密性と精神干渉を併せれば誰にも、本人にも知られず獲物を仕留めることが可能だ。


「それだけ?  あれは?  あれもできるんでしょ?」


 崇人が期待しているのは変身だ。霧になって隙間を通ったり、蝙蝠になって空を飛んだり。残念ながらそういった能力はない。


「空飛べないからね」

「マントしても?」

「無理」


 きっぱり否定されて崇人は項垂れた。紫束は肩を震わせている。


「そんなに落ち込むなよー。吸血鬼になってよかったでしょ?  誰でもなれるんじゃないんだよ?  選ばれた人なんだから喜んでほしいなぁ」


 吸血鬼になれるのは並外れた美貌の持ち主だけ。能力も比例するらしい。そう説明されても崇人はピンとこなかった。


「そんな理由?  俺って見た目で選ばれたの?」

「あんたはすごく、良い」

「そ、そう?  ありがと。なんか紫束ちゃんに言われると照れるなぁ。ねえ結紫、紫束ちゃんが俺のこと格好いいって」

「聞いてたし。とりあえず説明はこんなとこかな。他にも色々あるけど思い出したら説明するわ。崇人もなんか分かんないことがあったらその都度訊いてね」







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

美咲の初体験

廣瀬純一
ファンタジー
男女の体が入れ替わってしまった美咲と拓也のお話です。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...