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秘密のお茶会
しおりを挟むミッキンディー教授は学生から陰で将軍と渾名されていた。長身で逞しい肉体をいつもぱりっとしたスリーピースのスーツとピカピカの革靴で固め、立派な髭に覆われた口は無駄口を叩かない。鋭い眼の上にある傷痕が威厳に迫力を添えている。若かりし頃友人たちとキャンプ中に木の枝に引っ掛けてできた傷なのだが、学生の間では敵の弾丸が掠めた痕という与太話が定説となっていた。常に厳格な態度で接していて学生との距離は近くない。ただ一人の例外を除いては。
「すみません教授、お茶まで淹れていただいて……」
「君は特別だからね、エスタルくん。好きなだけお食べ」
私ことパルヴァート・ミッキンディーは、可愛い茶飲み友達と二人だけのお茶会を楽しんでいた。今日のお茶菓子は、彼のために購入した高級チョコレートプラリネ。美しいギフトボックスを開けてやると、遠慮がちに一粒口へと運んだ。もぐもぐと口を動かしているところも可愛らしい。
エスタルくんは一言でいうと地味だ。周囲に埋没してまるで目立たない。だが一度彼の魅力に気付くと目を離せなくなる。新しい学生の中から彼を見つけて以来、私の心の一部分は彼に占領されてしまった。立場を利用してどんどん話しかけて、非常に遠慮深い彼をなんとかここまで手懐けた。
私室へ招くようになってからもエスタルくんの控えめな態度は変わらなかった。この関係を利用してやろうという打算などなく、毎回素直な心でティータイムを楽しんでいる。私へ向けられる視線には猜疑心の欠片も感じない。彼が期待するミッキンディー教授像を崩してがっかりさせたくないという気持ちと、その裏でたしかに燻る仄かなエロス。二つの感情がせめぎ合うスリルもまた一興だ。今のところ私は紳士であり続けている。
このことは他の誰にも内緒だ。一人の学生を特別扱いして、プライベート空間まで引き入れたことが知られたら色々面倒になる。しかし危惧していた日は突然訪れた。
「部屋に連れ込んで何もしなかったですって? 在学中の僕に手を出した男の話を信じろと? 本当のことを言いなさいパルヴァート」
「本当だトノア、私が嘘など吐くものか」
私をファーストネームで呼び、エスタルくんとの逢瀬を糾弾する青年は、秘書兼恋人のトノア・エントリクだ。出会った頃私は既にフラウスで教授の座についており、トノアは学生だった。もう十年以上の付き合いになる。
「自由なフラウスでも、学生と教授の交流は認められていないんですよ。それを性懲りもなく……あなたがこそこそと隠れて何をしていたか、学生たちが知ったらどう思うでしょう。クビになるかも知れないですね」
「本気じゃないだろう? 君を悲しませたのは謝るから冷静になってくれ。私は誓って疚しい事は何もしていない。愛するトノア、私は君と結ばれてから他の誰かと肌を重ねたことなどない。私には君だけだ。信じてほしい」
天地神明に誓って真実だ。まだ少年を脱し切れていなかったトノアが立派に成長して美しい青年となった今でも変わらず愛している。抱き締めようとすると、トノアは一歩後退ってキッと私を睨みつけた。
「確かめさせてください」
トノアは私のファスナーを下ろして男根を取り出した。根元に鼻を押し付け、すんすんと陰嚢の匂いを嗅いでいる。真面目でいつもしゃんとした印象のトノアは、実は毎日でもセックスしたがる好き者だ。そうなるように仕向けたのは私だが。
「はぁ、パルヴァートの匂い……味はどうかな」
先端を舌先でぺろぺろと舐め回され、だらりと垂れていた男根が徐々に首をもたげる。ぱくりと咥えられて完全に硬くなった。毎日しゃぶっているだけあって、トノアは的確に私を気持ちよくしてくる。まったく可愛い恋人だ。
「なかなか出ませんね……」
「まんこに入れさせてくれ、そうしたら早く出るだろう」
「まだ駄目です。見せてあげますから、早く無実を証明してください」
シックスナインで出てきたのは一発目の濃厚おちんぽミルクだった。トノアが予想していた通りの味だ。彼は恋人がまだ決定的な罪を犯していないことを知っていた。教授に釘を刺すより先に、お茶会帰りの間男から事情を聞いている。
「教授から誘われて断りづらいのはよく解りますけど、そこは勇気をもって断りましょう。もしそれで不利益を被るようなことがあれば助けを求めなさい。君の悪いようにはなりませんから」
「はい、エントリクさん、すみませんでした……」
「いいんですよ。エスタルくんは悪くありません。教授には僕からよく言っておきますから、安心してくださいね。そうだ、もしよければこれからは僕とお茶をしませんか。二人でミッキンディー教授の悪口を言いましょう」
ウインクすると落ち込んでいたエスタルくんが少し笑ってくれた。彼を知ったのは今回の件が切っ掛けだ。恋人を誑かした犯人を捜して、出てきたのがエスタルくん。間男にお仕置きしてやるつもりが一転、罠にかかった可哀想な子ウサギちゃんを助けてあげなくちゃという使命感が芽生えた。
パルヴァートに食われる前に阻止できて本当によかった。彼はまだ純情な部分もあった学生の僕に、自分からおねだりするようになるまで毎日精液を飲ませていたような男だ。将軍なんて呼ばれて怖がられている教授の中身が少し変態ですけべなおじさんだということは、僕だけが知っていればいい。これでも僕だってまだ彼を愛してる。
ところでお茶会の誘いは本気なのだけれど伝わったかしら。エスタルくんと二人でミルクティーを飲みたいな。美味しいクリームパイをご馳走してあげたい。
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