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渦巻く想い
しおりを挟む「ようウォルク。おまえら知り合いだったのか?」
「おはようございますビドラル先輩。俺とエスタルは高等学院ではずっと同じクラスで、最近はあんまり話してないけど特別な友人です」
「へえ……じゃああの噂は……」
「先輩は朝早くからこんなところでエスタルと何をしてたんですか?」
「さあなぁ、俺にもよくわからねえ。早く戻って寝ておきたいから、またな」
ウォルクのあからさまな作り笑顔とやや挑戦的な態度を気にするふうもなく、ビドラルはその場を立ち去った。ウォルクは便乗して部屋に戻ろうとしていたエスタルの二の腕を捕まえた。
「待って」
「ご、ごめんなさいっ」
「ごめんって何が?」
「え、と……ウォルク、怒ってるみたいだから……」
「……そんなことないよ……」
冷静さを欠いていたことに気付いて握力を緩めた。また逃げていってしまいそうで、でも力尽くなんてことしたくなくて、恐る恐る手を離す。
「なんか、話しするの久し振りだね。元気だった?」
「あの……特別な友人て……」
「うん、まあ、言葉の綾」
ビドラルへの牽制で思わず口をついた言葉だった。もちろん本心だが、警戒を解くためとぼけておいた。
「エスタル、無理にとは言わないけど、今度二人で話せない? 俺たちの間には誤解があると思うんだ。だから、できたら、一度でいいからゆっくり話し合いたい」
「うん……あの、ごめんなさい」
「そうか……」
「あ、そうじゃなくて……僕、前、酷い態度をとってしまったでしょう? そのことでずっと謝りたいと思ってたのに先延ばしにして……だから、ええと、僕もウォルクと話したかった」
「そ、そっか、そうだったんだ。それならもっと早く話しかければよかったな」
エスタルが自分を気に掛けて、歩み寄ろうとしてくれている。それだけでどん底だった気分が持ち直した。
後日会う約束を取り付けて二人は別れた。本当は部屋まで送り届けたかったが我慢する。遠ざかる姿を見詰めていたら、振り返ったエスタルが不思議そうに首を傾けた。いつまでも何もない廊下に立っているのを不審に思ったようだ。手を振ると小さく振り返してくれた。一緒に下校していた頃を思い出して感慨深い。後ろ髪を引かれる思いでエスタルに背中を向ける。自室に戻ったウォルクの表情は、寝起きの同室者にもわかるくらい再び曇っていた。
「朝っぱらからどうしたウォルク。腹でも痛いのか?」
「ああ……」
ウォルクは前々からエスタルと二人きりになれる機会を窺っていた。周りに人がいる中で自分がエスタルに話しかけたらどうしても注目を浴びて、冷やかされたり囃し立てられたりしてしまうだろう。そんなことで二人の関係をこれ以上拗らせたくない。さっきの現場に出くわしたのは、早朝シャワーの情報をつかんでシャワールームに向かう途中のことだった。
ウォルクはビドラルを知っていた。エスタルに構う二年生が気になって、為人や素行を調べるためにそれとなく本人に接近していたのだ。リウェナリー・ビドラルは面倒見が良く飾り気のない性格で多くの友人がいる。エスタルが兄のように慕うのも解らなくはない。
二人の関係性を確かめたくて身を潜め、すぐに後悔させられた。自分にはろくに手も握らせてくれなかったのに、並んで歩くだけであんなに緊張していたのに、そいつには触らせるのか。自分から縋り付くのか。
『好きです』
欲しかった言葉は別の男に送られた。本当に単なる憧れであってほしい。そう信じないと嫉妬でおかしくなりそうだ。
あのとき自分が割って入らなかったら、ビドラルはエスタルにキスをしていたように思う。好意の籠った視線で熱く見詰めてきて、こっちが手を伸ばしても恥ずかしそうにするだけで逃げようとしない。エスタルみたいな可愛い子にそんなことをされて欲に火が点かない方がおかしい。自分もそれで勘違いしてしまった。
高等学院時代のエスタルは無自覚だったが、今はどうだろう。フラウスの特殊な環境下に置かれて影響を受けなかった学生は皆無と聞いている。初めは同性愛を嫌悪したりアナルセックスに怖気付いたりしていた学生も、目の前で自分のものと同じ器官が快楽に打ち震える様に心動かされ、程度の差こそあれ校風に染まっていくのだとか。エスタルだけは例外だと思っていたけれど、さっきの場面を見てその確信が揺らいだ。
内気で恥ずかしがり屋のエスタルが交流に勤しむ日が来るかもしれない。その切っ掛けは自分でありたいし、選ばれる相手は常に自分でありたい。そして願わくはエスタルと、友情ではなく愛情を交わしたい。
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