大学デビュー

恩陀ドラック

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忘れた頃に

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 ウォルクは寮の自室を徹底的に掃除した。清潔なシーツに交換し、念のため用意したローションは、目に触れるところに置いておくとエスタルの警戒心を煽りそうなので抽斗に隠す。談話室を二人だけで貸切ると却って目立ってしまって、誰にも知られたくないというエスタルの要望に適わない。ルームメイトを追い出すのもエスタルには荷が重いということで、ウォルクの部屋が交流会場に最適だった。


「クヴァン、約束は憶えてるよな?  絶対守れよ?」

「わかってるって。ちゃんと守るから、上手くいったかどうかくらいは聞かせろよな」


 ルームメイトのクヴァン・シーンツィーにさせた約束は、指定の時間まで絶対戻ってこないことと、今日のことを誰にも言わないこと。変な噂を立てられたら迷惑だ。相手が誰かという質問は突っ撥ねた。

 計画通りクヴァンに居なくなってもらって、一人そわそわと時が過ぎるのを待った。あと十分もすればエスタルが手コキをしてもらうためこの部屋に来る。あまりにも都合のいい展開で、公園に出掛けたときからずっと白昼夢を見ている気分だ。エスタルが急に青空の下でオナニーのやり方を説明し始めたときは何事かと思った。下は全部脱ぐ派で、右手であそこを握り左手は根元に添えるのだそうだ。きっとしこりながら玉を揉んだり会陰を撫でたりしているのだろう。想像で真似をして楽しくオナニーさせてもらった。

 エスタルがそこまで赤裸々に打ち明けて初交流の相手に指名してくれたのは、生粋のお嬢さんと信じて疑っていないせいだ。確固たる信頼関係を築くまで真実は伏せておかなければ。挿入したい気持ちを悟られたらそこで終了してしまいかねない。必要なのは強い理性と忍耐力だ。誤解を利用した罰だというなら甘んじて受けよう。指名された瞬間大量の我慢汁が溢れたときもバレずに誤魔化せた。今日も無事に乗り切ってみせる。

 今日は手コキだけの予定だが、公園での急展開を加味すると万が一がないとは言い切れない。どこを見られ触られてもいいように全身隈なく洗った。シックスナインで不快な思いをさせないため、アナル洗浄もしておいた。挿入されることは考えていない。エスタルには突っ込まれるより突っ込みたい。目一杯かわいがって、甘やかして、自分なしじゃいられないくらい溺れさせたい。

 また下半身が元気になりかけたとき、コンコンと二回ノックの音がして現実に引き戻された。時間より少し早いがエスタルだ。ノックなしでいいと言っておいたのだが、遠慮深い彼の性分だと難しかったか。


「どうぞ入って!」


 言うが早いかドアに飛び付く。目に飛び込んできたのは仕立ての良いシャツから覗く男らしい胸元。予想と違う景色に驚いて視線を上げると、自分と同じ高さに久し振りに見る顔があった。絶句するウォルクを押し退けて、その人物は内側からドアを閉めた。


「エヴァノスさん……」

「ネデトと呼べよ、水臭い。僕と君の仲だろう」

「急に困ります!  これから約束があるんです」

「そう。相手は誰?  ウォルクの友人なら僕も挨拶しておこう」

「高等学院からの友人で、積もる話があるんです。悪いけど今日は帰ってもらえませんか」

「帰るさ。友達に挨拶をしたらすぐにね」


 ネデト・エヴァノスは椅子に腰を落ち着けてしまった。何を言っても上品な微笑が撥ね除ける。もう梃子でも動かせそうにない。

 こんな強引な男だっただろうか。ウォルクはドアに寄りかかって考え込んだ。当の本人は迷惑がられていることなど意に介さず涼しい顔をしている。きっと元からこういう男なのだ。今まで良い面しか見えてなかっただけで、誰にでも影の部分はある。はっきりと別離を宣言しなかったのを後悔した。エヴァノスはこれまでお気に入りを作っては飽きてを繰り返していたと聞いていて、執着されるとは思わなかった。自分が手放すのはよくても逆は許せないのだとしたら随分と身勝手な振る舞いだ。


「俺になんの用ですか?」

「しばらく会わない間に冷たくなったね。あんなに何度も求め合って深く繋がった仲なのに。せっかく築き上げた特別な関係を無下にするのはよくないな」

「何を言ってるんですか、やめてくださいよ。一時期交流してただけで大袈裟な……」

「交流の目的は強い絆を作ることだ。君こそ何を言ってる」


 含みを持たせた言い方をしておいて、正論でしらばっくれる。面倒くさい。どうしてよりにもよって今なんだ。ずっと片思いしてたエスタルとの仲が進展しようっていう大事な時に。


「……エヴァノスさん、俺が今日人と会うこと、知ってたんですか?」

「会いたくなったから会いに来た。いけないかい?」

「今日は本当に大事な用事があるんです」

「久し振りに友情を深めようじゃないか」

「礼儀に反していたのは謝ります。俺のことはもう忘れてもらえませんか」

「君は僕を忘れられるのか?」


 椅子を離れたエヴァノスは、ウォルクの目をじっと見据えながら彼の正面に立った。鼻の頭が触れ合う距離で、ベッドでしていたように囁く。


「僕とするのが一番楽しいだろう?」


 エヴァノスとのセックスは最高だった。しかしまだ鮮烈な記憶はもっと光り輝く未来に焼かれ、やがて色のない思い出と変わるだろう。


「好きな人がいるんです」

「そんなことは交流を制限する理由にならない」

「それは俺が決めることです。あなたのことはきっと何年経っても忘れません。大切なフラウスの同志ですから。エヴァノスさんもそう思ってくれるなら、俺の邪魔をしないでください」

「……ずるい言い方をするね……」


 無慈悲に押しやられたエヴァノスにさっきまでの覇気はない。ウォルクが帰りのためのドアを開けると、そこには驚いた顔のエスタルが立っていた。







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