大学デビュー

恩陀ドラック

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お嬢さん友達

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 エスタルがまだ小さな子供の頃、少年愛好家を引き寄せる傾向があるのに気付いた両親は、愛する息子を守るためこんこんと言い聞かせた。

 人前で肌を晒すのは恥ずかしいこと。人の体に触るのは悪いこと。男同士だからといって気を許さないこと。むしろ男の人に気を付けなさい。今言われたことを絶対に忘れてはいけませんよ──

 性的行為は忌避すべき悪であるという価値観を幼心に強く植え付けられたエスタルは、疑うことなく言いつけに従って、裸体や身体への接触を避けるようになった。そのことはたしかに身を守ってくれたが知らずに恋と友情も遠ざけて、思春期に入ってもポルノを見たことがない、満足にオナニーもできない潔癖な少年を作り上げたのだった。

 しかしフラウスに来て性的行為が必ずしも悪ではないと知った。本来は信頼し愛し合う者同士の幸福なのだ。交流にあるのも友情と快楽だけで悪者は一人もいなかった。さっきは驚いてしまったが、交流していてもビドラルがいい先輩であることに変わりはない。


「エスタル、交流には全然興味ない?」


 エロティックな想像をしようとすると必ず思い浮かぶ、今までに目撃した数々の交流の現場と歓迎会でのウォルク。どんなのが見たいのか訊かれたとき真っ先に出てきたのもそれだった。とても本人には言えず、わからないと誤魔化した。興味津々なのに恥ずかしくてまた小さな嘘を吐く。


「す、少しはある、よ……」

「抵抗あるかも知れないけど、人の手を借りるのは俺もいい案だと思うよ。一人じゃどうしようもないことってあるから」


 女子会で危機感を抱いてからあれこれ考えて、何かと話しやすいハイスに相談したときも似たようなことを言われた。一人だと簡単にサボれるから、ポルノを手に入れるより交流の相手を探した方がいいと。交流はなるべく避けたい選択肢だった。長年信じてきた価値観は容易く覆せるものではなく、自分に置き換えるとまだかなり抵抗感がある。でも先延ばしにしても問題が深刻になるばかりだ。エスタルは腹を括ることにした。


「ウォルクにお願いしたら迷惑……?」

「俺!?  全然迷惑じゃなっ、い……」


 ウォルクが急に大きな声を出したと思ったら途中で口ごもって、目を泳がせて、俯いて口元に手を当てた。


「どうしたのウォルク、大丈夫……?」

「大丈夫、大丈夫だから。急な話で驚いただけで……そのお願いも、本当に全然迷惑じゃない。ていうか俺でいいの?」

「うん。他に頼めそうな人がいなくて……」


 ハイスに言われて交流を選択肢に加えたとき、相手を誰にするかも一緒に考えた。一般のフラウス生だと怖い。彼らの交流が手でするだけで終わるのは稀だ。それ以上の行為は望んでないのに、もし要求されたらとても困る。お嬢さんならそんな心配はいらないだろうけどハイスは無しだ。ルームメイトとの交流は、交流自体カジュアルなものと捉えているからできることで、そうではないエスタルが真似をしたら途端にギクシャクするのは目に見えている。他の女子会のいつメンは口が軽くて心配になる。恥ずかしいから他所でペラペラ話されたら嫌だ。このときは交流していると知らなかったビドラルは候補に挙がらなかった。


「ウォルク・ストールは?  もともと知り合いだし、ちょうどいいじゃない」


 知り合いだとバレてから、ハイスはなぜかよくウォルクの名前を出す。たしかに彼は適任かも知れないけど、ほとんど口を利いていない相手から急にそんなお願いをされたら迷惑じゃないだろうか。気が引けているエスタルにハイスが発破をかけた。


「選り好みしてる場合?  悠長にして手遅れになってもいいの?  とりあえず一回頼んでみて。断られたら他の友達を紹介してあげるから頑張って!」


 という経緯でウォルクにお願いしたのだが、相槌を打つ彼のぎこちない笑顔を見て馬鹿正直に喋ったことを後悔した。消去法で選びましたと言われたら誰だって気分を害する。まして全然好みじゃない相手からのお願いだ。嫌だったら断ってと言おうとしたら被せ気味に捲し立てられた。


「嫌じゃない!  俺が手伝おうかって言おうとしてたとこだし!  協力するからなんでも言って!  俺、もう、とにかく全力で頑張るから!」


 テンションの高さはお嬢さん共通なのだろうか。勢いで場所と時間まで決められてしまった。なにも今すぐ決めなくても、と思ったけど、後回しにするとたぶんまた悪い癖が出てずるずると先延ばしにしてしまう。ウォルクの何事にも積極的に取り組む姿勢はさすがだ。彼を見習って自分も頑張ろう。ろくに付き合いもなかった自分のためにこんなに親身になってくれて、なんて親切で友情に厚い男なんだろう。やっぱりウォルクは僕の憧れだ。ウォルクに相談してみてよかった。


「ありがとうウォルク」

「どういたしまして」


 僕たちは高等学院時代のように笑い合った。







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