大学デビュー

恩陀ドラック

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お友達から始めましょう

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 大学から遠い大きな公園には、広い芝生のあちこちに敷物を敷いて寛ぐ人々がいた。青空には鳥が舞い、ときおり吹き抜ける夏と秋の間の気持ちのいい風が、まだ青々とした木の葉を揺らしている。ウォルクは目立たない端っこの木陰を選んで敷物を広げた。


「どうぞエスタル、座って」

「ありがとう……あの、これ、ウォルクの飲み物」

「ありがとう。憶えててくれたんだ」


 好きでよく飲んでいたジュースだ。オレンジピールのほんのりした苦みが爽やかな炭酸飲料。あの頃のことが遠い遠い過去のように懐かしく感じられる。ずっと話したくても話せなかったエスタルとこんなふうに過ごせるとは、数日前までは夢にも思わなかった。


「エスタル、今日は本当にありがとう。嫌われてると思ってたから、本当に、なんて言っていいか……」

「僕はウォルクを嫌いじゃないよ。僕はウォルクのこと、す…………すごく男らしくて格好いいって思ってる……」


 ビドラルへの対抗心から好きって言葉を期待してしまった。まだそんな段階ではないのだから落ち着こう。褒められてはいるから、頑張り次第で明るい未来が開けるはずだ。


「あの……あのときは失礼な態度でごめんなさい。僕は……僕は怖かったんだ……くっついたり触ったり、それから、その……そういうのは悪い事なんだって、今は違うけどあの頃はそう思い込んでて、それでウォルクを避けてた。謝らなくちゃって思ってたけどなかなか勇気が出なくて……」

「悪い事か。そんなふうに思ってたんだね。知らなかった。どうして考え方が変わったの?」

「それは……進学して世界が広がったというか……」

「俺のことはもう怖くない?」

「うん……だってウォルクはお嬢さんでしょ?」

「ああ……」


 今日二人で会ってくれたのは、もう俺が男じゃないと思ってるからか。俺の恋の相手も自分だとは思っていないんだろう。違うよエスタル。いつか誤解が解けて、思っているほど俺が変わってないって分かったら、君はどんな顔をするのかな。


「実は俺も勇気がなくてエスタルから逃げてたんだ。下手な事してエスタルにあれ以上嫌われたくなくて」

「そうなの……?」

「エスタルさえよければ、昔の事は忘れて、また友達になれないかな。同じ大学に来たのも何かの縁だと思わない?」

「うん……よろしくウォルク」

「よかった!  ありがとうエスタル!」


 ウォルクは握手に応じたエスタルの手を引いて抱き寄せた。今日は友情のハグで我慢するけど、こんなのは始めだけだ。慣れたらフラウス生らしく、フラウスの流儀で解り合おう。


「ビドラル先輩と仲いいんだね。いつもあんな時間に二人きりでシャワーしてるの?」

「た、たまたま、たまたま一緒になっただけ!  僕は交流なんてしたことないし、ビドラルさんも彼女がいるし……」


 フラウスでは「一緒にシャワー≒交流」となる。洗いあったり触りあったりの軽いものから本番行為、はては周りが飛び入り参加しての複数プレイに発展することも。交流したことがないと、エスタルの口からはっきりと聞けて安心した。ビドラルにいたずらされたりしてないかと、ずっと心配していたのだ。


「あの人、彼女がいても交流はしてるよ」

「えっ!?」


 ショックを受けたところを見ると、エスタルは彼をノンケだと思っていたらしい。恋人がいない間はタチとして交流会に参加していて、今でも挿入以外はなんでもありの交流をしているような男と、なぜあんなに距離が近いのか疑問だったが理由がわかった。正体を知って改めてくれるといいのだが。


「本当にたまたま?  俺が見たとき、二人は抱き合ってたけど」

「 っそれは……あの……僕が……そ、相談したいことがあったんだけど言えなくて……中途半端だったのを怒られ……お、怒ってはいなかったと思うけど、注意されて……」

「なんの相談?  俺なら話せる?」


 しどろもどろのエスタルは、ウォルクからの「友達だろう」の一言で重い口を割った。


「お、お、お、……ォナニーのこと……」

「オ…………!?」


 エスタルが物凄く恥ずかしがりながら自分の下半身事情を語り始めた。オナニーのとき、エスタルは下は全部脱ぐ派だそうだ。するりと下ろされた下着から出てくる丸いお尻と垂れたおちんちん。皮を被った小ぶりなそれを、細い指がきゅっと扱きあげる。目を閉じて、全神経をおちんちんに集中させて、一生懸命しこしこ、しこしこ。達した瞬間に思わず漏れる小さな喘ぎ。お掃除のときにはじめて顔を出したピンクの先っぽは精液まみれだ。俺がきれいにしゃぶってあげる。オナニーなんか比べ物にならないくらい気持ちいいことをして、毎日でもいかせてあげる──


「ウォルク……?」

「えっ、ああ、ごめん」


 途中から妄想と現実がごっちゃになって、危うく押し倒すところだった。聞き流していた内容を思い起こしてみると割と切実な悩みだった。射精回数の少なさからくる病気の不安と、このままだと使い物にならなくなるかも知れない恐怖。


「友達に相談したら人にしてもらえって言われたんだけど、そ、そんなの恥ずかしいし……だから、ビドラルさんなら何か、ええと、そういうときに使う写真とか……貸してくれるかなって思って……」


 大事のように語られているが、男同士でよくあるポルノの貸し借りの話だ。この年でポルノを一切見たことがないというのは普通じゃない。まるで禁欲生活を送る僧侶のようだ。世俗の幸せを手に入れたいならもう少しだらしない、例えば隣にいる高等学院時代からの友人と交流に耽るくらいの生活がちょうどいい。


「どんなのが見たいの?」

「ど、どんな?  ……よくわかんない……」


 好きなシチュエーションでもあれば聞き出したかったが無理だった。抑圧された人間にありがちなニッチでマニアックな願望もない。ウォルクはエスタルの気の毒なくらいの純情に付け込んだ。


「いつでもどこでも交流できるのにオナニーする奴はいないよ。ポルノを持ってる奴もいないんじゃないかなぁ」

「そうなんだ……」


 いつでもどこでもは言い過ぎだ。運悪く相手が見つからないときだってある。自慰は自慰で好きな奴もいる。ウォルクもたまにエスタルで抜いている。ポピュラーなおかずはゲイポルノや交流会のハメ撮りだ。バイセクシャルなら一般向けも持っている。エスタルにそんなものを渡してなるものか。一人でどうにかしようなんて寂しい考えは捨てさせなければ。







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