1 / 17
名門大学の因習
しおりを挟む以前から名門フラウス大学では同性愛が横行しているという噂がまことしやかに囁かれていた。男子大学でほとんどの学生が寮に入る。年頃の男子が四年間寝食を共にしていれば、道を踏み外す者が多少はいるのかもしれない。おおかた難関大に入り損ねた奴が妬み半分で、小さな事実を針小棒大品性下劣に脚色した醜聞を吹聴している。エスタル・トゥブルはそう考えて噂に耳を貸さず、一生懸命に勉強して晴れて今年度の新入生となったのだった。
しかし噂は真実だった。新しく寮に入る学生は全員ケツを洗って明日の歓迎会に参加すること。もしさしたる理由もなく出席を拒否したら、学生生活は厳しいものとなり卒業は危ぶまれるだろう。上級生からそう通達されて、寮の食堂に集まっていた一年生たちはざわついた。
「通過儀礼ってやつだ。そう酷い目には合わさないから安心しな」
尻に指を入れるところまでは強制だがその先は任意だ。どうしても受け入れられなかったら拒否していい。実際のところほとんどの奴は指一本で終わらせる。俺も断ったがそれが原因で起きた支障は特にない。心配顔の新入生をそう励まして上級生は去っていった。
新入生たちも三々五々自室へ戻る。昨日入寮したばかりのエスタルも部屋に戻って整理整頓の続きを始めた。寮は全室二人部屋で、エスタルと同室のハイス・フェンウェートが遅れて戻ってきた。彼は体育会系なノリではないため大人しい性質のエスタルは安心していた。ハイス相手に歓迎会への不安を零す。
「ハイス、歓迎会のこと聞いた? みんなの前で、お、お、お尻に……」
「うん聞いたよ。気持ち良くなって人生の役にも立つなんていい事尽くしだよね」
在校生に知り合いがいるハイスは噂が真実であることを知っていた。フラウス卒業生の結束が固く社会の各所で強力な派閥を作り上げているのは、同性愛的通過儀礼が大いに関係している。肉体関係を持った学生同士はさらに強い絆で結ばれて生涯の友となるのだ。かつて全寮制だった頃の名残で入寮者だけが儀式を受けられる。そのために入寮する学生も多い。
「優秀な子と仲良くなって、たくさん人脈を広げなくちゃ。エスタルも部屋に連れ込むときは一言言ってね。それとも見られた方が興奮するタイプ?」
「ぼっ、僕はそんなんじゃないよ! 僕は、僕は、まだその、そ、そういうことはしたことないし、普通に女の子と付き合いたい……」
「そうなんだ。エスタルってかわいいからてっきり、その、ね?」
同性愛者だと思われていたことにエスタルはショックを受けた。男を受け入れて可愛がられるタイプに見えるらしい。理由は小柄で童顔という自分ではどうしようもないもの。好きでこんな子供みたいな見た目でいるわけではない。健康的で規則正しい生活を送っていたのにこうなった。いつまでたっても薄っぺらで幅のない体。高い声。薄っすら生えているムダ毛がせめてもの救いだ。最近は「髭が生えますように」と毎晩寝る前に祈っている。
「今まで男から言い寄られたことない?」
「ある……でも僕は本当にそういうんじゃないんだ……それなのに……」
「ごめんエスタル。落ち込まないで。歓迎会には同性愛者を炙り出す意味もあるんだって。中をいじられて気持ち良くなっちゃう奴は卒業するまで女の子扱い。男の裸を見ておったててる奴もお仲間。エスタルがどっちでもなかったらお誘いがくることはなくなる。だから我慢して頑張ろう? 先輩の言った通りなら、嫌なことはきっとすぐに終わるよ」
まったくもって不本意だが、エスタルは同性愛者ではないことを証明するためにも尻を出す決意をした。せっかく入った名門大学をドロップアウトなんてしたくない。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説


塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;



久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる