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6.友達に相談する
しおりを挟む「相談があるって言うから何かと思えば……」
いつもの踊り場で並んで座る二人。昼ごはんを食べながら晴采は健吾に、乳首イキの特訓がつらいことと、弟の変態性が目覚めつつあることを相談していた。健吾には粗方知られてしまっているので開き直ってみた。いっぱい出ちゃったことやセックスみたいな体勢で興奮したことはもちろん伏せている。
「一応確認するけど、相手は本当に弟なんだよな?」
「うん」
「晴采は弟とどうなりたいんだ?」
「どうって……えっ、ないから! ないない! ありえないでしょ兄弟で」
「あ、そういう倫理観はあるんだ」
「あるよっ」
近親相姦は良くない。乳首開発と抜き合い以上の事を逸瑠とするつもりはない。それだけならまだ、過激ではあるがじゃれ合いの範囲内ということで言い訳ができる。と晴采は考えている。
「なあ健吾、俺どうしたらいいと思う? このままじゃ逸瑠がいじめっ子になっちゃう」
「いじめっ子ねえ。やめさせりゃいいんじゃね? ビシッと言ってさ」
「言えるかなぁ。俺あんまり弟に強く言えないんだよなぁ~」
「ほんとにどうにかしたいって思ってる?」
「思ってるよ。弟が変態になるかならないかの瀬戸際なんだよ? そうなったらなんかもうすっごい目に合わされるんだよ、きっと!」
「現時点で既に……」
「逸瑠はまだお兄ちゃん思いのいい子ですぅー」
今ならまだ手遅れじゃない。やばいとこまで来てるのは否定しないけど、今ならまだ引き返せると信じてる。そうじゃないと困る。
「もう一つ訊くけど、晴采も同性愛者ってことでいいんだよな?」
「えっ?」
自分が同性愛者? きょとんとする晴采に、健吾は信じられないという顔をした。
「おまえね、まさかあれだけの事をしておいて否定する気か?」
「いやだって、そんなの全然考えたことなかった」
「全然てことはないだろう?」
「…………全っ然」
「さすが俺の晴采だぜ……」
健吾は真顔だ。きまりが悪くなった晴采はコッペパンを口に運んだ。
自分の恋愛に対する感覚がみんなとは少し違う気はしていた。それを真剣に考えたことはない。必要がなかった。なにしろ初恋もまだだ。恋愛したいとは思っている。だけど男でも女でも、友人として仲良くなれたらそれで満足してしまう。小さい頃は相当な照れ屋で恋愛関係は徹底的に避けていた。それが尾を引いている。
自慰のときのおかずは必ず男女が揃っているのを使う。どちらに感情移入しているかはあやふやで答えられない。どちらか単体や同性愛的素材は使ったことがない。単に好みの問題だと思う。
女性と気軽に性的接触を持ちたいと思わないのは、幼少期からそういう価値観のもとに教育されてきた影響が大きい。忌避ではなく尊重による。当然だが女性との経験は皆無だ。
逸瑠と健吾を男だからという理由で嫌悪した覚えもない。むしろ同性の気安さであれこれ致してしまった。性的行為は交際相手とだけすべきというのが本来のスタンスだったのに流されまくって、これでも一応たまに思い出したら少しは悩んでいる。
「わかんないけど女の子だって普通に好きだし」
「バイセクシャルかもしれないってことか」
「んー」
そんなカテゴライズに興味のない晴采は生返事をしてパンの続きを齧った。最後の一欠片を押し込んで、もぐもぐと咀嚼しながら窓を眺める。色の薄い秋の空と遠くの街並み。なんてことのない四角形の隅っこに埃だらけの蜘蛛の糸が引っ付いていた。
「晴采、付き合おう」
「うん。うん!?」
「恋人になろうってこと」
晴采は愕然としてはくはくと口を動かした。言いたい事が渋滞して喉でつっかえている。健吾は落ち着いてジュースを飲み、話を続けた。
「恋人がいたら遊んじゃダメだからな。そうなったら弟も言う事聞くだろ」
「な、なるほど!!」
優しい逸瑠はお兄ちゃんの幸せのため、乳首開発は諦めてくれるに違いない。さすが健吾。頼りになる!
「びっくりした。健吾が俺のこと好きなのかと思っちゃった」
「好きだけど」
「のっ!?」
「のって。なんの "の" だよ」
生れて初めて告白された。面と向かって好きだと言われてしまった。健吾が俺を好き? 恋愛的意味で? 急! すごい急! そんなさらっと言うこと!? の "の" !!
「弟を諦めさせるだけなら付き合う必要なんてない。嘘を吐けばいいだけだからな。晴采が嫌なら別に。俺も諦めるし」
思いのほか真剣な横顔に晴采も居ずまいを正した。
「昨日訊いたときはそんなこと言わなかったのに」
「それはごめん。昨日はまだ言おうかどうしようか迷ってた。踏ん切りがつかなくて」
「健吾が俺にキスしたのってやっぱり、す、す……」
「好きだからキスしたし、興奮した晴采に自分も興奮した」
肩に触れる健吾の手が優しいのに力強い。距離を詰められて晴采は思わず身構えた。だって昨日、キスは特別なものなんだって知ってしまった。このキスを受け入れたら健吾とお付き合いすることになってしまう。
「健吾待って。俺にも考える時間がほしい」
「好きだよ晴采」
遊びだって言ってたのに健吾はずるい。あんな気持ち良さを知って、好きだって言われて、冷静でいられる鋼の精神は持ってない。健吾だってエロい顔してる。薄く開いた唇から覗くピンクの舌。晴采は自分の舌でそれを押し戻した。このキスは流されただけだからね。まだ遊びだからね。
角度を変え何度も吸い付き合っていると、話し声と足音が近付いてくるのが聞こえた。慌てて離れて取り繕う。階段を上ってきたのはクラスメイトの二人だった。
「お、健吾に晴采。こんなとこで飯食ってたのかよ」
「晴采がどうしても俺と二人きりがいいって聞かなくてさ」
「ちょっ、健吾やめろよ! 違うから! ちょっと相談したい事があっただけで!」
「慌てちゃって逆に怪しい」
「ははーん、さては恋愛相談だな?」
「にょっ!!?」
変な声で爆笑されてその場はうやむやになった。不本意だけど助かった。キスを続けていたら三日連続で午後の授業に遅刻するところだった。
昼休みが終わり午後の授業が始まる。相談事は解決せず、違うフェーズに移行しただけだった。苦手な数学の授業がいつにも増して頭に入ってこない。
健吾の告白を受け入れるべきか断るべきか。断った場合、よく聞くのが疎遠になるパターン。恋と共に友情が終わり、二人は他人。嫌だ。大切な友達を失いたくない。
健吾の気持ちは率直に嬉しかった。自分も健吾が好きだ。でもその好意が恋だと確信できない。自分もキスをねだったし、健吾を想って自慰をした。それが好きということ?
「むず……」
この世に関数より難しい問題があったとは。どうしてこうなったのかな。やっぱりキスをしたのがいけなかったんだろうな。気持ち良くて、流されて、深く考えなかった。
だって乳首が気持ち良すぎるんだよ! 乳首を触られるとちんちんが体の内側からこすられてるみたいで、へにゃぁって理性が解ける。思い出しただけで乳首とちんちんが硬くなる。
「はぁ」
教科書に向かって溜息を吐いた。興奮してる場合か。授業中だし。
恋人ができたって言ったら、逸瑠はどう反応するだろう。泣く? 怒る? 嫌われる? 想像しただけで胸が痛い。逆にあっさり引き下がられる可能性だってある。それはそれで寂しい。
「無理……」
弱音ばかり吐く晴采に、やはり数学を苦手としている隣の席の生徒がちらりと同情の眼差しを向けた。
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