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2.友達に気付かれる
しおりを挟む翌日。寝起きから乳首がじんじんとうるさい。摩擦が起きないよう、指でつまんでシャツを浮かす。幸い朝の慌ただしさで両親に不審を抱かれることはなかった。両親は会社へ。兄弟もそれぞれの学校へ向かう。晴采は通い慣れた通学路で道を間違えて、授業も上の空だった。
昼休み、昼食を食べ終えた晴采は珍しく友人たちの輪から外れ、人気のない階段の踊り場に座りこんだ。そんな晴采を心配した友人の一人、健吾が放っておけなくて声をかけた。
「晴采、あんなに胸を押さえて溜息を吐いて、いったい何に悩んでるんだ?」
「ふぇっ? こりぇ、これはなんでもないから!」
周りに気付かれないようにしていたつもりだったから焦った。今日はいつにも増して乳首の主張が激しい。事あるごとに昨夜の出来事を思い出させてくる。いつでもどこでも何をしていても弟の指が乳首をつまんでこねて弾く。なんて変態じみたこと、恥ずかしくてとても口に出せない。
思わず胸元を庇う仕草をしたのがよくなかった。自分の手が乳首を掠ってしまった。びりびりした刺激が体の中を駆け抜ける。
「はうぅ」
「だ、大丈夫か晴采、痛いのか?」
「痛くは……ない……大丈夫……」
「こんなとこに座ってないで保健室に行った方が良くないか?」
「ほんとに大丈夫。痛くないし病気じゃない。昨日弟が、その……」
「なんだ弟か」
晴采がたまに話題にするから、健吾は逸瑠の大体の人柄と二人の兄弟仲の良さは知っていた。家に遊びに行ったとき顔を合わせたこともある。弟と聞いて健吾からシリアスな空気がなくなった。おまけに遠慮もなくなった。
「で? どんないたずらされたんだよ。見せろ!」
「やめっ、あっ、だめ……!」
動いて擦れて力が抜けて組み敷かれた。乳首さえなければ負けなかったのに。本体を裏切るなんてひどい乳首だ。仰向けで両手は肩の横で床に押さえつけられて、胸を張った状態で絶えずシャツが乳首を刺激する。味方がいない。降伏の決意をした。ここは正直に打ち明けて許してもらおう。
「乳首が……」
「乳首?」
「び、敏感で……」
健吾はびっくりしたような、複雑な表情で見下ろしている。呆れられたのだろうか。死ぬほど恥ずかしいし手が痛いし乳首もじんじんする。そろそろ解放してほしい。
「健吾、あの、も、うっ!?」
何が起きたか理解するのに三秒かかった。口の中で健吾の舌がぬるぬると動き回っている。ディープキスだ。こいつはこんな大人のキスができる奴だったのか。自分と同じレベルの童貞だと思っていたのに、いつの間に大人の階段を。相手は誰だ? そんな事があったんなら少しは報告してくれてもいいじゃないか、水臭い。こっちは今日が初キス――不都合な事実に突き当たって現実逃避は終了した。でもキスは続いている。
「健吾いい加減に、あっ、やめろ!」
顔を逸らすと今度は耳を舐められた。そこを舐めてほしくて横を向いたんじゃない。キスも耳舐めもされないように、ぶんぶんと顔を左右に振った。それでやっと解放してもらった。二人はのそのそと起き上がって、横並びに階段に腰掛けた。
「悪い。なんかエロい顔してたから流れで?」
「それは……ごめん」
ひどい言い草に文句を言いかけてやめた。何回かあったすごく気持ちのいい瞬間にしていたのだろう、エロい、やらしー顔を。乳首はどこまで人を翻弄するのか。こんな事になるなら弟に取ってもらえばよかった。
「なんで弟に乳首開発させてんの?」
「はあ!?」
「弟に触られて敏感になったんじゃないのか?」
「そ、そうだけど俺がやらせたんじゃないからね? あいつが勝手にやったの!」
「ふーん。ちょっと見せてみろよ」
「えっ」
「あー、そっかそっか。もうそんなに……」
「いや普通だよ!? 大きくなったりしてないよ!?」
やむなくカーディガンとシャツのボタンを外した。ちょっと寒いから出し渋っただけなのに変な誤解をしないでほしい。乳首を見た健吾は「立ってる」と呟いた。寒いからだよ。
寒いからだよ。
「触るぞ」
「ええ!? なんでだよ、もういやだよ!」
「もうって、俺はまだ一回も触ってないけど」
「え、そう、かも……」
最初に自分で間違って触って、その後も健吾の手は晴采の手首を掴んでいて胸には触れていない。シャツの摩擦、つまり自分の動きで刺激を受けて慌てふためいていたのだった。自分にがっかりしていたら不意打ちで乳首をつつかれた。
「あっ! 駄目って言ってるのに……んんっ」
またキスをされた。乳首で喘がされてガードが緩んだ口に健吾の舌が侵入する。なんかちょっと、普通に気持ちいいんだが。口の中ってこんなに気持ちいいんだ。健吾が上手なだけ?
健吾の指が優しく円を描くように乳首を転がす。かと思うと根元からきゅっとつまみ上げたり、ぴんぴんと弾いたり。唇が離れるとまた変な声が漏れてしまった。
「乳首いじられてるときの晴采、すげーエロい顔してる。弟が勝手にやったなんて嘘だろ? 本当は誘ったんじゃないのか?」
「ちが……ほんとに弟が……」
「そんなエロい顔で言われてもなぁ。現に今こうして俺のこと誘ってるし」
「そん……んふぅ」
口が塞がれる。大人しくされるがままだった晴采も、健吾を真似ておずおずと舌を動かしてみた。それを歓迎するように健吾の舌も動く。舐めて舐められ唾液が混じり合い境界線が曖昧になる心地良い錯覚。健吾の指はずっと乳首から離れない。抵抗なんてできるわけない。夢中になっていたら健吾が離れていってしまった。
「健吾ぉ」
「キスも気持ちいいよな」
キス待ち顔を笑われた。声を抑えるのにちょうどいいからキスを強請ったのに、軽いキスを口以外のそこいらじゅうにしてくる。じれったくなって、近くにきた健吾の口を迎えにいく。舌を出すとちゅうちゅうと吸ってくれた。乳首もずっと気持ちいい。どうしよう。ちんちんを触りたくなってしまう。その葛藤はすぐに解消された。
「もう時間ないな。晴采、股間を落ち着かせろよ。そんなに勃たせてたら教室に戻れないぞ」
あと十分で午後の授業が始まる。健吾の言う通り、このままではまずい。ありがたい気遣いだ。でも、こんなところで大きくさせないとか、友人の恥ずかしい状態をはっきり指摘しないとか、そういう気遣いが欲しかった。逸瑠といい健吾といい、ちょっと自分勝手過ぎやしないか。人の乳首をいじりたがる奴の傾向なのか。
一応健吾の股間も確認したけど目立った変化はなかった。あんなキスをしておいて嘘だろう? 一人で興奮していたのかと思うと物悲しくなる。
「なんでこんな事したんだよ……」
「してほしそうだったから」
「そんなの……知るか」
否定できない。自分の気持ちがわからない。こんなにも流されやすい人間だったなんて、つい昨日の夜知ったばかりだ。怖い。思考が乳首に乗っ取られかけているような気がする。
「なぁ健吾、このこと他の人には……」
「ああ、わかってる。また今度続きをしような」
普通に遊ぶ約束をするときみたいに健吾が言った。機嫌がいい時の顔だ。
「うん」
ほら。また馬鹿になった。健吾も楽しかったんだって知って、ちょっと嬉しい。
落ち着くまで時間が掛かって、午後の授業は少し遅れて教室に入る羽目になってしまった。授業が終わる頃にはオナニーする気なんかとうに失せていた。そのまま家に帰って、昨夜の寝不足と今日の疲れを癒すため、晴采は夕飯まで一眠りした。
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