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29話
しおりを挟む「聖女さまの話は人々の間に伝えられています」
国としては混乱を招かないように緘口令を敷いていたらしい。
しかし、王宮に務める者が漏らしてしまい、それが徐々に広がっていったようだ。
どこの国でも口に戸は立てられないということだろう。
しかし、一番秘密にしていた「呪詛」については知られていなかったようなので、そのままにしたところ現代に至るまで語り継がれているとのことだった。
「呪詛」については混乱や要らぬ怯えを生まないように、ということらしい。
備えられるものでもなければ、立ち向かえるものでもない。
根本を断ち切らない限り、ずっと湧き続けるからだ。
「但し、聖女さまが人々の前に出てくる行事などはございません。チヨ様のようにこうして街歩きをする方もいらっしゃったようですので、全く目にする機会がない...というわけではないのですが」
「そうなんですね...」
「ただ、伝説とかそのレベルになっていてもおかしくはありませんので...内緒にしてもらいました」
広まってしまえばこうしてゆっくり歩くことも出来なくなってしまうだろう。
少女には少し申し訳無いのだが、チヨはここを歩くのは今日が最初で最後なのだ。
時間が無くなってしまうのは非常に惜しいことだった。
「お気遣い、ありがとうございます。...じゃあ次はあっちに行ってみましょう!」
「ええ」
———————————
色々なお店を覗きながら歩いていると、どこからかいい匂いが漂ってきた。
そういえば空腹を感じる。
「お腹...空きませんか?」
「そういえば...そうですね。もうそんな時間ですか」
「たくさん歩きましたからねえ。どこか美味しいお店知ってますか?」
「...では......うん、あそこにしましょう。案内します」
「ありがとうございます!」
数分歩いてたどり着いたのはシンプルな外観のカフェレストランだった。
中はぬくもりのあるインテリアで整えられており、居心地のいい空間が作られていた。
「素敵ですね...」
「シチリ亭というんです。凪という意味の言葉なんです」
「ぴったりですね」
「そうなんです、たまにゆっくりとしたいときに1人で来ています」
チヨは納得しつつ、メニューを見る。
どれも全て美味しそうで目移りしてしまう。
どうやら思った以上に空腹らしい。
「...おすすめってありますか?」
「ハンバーグ料理がおいしいですよ」
「そうですか...じゃあ......この煮込みハンバーグにします」
ルーカスはハンバークドリアを注文し、待っている間にルーカスを盗み見る。
日本に帰ってしまえば、こんなに美しい人と歩くことも、こうして向かいあって食事をすることもないのだ。
「...何かありました?」
視線に気づいたルーカスがチヨに向き直る。
夫がいなければ、かなりグラグラしていただろう。
「いいえ...そういえば——」
そこからまた談笑をする。
今日のこと、これからのこと————
話しているうちに料理が運ばれてきた。
ルーカスのいうとおり、ハンバーグは非常に美味しく絶品だった。
ナイフで切った瞬間に零れる肉汁は勿体なく感じるほどで、脂は甘く、ふわふわだった。
それらがソースに絡んでいるのだが、絶妙に肉を引き立てる。
熱いのだが、手が止まらないのであっという間に食べきってしまった。
*******************
こんばんは、アマネと申します。
あと2-4話のうちには完結する予定ですので
もう少し、お付き合い頂けたらと思います。
宜しくお願い致します。
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