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21話
しおりを挟む「おお...」
「陛下...ご無事で...」
「お元気そうだ」
などと言ったざわめきが聞こえてくる。
声の主は大広間から階段で繋がっている中2階におり、階下にいる人の顔を見渡し満足そうに微笑んでいる。
「浄化以来、初めて顔を合わせるものもいるな。——迷惑をかけた。この国と私を支えてくれたこと感謝申し上げる」
王は軽く頭をさげた後、すぐにまっすぐ前を向く。
「今日は無礼講だ。好きなだけ食べ、好きなだけ飲み、疲れた身体を労わってくれ」
そう言うとゆっくりと階段を降りてきた。
貴族と思わしき人たちが挨拶にと殺到している。
大変そうだな、と考えていると隣にいたルーカスが小声で耳打ちした。
「陛下のお陰で歩きやすくなりましたね」
「ああ、そうですね!」
チヨを見ていた人は殆どが王の元へ行っている。
ダンスまではまだ時間があるそうなので、ルーカスは会場内の椅子に案内してくれた。
パチパチと炭酸の飲み物が入ったグラスをチヨへ渡す。
「アルコールは入っておりません。...どうぞ」
「ありがとうございます」
受け取って一口飲むと爽やかな柑橘系の香りが鼻を抜ける。
さっぱりとしていてとても美味しい。
「良かった」
ルーカスは安心したように微笑むと軽く食事を取ってくると言い、人の波に消えていった。
チヨは会場をぼーっと眺めながら、童話の世界そのものであるこの風景を孫に見せてあげたいという少々場違いな感想を抱いていた。
すると近くにいる少女のグループがやや大きめの声で話しており、その内容がチヨへと聞こえてくる。
「ではやはり...陛下と?」
「当たり前ですわっ、凛々しい陛下と美しい聖女様...並んで立つお姿はきっと絵画のようでしょうねぇ」
「本日婚約が発表されるかも、という噂までありますのよ」
「まあ!!」
......恐らくチヨの話をしているのだと思うが一体何の話をしているのか心当たりが全くない。
少女たちに確認しに行こうか、立ち上がろうとしたところでルーカスが戻ってきた。
「チヨ様?どうなさいました?」
「...なんでもありません」
ルーカスはちらりと少女たちの方を見て、チヨに向き直った。
「...何か...噂でもお聞きになりましたか?」
「い、いえ...あの私が王様と婚約するかも、と言われているようなのですが」
「ああ...」
先にこちらどうぞ、と言いルーカスは皿を渡してくれる。
上品に盛り付けられた料理は美しく、どれも全て美味しそうだ。
「ご安心ください。そちらは全っっっく根も葉も無い噂でございます」
...「全く」の部分にやたら力が入っていたような気がするが、一安心である。
「ですよね!良かったー」
そう言い料理を口に運ぶ。
ダンスなんかせずに料理だけを食べていたいと思うチヨだった。
———————————
優雅な音楽が鳴りはじめ、ペアになった男女が滑るように動き出す。
ここはダンスホールで、チヨは王と一緒に輪の中心にいた。
チヨは王の足を踏まないように必死であるが、それを表情に出さないようにするのも必死である。
ぎこちない笑顔を貼り付けていると王は小さく吹き出した。
「踊れているではないか」
「笑っておいて...嘘にしか聞こえません」
「ふむ、もうあのときのように話してはくれないのか?...浄化のときのように」
「覚えているんですか!?」
「チヨの大声が聞こえるまでの記憶は全くない。そこからなら途切れ途切れ記憶がある」
あれは頼もしかったぞ、という言葉にチヨは羞恥で顔が赤くなってしまった。
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