20 / 33
20話
しおりを挟む「ぅえ…っ」
コルセットというものは初めて聞いたし、初めて着用したが、もう一生着けることはないだろう。いや、絶対に無い!
そう思える程、ぎゅうぎゅうに締められた腹部が苦しかったが、その上からドレスを着れば、本当に誰だか分からない程の変貌を遂げた少女が鏡の中にはいたのだった。
「チヨ様…本当にお綺麗ですわ…」
エマとモニカは殆ど涙ぐんでおり、増員侍女は非常に満足そうである。
「ふう…やりきりましたわ…!」
「素晴らしいですわ!!チヨ様の美しさを余すことなく皆さまにお披露目出来ますのね!」
…この侍女は何を恐ろしいことを言っているのだろうか。
美しくも無ければ、披露する気もチヨには全く無いのだ。
「これなら陛下も…あるいは!」
「いぃいえぇ!ルーカス様だって!」
?????
この人達は何を言っているのか、いよいよ分からなくなってきたが、エマとモニカは生暖かい目で見守っている。
「…さぁ、おしゃべりはそのへんにしてヘアセットに参りましょう!」
…このあとにもまた何かあるんですか?
チヨは思わず遠くを見つめるが侍女は気付かないのかスルーしたのか、そのまま作業を進め続ける。
結局、髪型は「ああでもない、こうでもない」と協議された結果、緩いシニヨンになったのだった。
———————
エスコートはルーカス様がして下さるそうですよ、とモニカは言いニコニコしながら側に控えていた。
程なくしてノックの音が部屋に響く。
入室の許可をすると、正装をしたルーカスが入ってきた。
「——失礼致します」
ルーカスがそっとチヨを覗き見る。
その途端に真っ赤になり「素敵です」とか「美しいです」とかぶつぶつ言っていた。
「え?なんですか?」
「あっ!あ、いえ、なんでも…あの…良くお似合いです…」
意外と初心である。
この見た目なので、経験豊富だと勝手に判断していたがそうでもないのだろうか。
しかし、その言葉に嘘はなく、手放しで褒めてくれているのが伝わるのでとても嬉しい。
「あ、ありがとうございます…」
モニカがニマニマとしているのが気になる。
「…特訓の成果を見せる時が来たようです」
「まだまだ不安なんですが…頑張ります」
ルーカスは笑顔で頷くと、手を差し出す。
「それでは…チヨ様。参りましょう」
「…はい」
緊張し過ぎて震えそうだ。
しかし、その手をルーカスがギュッと握ってくれた。
その行動に心強さを感じ、チヨは会場への1歩を踏み出した。
————————
チヨとルーカスが入場したとき、会場が水を打ったように静かになる。
全員の視線が集中していることが分かる。
こんなに注目されたことは未だかつてない。
祝言のときが最高人数だっただろう。
身体が強張るのを感じ取ってルーカスが小声で声をかけてくる。
「大丈夫ですよ。こんなに美しのですから…私を見て!くらい思って堂々としていたら良いのです」
「ふっ、なんですかそれ…」
こんなこと言う人には見えなかったので意外だ。
今日はルーカスの発見が多くあるな、と感じたとき。
大広間に良く通る声が響き渡った。
「皆で聖女を見つめては萎縮してしまうのではないか?せっかくこうして帰ってくることが出来たのだから私にも注目してはくれなちだろうか?」
92
お気に入りに追加
105
あなたにおすすめの小説

目覚めれば異世界!ところ変われば!
秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。
ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま!
目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。
公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。
命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。
身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!


はじまりは初恋の終わりから~
秋吉美寿
ファンタジー
主人公イリューリアは、十二歳の誕生日に大好きだった初恋の人に「わたしに近づくな!おまえなんか、大嫌いだ!」と心無い事を言われ、すっかり自分に自信を無くしてしまう。
心に深い傷を負ったイリューリアはそれ以来、王子の顔もまともに見れなくなってしまった。
生まれながらに王家と公爵家のあいだ、内々に交わされていた婚約もその後のイリューリアの王子に怯える様子に心を痛めた王や公爵は、正式な婚約発表がなされる前に婚約をなかった事とした。
三年後、イリューリアは、見違えるほどに美しく成長し、本人の目立ちたくないという意思とは裏腹に、たちまち社交界の花として名を馳せてしまう。
そして、自分を振ったはずの王子や王弟の将軍がイリューリアを取りあい、イリューリアは戸惑いを隠せない。
「王子殿下は私の事が嫌いな筈なのに…」
「王弟殿下も、私のような冴えない娘にどうして?」
三年もの間、あらゆる努力で自分を磨いてきたにも関わらず自信を持てないイリューリアは自分の想いにすら自信をもてなくて…。

婚約破棄された国から追放された聖女は隣国で幸せを掴みます。
なつめ猫
ファンタジー
王太子殿下の卒業パーティで婚約破棄を告げられた公爵令嬢アマーリエは、王太子より国から出ていけと脅されてしまう。
王妃としての教育を受けてきたアマーリエは、女神により転生させられた日本人であり世界で唯一の精霊魔法と聖女の力を持つ稀有な存在であったが、国に愛想を尽かし他国へと出ていってしまうのだった。

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます
里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。
だが実は、誰にも言えない理由があり…。
※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。
全28話で完結。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる