上 下
16 / 33

16話

しおりを挟む


「は…?」

「だって、あんた。初代の王様なんじゃないの?」

「死んでしまえ!」

「あー、もう図星ってことかねぇ?それくらいで怒るなんて子供じゃあるまいし、もう止めときなさい」

「なっ…」

「毎回毎回、そのときの王様の身体に入ってたの?はぁー、そんな面倒なことよく続けたもんだよ…」



チヨはついついおばあちゃん言葉になってしまう。
容姿が若くなってからは気をつけていたつもりなのだが。

「お前に何が分かる!!俺の苦しみなんて分からないくせに!早く死んでしまえばいいんだ!お前もコイツも!みんなみーんな!!」

「分かるはずないよ!そもそも違う世界から来たようだからね!」

誰かさんのために、と小声で付け加える。
最初は頑張って祈っていた。頭がぼーっとするくらい集中していた。
だから時間の感覚もないけれど、吐き続ける言葉を聞く限りこのままでは駄目な気がしたのだ。

チヨはこんな異世界に落ちるなんて、自分で最後にしてやろうと思っていた。
自分だから良かった。おばあちゃんだったし、心配する家族も…すぐ側にはいない。
けれど他の人は分からない…そう考えていたが、どうやら無理かもしれない。
しかし、対峙してみてこれが初代の王だと分かった。
ならば手はあるかもしれない。

「…どうして初代だと思ったのだ」

「…勘だね!」

「……ひとつ訂正しておくが、毎回いるわけではない。自分のとき以来、今回が初めてだ」

「何でこの年だった?」

「見てやろうと思ったのだ。自分が滅ぼそうとした国がどうなっているか…」

「…」

「国は大きくなっていた…しかし、民はあの頃と何一つ変わらなかったのだ。やはり滅ぶべきだと思ったよ」

チヨはふーっと息を吐いた。
この人は恐らく純粋で繊細で、そして駆け引きなどは出来ない子供のような人なのだ。
だから、割り切るということが出来ずに病んでしまったのだろう。

「昔も今もそんなことないよ。あんたが入ってる王様も立派に治めていたよ。滅んでいい国じゃあない」

「!…うるさいっ!」

その途端、チヨは首を絞められたかのような痛みと息苦しさを感じた。

「それではまるで俺が治められてなかったかのようではないか!!お前もそういう奴なのか!殺してやる!!」

「何…を…うっ」

拘束されているので勿論手は使えないのだが、ではなぜこんなに息苦しいのか。
意識が朦朧とし、立っていられなくなり倒れてしまう。

「早く死んでしまえ!死ね!」

そんなこと言われて死ぬやつがどこにいる。
そう思いながら必死に王の元まで這いずると、怯えた顔をした。

「何で、お前…」

本当に息苦しい。
けれど、チヨはゆっくりと立ち上がり、言った。

「そんなに死ねって言ってはいけないよ」


そうしてチヨは王の身体を抱きしめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アロマおたくは銀鷹卿の羽根の中。~召喚されたらいきなり血みどろになったけど、知識を生かして楽しく暮らします!

古森真朝
ファンタジー
大学生の理咲(りさ)はある日、同期生・星蘭(せいら)の巻き添えで異世界に転移させられる。その際の着地にミスって頭を打ち、いきなり流血沙汰という散々な目に遭った……が、その場に居合わせた騎士・ノルベルトに助けられ、どうにか事なきを得る。 怪我をした理咲の行動にいたく感心したという彼は、若くして近衛騎士隊を任される通称『銀鷹卿』。長身でガタイが良い上に銀髪蒼眼、整った容姿ながらやたらと威圧感のある彼だが、実は仲間想いで少々不器用、ついでに万年肩凝り頭痛持ちという、微笑ましい一面も持っていた。 世話になったお礼に、理咲の持ち込んだ趣味グッズでアロマテラピーをしたところ、何故か立ちどころに不調が癒えてしまう。その後に試したノルベルトの部下たちも同様で、ここに来て『じゃない方』の召喚者と思われた理咲の特技が判明することに。 『この世界、アロマテラピーがめっっっっちゃ効くんだけど!?!』 趣味で極めた一芸は、異世界での活路を切り開けるのか。ついでに何かと手を貸してくれつつ、そこそこ付き合いの長い知人たちもびっくりの溺愛を見せるノルベルトの想いは伝わるのか。その背景で渦巻く、王宮を巻き込んだ陰謀の行方は?

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!

隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。 ※三章からバトル多めです。

処理中です...