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11話
しおりを挟む翌朝は雨だった。
しとしとと落ちる雫は王の涙のように感じる。
窓の外をぼぅっと眺めていたら声がかかった。
「お待たせ致しました。祈りの間が整いましたのでご移動下さい」
そう、本日は1日祈りの間に籠ることになる。
移動中に神官から水分補給についての説明があった。
どうやら浄化のときに向けて少しずつ量を減らしていくようだ。
本番は王と1対1で祈り続けなければならないので、急な負担がかからないように慣れていくためとのことである。
水分や食事などを持ってきてくれるのはルーカスであり、エマとモニカは祈りの間へは入ることは出来ず、外で1日中扉の脇に控えていて、チヨに異変があればすぐに連絡等が行えるようにしておくらしい。
(本当に皆が王のとこを救うために動いているのね…)
祈りの間へ着き、中を見渡すと先日来たときよりも少々様子が変わっていた。
向日葵のような花が柱に飾ってある。
きっとこれも浄化に関係しているのだろうと思い聞いてみる。
「こちらはパトソルニチニークという花でございます。ソンツァル神の花であり、国民に広く愛されております。本日は神の力を高めるために掲げているのです」
神官が説明してくれる。
花を掲げたところで高められるのかどうかは謎だが華やいでいるのは間違い無い。
「では聖女さま。こちらを…」
そう言って渡されたのは僧が持つお経のように折り重ねられているものである。
「本日1日これを読んで頂きます。2日後には諳んじることが出来ると思います」
なるほど、ここに書いているものがいわゆる経文というやつらしい。
しかしチヨはこの世界の人間ではない。読めるのだろうか…と思いぱらぱらと捲ると読み方が頭に浮かぶのだ。
不思議で仕方ないし、納得がいかないのだがこれがソンツァル神の御使いといわれる所以なのかもしれない。
「分かりました、精一杯勤めます」
「我が国のことで大変恐縮ですが、何卒宜しくお願い申し上げます」
そう言って神官は丁寧に頭を下げると静かに祈りの間から去っていった。
——————————
何時間たったのかは分からない。
チヨは一心不乱に読み続けた。
自分の側で人が死ぬのはもう嫌だという思いが強かった。
——さま。
ああ、王様も今戦っているだろうか。
——ヨさま。
神様がいるならもうこんな悲しくて辛い王様は出さないで欲しい。
「チヨさま!!!!」
はっ、と急に意識が浮上する。
まだ覚醒しない頭で誰だろうと思う。
「チヨさま!?」
「…るーかすさん…」
「大丈夫ですか!?」
「あー……すみません…大丈夫、です」
「本当ですか?」
良かった、と長い息を吐くと優しく微笑む。
「エマとモニカを呼ぼうか迷っていたところです」
「ご心配をおかけしてすみませんでした」
「いいえ、それだけ熱心に集中しておられたのですね。本当に感謝の言葉しかありません」
「…いえ…」
自分の為なので、という言葉を飲み込む。
そして少しの休憩を挟み、また祈りを再開したのだった。
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