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5話
しおりを挟む湯浴みは怒涛の勢いであった。
人に身体を洗ってもらったことなどないチヨは断りたかったのだが、それを言う暇を許さず、隙も無く、恥ずかしいなどと思う間も無く終わっていた。
しかし、エマとモニカは手慣れたもので雑ではなく、至って丁寧に洗ってくれた。
(これから1人で何でもしなくてはいけないと思っていたのに…真逆になってしまったわ)
2人は湯浴み後、水差しなどの用意をしてくれて退室したので現在は1人である。
(しかもこれ…寝間着だなんて信じられない。童話に出てくるお姫様達みたい)
子供達に幾度となく読んであげた童話を思い出す。
娘達は憧れを口にしていたが…まさか自分が着るなんて思いもしなかった。
そんなことを考えるうちにとてつもない睡魔が襲ってきた。
「とりあえず…寝ようかね」
人生で初めてみる、やたらと豪華な蚊帳のついたベッドに入る。
…いわゆる天蓋付きベッドだ。
ベッドに入ればすぐに瞼が落ちてくる。
色々なことがありすぎて、ついつい流してしまったが家で寝る直前だったことを思い出したのだ。
こうしてチヨの長い1日は終わった。
—————————
ふと目が覚める。
しかし、知らない天井だ。ああこれはまだ夢の続きなのか。
覚めなくてもいい。
だって今日から本当に1人ぼっちなのだから。
そこまで考えて違和感を感じる。
布団の感覚がいつもと違う…寝間着も違う?
「あ!!」
がばっと起き上がる、が身体は痛まない。
(そうだった、昨日から変なところにいるんだった)
夢かなぁとも思っていたが結局覚めずにいるので現実なのだろう。
——コンコン
「チヨ様、お目覚めでしょうか?」
この声はモニカである。
「はい!おはようございます」
「失礼致します。朝のお支度をさせて頂きますね」
「え、あの…あ、はい…」
自分でやると申し出てみようとしたのだがモニカの瞳が怖かったので止めておく。
「私…どれくらい寝てたの?」
「ちょうど1日くらいでございます。色々とございましたから…お疲れだったのでしょう」
1日とは驚きである。歳を取ってから中々長時間寝られずにいたのだ。やはり身体が若いからなのだろうか。
「本日のご予定ですが、ルーカス様との面会がございます。詳しくご説明されたいそうです」
ルーカスは昨日の帰り際に言った通り、来てくれるようだ。
と、なれば用意にも気合いが入るようで…
「さ!チヨ様!お召替えはどちらに致しましょう?」
備え付けの棚…クローゼットには色とりどりのドレスが並んでいた。思わず喉がごくりと鳴ってしまう。
和服や洋服とも勝手が違うため、自分ではどれが似合うか分からない。
それを素直にモニカに言えば、満面の笑みで選んでくれた。
「こちらはいかがでしょうか」
モニカが出してくれたのは美しい銀色のドレスだった。
藍色が下地にあるようだが、それがまた締まって見える良いバランスだ。
「とても素敵…。だけど私が着てもいいのかしら」
「もちろんでございます。こちらにあるのは既製品になりますが、チヨ様のお身体に合わせたオーダーメイドを作らねばなりませんねっ」
やたらと意気込むモニカだが、チヨは是非とも遠慮したい。正装が必要なのは分かるので、誰かとの面会があるときなどはきちんとしようとは思うのだが…普段は普段着で良いのだ。
汚してしまっては弁償も出来ない。
それをモニカに伝えれば、ものすごい勢いで反論されたのだがそれはまた別のお話である。
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