龍の花嫁

アマネ

文字の大きさ
上 下
16 / 32

皇帝

しおりを挟む

15分後、少年は応接室の前にいた。
本当に面倒くさいのだが、これもハルカのためだと思えば頑張れる。
ひとつ息を吐いて扉を開けた。


「待たせましたか」

「おお、龍の君。突然来て申し訳ないね」

「ごきげんよう、龍の君」

本当だよ、という言葉を気合で飲み込み、笑顔で首を振る。
皇帝は50代半ばで、まさに壮年期という感じだ。
カヤは先日、庭園で会ったことなど無かったかのような顔をしている。


「...それで今日はどういったご用件でしょうか?」

「敬語など必要ないと言っているのだが...」

その言葉も笑顔でスルーする。
敬語を止めてしまえば外堀を埋められてしまいそうだ。


「ご用件は?」

「そうだったそうだった。カヤとの進捗具合を聞きたくてなあ。なあカヤ」

デレデレとした笑顔で娘に問う。
娘が大好きで、親ばかが過ぎる皇帝は少年が婚約を断っているのも建前だと思っているようだ。

「...そのお話はお断りしたはずですが?」

「何が不満なんだい?カヤは美しく可愛らしいだろう?この国の宝と言っても過言ではないくらいだ」

「まあ、お父様ったら...」

カヤは謙遜をし、恥じらうように俯いて頬を染める。
しかし少年はのだ、その匂いで。

「...」

「...まさか、本当なのかね?」

「?...何がですか?」

「この屋敷に少女を囲っている、と」


ハルカの意思が固まってから話を切り出そうとしていたことが裏目に出てしまったようだ。
それにしても、この屋敷に情報を漏らすやつなどいただろうか...


「...本当です」

「なんと...」

驚き、落胆、軽蔑、そのような匂いがする。
表情も隠しきれていないため、少年でなくても分かるほどだ。

「お父様、そのようなお仰りようはいけませんわ。何か事情があるやもしれませんもの」

「カヤは本当に優しいね。それで龍の君、何故この屋敷には少女がいるのかね?」

この茶番はいつまで続くのだろう。
早く切り上げて探しに行きたいのに。


「...街で見かけて...保護しました」


...嘘は言ってないと思う、たぶん。
第5層から連れてきたなどと言ったら一生分の面倒事がやってきそうだ。
いずれ真実は言うつもりであるし、隠しておくつもりもないのだが、それは今ではない。


「そうか...ではいつ頃帰るのだ?」

「は?」

「カヤという者がいるのだから他の異性といるのは失礼だろう?」

「あの」

「それとも保護したら好かれてしまったのか?龍の君の美貌だからなあ...」

「私は...」

「追い出しにくいなら私から話すか?」

「龍の君はお優しいですからね」

「...」

全く話を聞かない親子である。
溜息さえつけない、息が詰まる。

早く早く早く。
ハルカに会いたい。

しかしその願いが届くことはなかったのである。


—————————


もう何日過ぎただろう。
最初のうちは期待していた、だから数えていたのだ。
でもそれを何回か繰り返したら「ああ、もう来ないんだな」という事実を突きつけられた気がした。
それでも、あの日々を夢と思うには想いは強すぎる。
着ていた洋服は大切に仕舞ってある。

それを1日数回は見てしまうのが最近の日課となってしまっていた。

「さあ、今日も行こうかな...」

戻ってきてから独り言も増えた。
自分が思っているよりも人がいる生活に馴染んでいたようだった。
屋敷にいたときは美味しい食事に毎日ありつけたが、ここでは違う。

ハルカは重い足取りで求人を見に行くことした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

君は私のことをよくわかっているね

鈴宮(すずみや)
恋愛
 後宮の管理人である桜華は、皇帝・龍晴に叶わぬ恋をしていた。龍晴にあてがう妃を選びながら「自分ではダメなのだろうか?」と思い悩む日々。けれど龍晴は「桜華を愛している」と言いながら、決して彼女を妃にすることはなかった。 「桜華は私のことをよくわかっているね」  龍晴にそう言われるたび、桜華の心はひどく傷ついていく。 (わたくしには龍晴様のことがわからない。龍晴様も、わたくしのことをわかっていない)  妃たちへの嫉妬心にズタズタの自尊心。  思い詰めた彼女はある日、深夜、宮殿を抜け出した先で天龍という美しい男性と出会う。 「ようやく君を迎えに来れた」  天龍は桜華を抱きしめ愛をささやく。なんでも、彼と桜華は前世で夫婦だったというのだ。  戸惑いつつも、龍晴からは決して得られなかった類の愛情に、桜華の心は満たされていく。  そんななか、龍晴の態度がこれまでと変わりはじめ――?

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

処理中です...