龍の花嫁

アマネ

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再び

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ゴトゴトと揺られている感覚に意識が浮上する。

「…?」

何が起こったんだっけ?
思い出そうとすると頭が痛んだ。
そうだ、誰かに殴られたんだった。

でも誰に?
あのメイドは無事だろうか?

そんなことを考える間にも頭がズキズキと痛む。

ハルカは両手両足を縛られて馬車の荷台に乗せられているようだった。
猿ぐつわを噛まされており、声を出すことは出来ない。


と、そのとき男の声が聞こえてきた。
どうやら2人組のようである。


「——でいいんじゃねぇか?」

「そうだな、俺らも危ねぇ。さっさとずらかろうぜ」


馬車が急に停まって、ざりざりざりという足音が聞こえる。
寝たふりをしておこうと目を閉じた。


「…殴っておいてアレだけどよ」

「なんだ?」

「可愛い嬢ちゃんじゃねぇか…何もこんな…ここじゃなくても、なぁ」

「まあなぁ…けど、ここじゃないところだとバレたら俺たちの命の保証は無いだろ。この子には申し訳無いけど…」

「そうだな…せめて、木の下に座らせてやるか」

そう言うと男達はハルカをそっと担ぎ、木の根本へそっと下ろした。

「じゃあな、生き延びろよ」

最後の一言を残して、馬車の音は去っていった。
目を開けてみると見たことのある森だった。
——夜の森である。

殺されたり、投げ捨てられたりしなくて良かったが出来れば縄も外して欲しかった…と思ってしまう。
幸い入口に近い方ではあるが、それでも危ないことに越したことはない。

こんなところで下されても困る。どうしよう。今、魔物が襲ってきたらどうしよう…

じわじわと恐怖が襲ってくる。


そのときだった。


きゅっ
という小さな鳴き声のようなものが聞こえたと思ったらすぐ後ろにある茂みからガサガサと音がする。
そして出てきたのはハルカが以前助けたウサギのような魔物だった。
親らしき個体もいるので、あれから逸れずに行動出来ているのだろう。

良かった、と思ったのも束の間、魔物2匹がハルカの手足を拘束している縄を噛み始めたのである。
切ろうとしてくれているようだが、歯が多少当たって痛い。

(ありがとうね…)

猿ぐつわの為、話せないことがもどかしいが、静かに待つことにした。


—————————


何分かかったのか正確な時間は分からないが、そんなに長い時間はかからず縄は切れた。
猿ぐつわも取り去り、魔物にお礼を言うと何回かその場で飛び跳ね、帰って行った。

そうして現在、第5層を歩いているところである。
折角綺麗な格好をさせてもらったが、少々汚れてしまったのが残念でならない。

とりあえずの目的地は懐かしいとさえ感じる求人募集の場所だ。
もしかしたらまた「花嫁の求人」を貼ってくれているのではないか、と思ったのだ。
しかしどこかで納得している自分もいた。
やはり自分は第5層の人間なのだと、あんなに綺麗な人(ではなく龍)の花嫁なんて土台無理な話であると。

しかし簡単には忘れられないし、諦め切れない。
それくらい少年が好きで側にいたくて、心地良い時間だったのだ。
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