龍の花嫁

アマネ

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「あ、あの…いつからいたんですか…?」

「先程ですよ。それより質問の答えも頂いても?」

花嫁に興味があるか否か。
なくはない、どころかまぁまぁある。
ただし龍が何かの隠語で花嫁というのは性奴隷などであったらと考えてしまうのだ。
しかし、質問に答えないと帰ってくれそうにもない。

「なくはない…ですけど…」

「そうですか。昨日、お会いしたときに少年が「うちに来て欲しい」と言っていたでしょう」

「はい、でもお断りしました」

「あのときは詳しくご説明しませんでしたのでお断りされてしまったのかと。…この求人はあなたに向けて貼っておりました」

詳細が分からず断ったことは間違いない。
しかしあなたに向けてとはどういうことなのだろう。
第5層の16歳がハルカしかいない(かどうかは分からない)と思っているからなのか?

すると男はハルカの疑問を読んだかのように答えた。

「あれはあなたにしか見えないものなのです」


言っている意味が分からない。
そんなのあるとすれば魔法しかない。
かつてこの国にも存在していたらしいのだが、失われてから久しい。

「あの…ちょっと言ってる意味が分からないです」

「そのままの意味ですよ。あなたにしか見えません」

「そんな魔法みたいなことあるわけないじゃないですか」

「その通り、魔法です」

「……は?」


思わず間の抜けた返事が出てしまう。
目の前の男は何を言っているのだろう。

「だって昔話で魔法は無くなったって聞きました…」

「そうですね、使えない人しかいないでしょう」

「…じゃあ魔法って嘘ですか。なんでそんなこと言うんですか」

むかむかしてつっけんどんな言い方になってしまう。
実は魔法は残ってる…なんて期待をちょっとだけしていたのに。

「嘘ではありません。には使えないのです…さぁどうです?花嫁に興味がおありですか?」

思わず唾を飲み込むハルカ。
人間には使えない魔法を使うということは人間ではないのだ。

「あの…殺されたりはしませんか?」

そんなことしたら私が殺されることになります、つまり絶対にありえません、と男は言って微笑んだ。
初めて見た笑顔に何故だか嘘がないと感じたハルカは決意する。

「…どうやら心は決まったようですね。花嫁に興味がおありですか?」

このやり取りで何度も聞いた質問に今答える。

「あります」

その答えを聞いた瞬間、男はにやりと笑った。
先程の微笑みとは違い寒気がする。

「あの…でも…まだ花嫁になるって決めたわけではないのですが…」

「もう遅いですよ」

男に腕を掴まれたかと思ったら、地面が淡く光り出す。
疑問を口に出そうとしたときには既に景色が変わっていたのだった。

「あなたは良い選択をされました」

男は笑顔だが、信じられる気がしない。
ハルカは恐らく間違ってしまったのだと思い悲しくなった。
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