龍の花嫁

アマネ

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出会い

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あの二匹は今の大声で動き出してくれただろうか。
脇目も振らず走り続けるハルカには分からない、が足音が聞こえるということは猪似の魔物はこちらに来てくれているようなので一安心だ。

木々の間を走り抜けているため枝が顔や身体に当たって痛い。
でも走らねばもっと痛い思いをすることになる——そんなことを考えていたからなのか木の根に足を取られ転んでしまった。
立ち上がろうとするも焦りからか、上手くいかない。
その間にも魔物は足音はすぐそこまで近づいている。

(どうしよう…どうしよう)

ああ、やはり駄目だったのだ。
二匹を逃せただけでも良しとしよう。
諦めたとき——


「あなた…人間ですね?」

男の声がした。
ハルカは驚きで答えられないでいるが、男は何故だのとぶつぶつ言っている。

「こんなところ、人間が来るべきところではありませんよ?…ああ、やはり追われているのですね。こちらに」

男に連れられて少し離れたところに隠れる。
すぐにあの魔物がやってきたがどうやら気付かなかったようだ。

安心して一息つくと再び男に問われる。


「で?何故ここに来たのですか?」

「…魔物を…小さな魔物がいて、森に返そうと思って…」

「あなたのような子供が?」

「…そこまで子供ではありません。16です…たぶん」


そういうと男は少々驚いたようだった。


「……幾分か、小さく見えますね」


嘘だ。その表情は幾分か、なんてものではない。
むすっとした顔をしてしまったようで謝られる。

「すみません、つい。…あなたはどこから来たのですか?」

「第5層の…街というか…そのへんからです」

「第5層?人は住んでいないと聞いていましたが…」

男の身なりを見てみれば綺麗な服を着ている。
もしかしたら貴族なのかもしれない。だからあまり詳しくはないのだろう。

「いえ、多くはないですが住んでいます。子供、女、病人や年寄りが多いですが」

「それは……そうですか…、ご家族はいらっしゃるのですか?」

「家族はいません…」

「…失礼致しました」

「いいえ、あ…すみません。お礼が遅くなりましたが助けてくれてありがとうございました。帰り道の方角だけ教えてもらってもいいですか?」

「あちらになります。…こんなところもう来てはいけませんよ」

「そうします。本当にありがとうございました。それでは…」

振り返って歩き出す。
——数歩進んだときだ。


「ちょっと待ってくれ!」

振り返ると緑に見える黒髪と金色の瞳を持つ少年が立っていた。
ハルカが振り返ってから1分も経っていないはずだが、いつの間に来たのだろう。
少年は側まで歩いてきた。
身長はハルカと同じくらいだ。


「本当に第5層の街から来たのか?」

「うん、そうだよ」

「仕事は何してる?」

「毎日求人を見て条件が合えば働くって感じかな」

変なこと聞く子だなぁと思いつつも答えていく。
それにしても綺麗な少年である。服も良いものだと一目で分かる。

「お前の名前は?」

「ハルカです」

「良い名だな。…ハルカさえ良ければうちに来て欲しいのだが…」

「え…え?でもさすがにそれはちょっと…ていうか私、君の名前も知らないし…」

「俺の名前は…外では口にしてはいけないのだ。決まりがある」

「はぁ…」

子供にありがちな”ごっこ遊び”的なものだろうか?

「気のない返事だな。まぁいい。気が向いたら返事をしてくれ」

「……どうやって?」

「見たらすぐに分かるはずだ。さぁそろそろ帰らないと遅い時間になってしまう。送れず申し訳ないが、気をつけて帰ってくれ…ああ、魔物については安心していい。今日はもう出てこない」

そこまで言うと少年は「ではな」と言い、踵を返した。
後ろでは先程の男が会釈をしている。

なんだかよく分からないが、確かに遅い時間になってしまうのは困るので帰路に就いたのだった。
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