あなたの隣

ひろの

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「由佳、行こっか」
この耳元の囁きが、今日は寄り道という合図だと気づくも、毎度それを知らぬふりをし尋ねたりする。

「どこへ?」
「ホテル」

彼の返事に悪びれた様子はない。

「はいはい」

二つ返事で返すと、さっきまで繋いでた手を私の肩に回し、ほんの少しだけ引き寄せた。

私は、実を言うと彼に抱かれることを望んでいるわけではなかった。だけど、そうすることでしか、この人を繋ぎ止めることができない・・・。そんな気持ちがどこかにあって、彼の誘いに乗るしかできなくなっていた。

もちろん、いつもいつもホテルに行くわけではなく、単なるデートで終わる日もある。
体を求めない日も、彼は変わらず私に優しく接してくれる。私はそんなキスだけの日が好きだった。

何度体を重ねても、重ねる合う前は気持ちがたかぶる。だが、終われば、残るのは虚しさだけだということも覚えてしまった。

正直言って、私と彼は体の相性はいいといえない。それがまた悔やまれてならないことも事実である。

それじゃあ、なぜ、彼は私を求めるのだろう。一番に思いつくのは、手頃な女だから・・・。
そして何より私は彼を愛してしまっている。彼の無理な要望にさえ、私が首を横に振ることができないことを彼は既に知っているのだろう。

だが、自分を好きになった女と寝ることは、リスクも高く面倒なことになることもありうると知っているせいか、彼はある日、こう言った。

「俺は自分を好きだと言った女を2度と抱かない」

私は、それが、遠回しにセフレになる条件であり、そばにいたいなら「好き」という言葉は口に出すなという意味でもあると察知した。

お互いの気持ちが同じなら、彼はきっと、ストレートに付き合うことを望むだろう。


口にするなと言われても、既に私の気持ちは彼へと向いている。
だから、私はその気持ちを秘め、今は、彼が振り向いてくれることを待つしかできない。



「したくない」
その一言で彼を失うことが怖かった。

虚しさがあると分かっていながら、甘えるように体を預けた私は、ホテルの門をくぐった。
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