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本編

11.

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 翌朝。朱夏が目を覚ませば、そこは見知らぬ部屋だった。それに一瞬だけ驚くものの、昨夜のことを思いだし納得する。それに、隣には朱夏の恋人となった巽がすやすやと寝息を立てて眠っていた。……息をするたびに揺れる胸が、大層好みだった。

 あの後、何度も何度も互いを貪り合った。どうやら巽は一度では済まなかったらしく、朱夏がもう無理と音を上げるまで行為は続いた。そのまま倒れこむように眠りに落ち、朝を迎えたというわけだ。

 朱夏はベッドから起き上がり、床に散らばった自身の下着と洋服を回収する。それを手早く身に着けていれば、巽が目を覚ました。彼も一瞬だけ驚いたように目を見開くものの、すぐに「……おはよう、ございます」とあいさつをしてくれた。そのため、朱夏は「うん、おはよう」とあいさつを返す。

「その、そっちにシャワーあるんで、浴びてきてください」

 巽が遠慮気味にそう言うので、朱夏はうなずく。でも、汗ばんだ身体をきれいにしたいが、それよりもお腹が減ってしまっている。もう、動きたくないくらいには。

「その……冷蔵庫、開けていい……?」
「……どうしました?」
「お腹空いたから、何か作ろうかなって……」

 人様の家でいきなり料理を作ろうとする朱夏はどう見えているのだろうか。一瞬だけそう思ったが、仮にも彼女なのだ。別に構わないだろうと思いなおし、朱夏はいっそ開き直る。

 そうすれば、巽は「……何もないですけれど、どうぞ」と言ってくれた。なので、朱夏は衣服を身に着け冷蔵庫を開ける。

「何だったら、私が何か作ってるから……その、シャワー浴びてきていいよ……」
「……悪いです」
「ううん、私が好きでやってることだから」

 そう言った朱夏が譲らないとわかったのだろう。巽は渋々といった風にシャワーを浴びに行く。それを見送り、朱夏は冷蔵庫の中をチェックする。……本当に、何もなかった。朝食に使えそうなものといえば卵とベーコンくらいだろうか。

「まぁ、いいや。どうせだしオムレツでも作るか」

 こう見えて朱夏は家庭的である。物心ついた時には母子家庭だったこともあり、いつしか母親を助けたいと思うようになった。そう言うこともあり、料理はお手の物だ。

 てきぱきと朝食を作っていれば、巽が浴室から出てくる。彼は朱夏が料理を作っているのを見て、「……上手ですね」と声をかけてくる。

「……まぁ、私の家母子家庭だから、お母さんの負担になりたくなくて」
「そうなん、ですか」
「うん。……私が生まれてすぐに、お父さん病気で亡くなったんだって」

 何処となく昔話をするように、朱夏はそう言う。母曰く、父は朱夏が生まれて一ヶ月後に病で亡くなったらしい。元々朱夏が生まれる前に発覚しており、余命宣告も受けていたそうだ。

「……本当は私が生まれるまで生きられないって言われていたらしいけれど、私のこと抱っこしてから亡くなったって。お母さん、それが嬉しかったって」

 そんなことを言いながら朱夏が料理を盛り付けてれば巽は何を思ったのだろうか。「朱夏さん」と名前を呼んでくれる。

「そ、その……俺は、あんまり気の利いたこと言えないですけれど……」
「うん」
「俺は、朱夏さんの側に居たいって、思っています」

 しどろもどろになりながら、巽はそう言う。そんな彼がどうしようもないほど愛おしくて、朱夏はオムレツと焼いたベーコンを盛り付けた後、フライパンを置いて巽に抱き着く。

「……私のこと、捨てないでね?」

 上目遣いになりながらそう言えば、巽は「……捨てるわけ、ないです」とまっすぐに朱夏のことを見つめて言ってくれた。

「俺、朱夏さんの理想で居続けられるように、頑張りますから」

 朱夏の目をまっすぐに見つめてそう言う巽に、何とも言えない愛おしさがこみあげてくる。そのため、朱夏は「……いっそ、結婚する?」と問いかけてみた。

「……まぁ、いずれは」
「今じゃ、ダメ?」
「俺、朱夏さんを苦労させない自信がないです」

 何とも真面目な発言に、朱夏がくすっと声を上げて笑う。その後、「食べようか」と声をかける。

「……はい」

 控えめなその返事に癒される。そう思いながら朱夏が皿を運んでいると、不意に玄関の扉が開いた。そして顔を見せたのは……いつも巽の側に居た人物。

「たつみ~。暇だし来た……って、うわ!」
「……千晶ちあき

 千晶と呼ばれた彼は、朱夏のことを見て目を見開く。その後「……もしかして俺、邪魔だよね?」と言って頬を引きつらせていた。

「……まぁ、邪魔、だな」
「そうですよね~、邪魔ですよね~。……今日は仕方がないし、俺、帰る」

 しかし、彼はどうやらかなり空気が読める人物らしい。朱夏に一瞬だけ視線を移し「巽のこと、よろしくお願いします!」とだけ言って去っていった。……嵐のようだった。

「……何だったんでしょうか」

 朱夏がきょとんとしていれば、巽は「……いつもあんな感じだから」と言ってテーブルの前に座る。

「気にしたら、負けですから」

 巽のその言葉を聞いて、朱夏もテーブルの前に座った。それから、二人で朝食を食べていく。汗ばんだ身体は相変わらず気持ち悪いが、心は満たされていた。

(ずっと、ずーっとこうやって過ごせたらいいんだけれどなぁ……)

 内心でそう思いながら、朱夏はオムレツを口に運ぶ。割と美味しく出来たんじゃないだろうか。そう思っていれば、巽は「美味しい、ですね」と声をかけてくれた。

「よかった」

 巽のその言葉に、朱夏は安心する。




 そして、朱夏と巽は大学を卒業後すぐに結婚した。ちなみに、朱夏の母は巽を見た瞬間「めちゃくちゃいい身体してる!」と歓喜していた。……それが、一番朱夏にとって印象的だった。
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