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本編
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辻 朱夏。その名前は、この私立大学に通っていれば誰もが知っている名前である。
何故ならば、彼女は――大層な美女なのだ。
つややかな肩の上までの黒髪と、ぱっちりとした黒い目。すらりとした体躯なのに、胸は少し大きめ。背丈は平均よりも少し上だろうか。朱夏が歩けば、周囲の人間は皆道を開ける。その美しき彼女を一目見ようと、男子学生は列をなす。
日々告白されることは当たり前であるものの、その容姿を鼻にかけない性格から妬まれることは少ない。というよりも、彼女は男性を側に寄せ付けないのだ。どんなに人気のある男性が言い寄ったところで、彼女は一言「ごめんなさい」と言うだけ。
その所為なのだろうか。大学に入学して三年、朱夏を言い表す言葉が出来てしまった。
それは――『難攻不落』。
どんなに容姿の整った男性でも落とせないことから、つけられた呼び名。
噂では過去に男性にこっぴどくフラれたとか、恋愛にトラウマがあるとか。男性嫌いだとか様々なうわさが飛び交う。けれど、朱夏はその一つ一つを否定することもなく、肯定することもなかった。
そもそも、朱夏にとってその噂はどうでもいいことなのだ。だって、どれだけ容姿が優れていても――好みの男性にモテなければ、この容姿はごみ以下なのだから。
◇◆◇
朱夏が通っている大学は、スポーツが盛んであり全国でも名をとどろかせる大学である。朱夏自身は運動がそこまで好きというわけではないが、家が近いためこの大学に入学を希望し入学した。下宿費などは出来る限り使いたくなかったためだ。そもそも、朱夏は勉強ができる。そのため、勉学での特待生として入学し、三年生になった今でも奨励生として学費は半額免除だった。
その日、朱夏は構内の食堂の隅にて二人の友人と共に雑誌を広げていた。この時間は食堂は閑散としており、学生は少ない。そういうこともあり、この場で朱夏は趣味を隠す必要がなかったのだ。
「あぁ、素敵だわ。見てみて――この、筋肉!」
スポーツ雑誌を広げ、朱夏は一人の男性を指さす。その男性はラグビー選手であり、たくましい身体をしていた。それが、朱夏の好みにぴったりだった。
「ははは……」
友人の一人である梨央は苦笑を浮かべ、目をキラキラとさせる朱夏を見つめていた。
梨央はつややかな明るい茶色の髪をした美しい女性である。その派手な見た目とは裏腹に世話焼きな性格だったりする。入学式の日、一番初めに朱夏に声をかけたのも梨央だった。
「あぁ、もうっ! たまらないわ! こういう男性と付き合いたい!」
周囲に人がいないことを好機とばかりに、朱夏はそう言いながら雑誌を嘗め回すように見つめる。
その発言に苦笑を浮かべ、梨央は「……っていうか、朱夏好きな人いるじゃない」と言いながら頬杖をついていた。その一言に、朱夏は硬直してしまう。
そう、朱夏には好きな人がいる。入学してすぐの頃。落とし物を拾ってくれた素敵な同期生。
乱雑に切られた黒色の髪と、鋭い黒色の目。体格はがっしりとしており、服の上からでもそのたくましい身体つきがよく分かった。背丈は高く、朱夏が声をかけられ見上げた瞬間、恋に落ちた。
「で、でもっ! 恥ずかしすぎて、話しかけられないのよぉ……!」
「……いや、朱夏が声をかければどの男もいちころだって」
カフェラテをすする梨央を横目に、朱夏は頬を押さえながら「だ、だって、だってぇ……!」と言いながらもだえる。
「だって、彼に声をかけようとしたら絶対に邪魔が来て、その間に彼に逃げられるのよ。私、きっと嫌われているんだわ」
「それはないと思うよ」
冷静な梨央の言葉にも、朱夏は反応できない。
「そもそもよ? あんななよなよとした男は私に声をかけてくるなっての! 私が好きなのは、たくましいスポーツマンなんだからっ!」
「はいはい」
朱夏のその言葉に梨央は適当に相槌を打つ。
辻 朱夏。彼女は――とにかく初恋を拗らせた、筋肉フェチの女子大生だった。
何故ならば、彼女は――大層な美女なのだ。
つややかな肩の上までの黒髪と、ぱっちりとした黒い目。すらりとした体躯なのに、胸は少し大きめ。背丈は平均よりも少し上だろうか。朱夏が歩けば、周囲の人間は皆道を開ける。その美しき彼女を一目見ようと、男子学生は列をなす。
日々告白されることは当たり前であるものの、その容姿を鼻にかけない性格から妬まれることは少ない。というよりも、彼女は男性を側に寄せ付けないのだ。どんなに人気のある男性が言い寄ったところで、彼女は一言「ごめんなさい」と言うだけ。
その所為なのだろうか。大学に入学して三年、朱夏を言い表す言葉が出来てしまった。
それは――『難攻不落』。
どんなに容姿の整った男性でも落とせないことから、つけられた呼び名。
噂では過去に男性にこっぴどくフラれたとか、恋愛にトラウマがあるとか。男性嫌いだとか様々なうわさが飛び交う。けれど、朱夏はその一つ一つを否定することもなく、肯定することもなかった。
そもそも、朱夏にとってその噂はどうでもいいことなのだ。だって、どれだけ容姿が優れていても――好みの男性にモテなければ、この容姿はごみ以下なのだから。
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朱夏が通っている大学は、スポーツが盛んであり全国でも名をとどろかせる大学である。朱夏自身は運動がそこまで好きというわけではないが、家が近いためこの大学に入学を希望し入学した。下宿費などは出来る限り使いたくなかったためだ。そもそも、朱夏は勉強ができる。そのため、勉学での特待生として入学し、三年生になった今でも奨励生として学費は半額免除だった。
その日、朱夏は構内の食堂の隅にて二人の友人と共に雑誌を広げていた。この時間は食堂は閑散としており、学生は少ない。そういうこともあり、この場で朱夏は趣味を隠す必要がなかったのだ。
「あぁ、素敵だわ。見てみて――この、筋肉!」
スポーツ雑誌を広げ、朱夏は一人の男性を指さす。その男性はラグビー選手であり、たくましい身体をしていた。それが、朱夏の好みにぴったりだった。
「ははは……」
友人の一人である梨央は苦笑を浮かべ、目をキラキラとさせる朱夏を見つめていた。
梨央はつややかな明るい茶色の髪をした美しい女性である。その派手な見た目とは裏腹に世話焼きな性格だったりする。入学式の日、一番初めに朱夏に声をかけたのも梨央だった。
「あぁ、もうっ! たまらないわ! こういう男性と付き合いたい!」
周囲に人がいないことを好機とばかりに、朱夏はそう言いながら雑誌を嘗め回すように見つめる。
その発言に苦笑を浮かべ、梨央は「……っていうか、朱夏好きな人いるじゃない」と言いながら頬杖をついていた。その一言に、朱夏は硬直してしまう。
そう、朱夏には好きな人がいる。入学してすぐの頃。落とし物を拾ってくれた素敵な同期生。
乱雑に切られた黒色の髪と、鋭い黒色の目。体格はがっしりとしており、服の上からでもそのたくましい身体つきがよく分かった。背丈は高く、朱夏が声をかけられ見上げた瞬間、恋に落ちた。
「で、でもっ! 恥ずかしすぎて、話しかけられないのよぉ……!」
「……いや、朱夏が声をかければどの男もいちころだって」
カフェラテをすする梨央を横目に、朱夏は頬を押さえながら「だ、だって、だってぇ……!」と言いながらもだえる。
「だって、彼に声をかけようとしたら絶対に邪魔が来て、その間に彼に逃げられるのよ。私、きっと嫌われているんだわ」
「それはないと思うよ」
冷静な梨央の言葉にも、朱夏は反応できない。
「そもそもよ? あんななよなよとした男は私に声をかけてくるなっての! 私が好きなのは、たくましいスポーツマンなんだからっ!」
「はいはい」
朱夏のその言葉に梨央は適当に相槌を打つ。
辻 朱夏。彼女は――とにかく初恋を拗らせた、筋肉フェチの女子大生だった。
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○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
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