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第2章
⑤
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その後、俺が亜玲に連れてこられたのは、数駅先にあるショッピングモールだった。
今日は土曜日ということもあり、ショッピングモールには割と家族連れが多い。さらにカップルであろう人たちもたくさんいる。
(いや、なんで……)
休日のショッピングモールといえば、デートスポットの定番だろう。
それは、恋愛経験の乏しい俺にもわかる。
だから、思うのだ。いくらなんでも、こんなところに連れてくるのは違うだろう。
「亜玲。……付き合うとは言ったけれど、ショッピングモールだとは聞いてないんだけど」
隣を歩く亜玲の顔を見上げて、そう問いかける。すると、亜玲の視線が俺に注がれた。亜玲は笑っていた。
「そりゃあ、言ってないからね。……だって、嫌でしょ?」
わかっているのならば、連れてこないでほしい。
そういう意味を込めて亜玲を睨みつければ、奴はただ笑みを深めるだけだった。
「……あのなぁ」
俺が亜玲に小言をぶつけようとしたとき、不意に手を掴まれた。
それに驚いてそちらに視線を向けると、俺の手を掴んでいるのは当然ながらに亜玲だった。
亜玲は俺の手を掴んだかと思うと、今度は指を絡めてくる。……いわゆる、恋人つなぎという奴だ。
「あ、亜玲!」
絡められた指を解こうとする。なのに、亜玲は手に力を込めた。これじゃあ、指を解くこともできない。
「別にいいじゃん。減るもんじゃないし」
「……へ、減るもんじゃないって」
確かに指を絡めたくらいで減るようなものはないかもしれない。
あえて言うのならば、俺の精神がすり減るくらいだろうか。
……それも、大問題か。
「ほら、行くよ」
そんな俺の気持ちを無視して、亜玲が足を前に進めていく。
指を絡められている所為で、俺は亜玲についていくことしか出来ない。
(……そう、いえば)
昔は、よく亜玲と出掛けたっけな……。
もちろん当時は子供だったので、互いの家族を含めてだったけれど。
いつからか、亜玲と仲違いして、俺は亜玲を嫌うようになって……。
(こいつは、俺に嫌われてどう思っていたんだろう)
今更ながらに、そう思った。
亜玲は俺に嫌われてどう感じたんだろうか。嫌われるようなことをしたのは亜玲だ。が、初めに酷いことをしたのは俺で……。
過去に浸りつつ、亜玲を見上げた。亜玲の後頭部が見えて、なんだか照れくさくなる。
昔は俺のほうが身長が高かったのに。気が付いたら、亜玲には抜かされていて、体格だって亜玲のほうが立派になった。
そりゃあ、オメガである俺はアルファの亜玲には勝てない。それくらい、頭の中では理解している。
心の中には、昔の天使のような亜玲がまだ住み着いているんだけれど。
「……亜玲」
小さく亜玲のことを呼ぶ。そうすれば、タイミングよく亜玲がこちらに視線を向けた。亜玲は、嬉しそうに笑う。
「なぁに、祈?」
「……なんでもない」
亜玲の言葉に、素っ気なく言葉を返す。
なんでもない。そうだ、なんでもない。
ほんの少し過去に浸っていたとか、懐かしい気持ちを抱いていたとか。そういうの、亜玲には関係ない。亜玲には知られるわけにはいかない。
「そっか」
亜玲は問い詰めてはこなかった。が、俺の手を握る手に力がこもったような気がする。
ぎゅっと握られた手が、震えているような気がする。
(……もしかして、亜玲にはなにか怖いことがあるのか?)
不意に、そんなことを思ってしまった。
亜玲にはなにか恐れていることがあって、それを誤魔化すために明るく振る舞っているのかも……とまで想像して、やっぱりやめた。
だって、そうじゃないか。俺は亜玲に深入りしたくない。亜玲だって、俺なんかには深入りされたくないだろう。
番でも恋人でもない。ただの、幼馴染の男。
自分を卑下してそう思っていたとき、頭の中によぎったのは――朝食の際に亜玲が俺に囁いた、意味の分からない言葉だった。
今日は土曜日ということもあり、ショッピングモールには割と家族連れが多い。さらにカップルであろう人たちもたくさんいる。
(いや、なんで……)
休日のショッピングモールといえば、デートスポットの定番だろう。
それは、恋愛経験の乏しい俺にもわかる。
だから、思うのだ。いくらなんでも、こんなところに連れてくるのは違うだろう。
「亜玲。……付き合うとは言ったけれど、ショッピングモールだとは聞いてないんだけど」
隣を歩く亜玲の顔を見上げて、そう問いかける。すると、亜玲の視線が俺に注がれた。亜玲は笑っていた。
「そりゃあ、言ってないからね。……だって、嫌でしょ?」
わかっているのならば、連れてこないでほしい。
そういう意味を込めて亜玲を睨みつければ、奴はただ笑みを深めるだけだった。
「……あのなぁ」
俺が亜玲に小言をぶつけようとしたとき、不意に手を掴まれた。
それに驚いてそちらに視線を向けると、俺の手を掴んでいるのは当然ながらに亜玲だった。
亜玲は俺の手を掴んだかと思うと、今度は指を絡めてくる。……いわゆる、恋人つなぎという奴だ。
「あ、亜玲!」
絡められた指を解こうとする。なのに、亜玲は手に力を込めた。これじゃあ、指を解くこともできない。
「別にいいじゃん。減るもんじゃないし」
「……へ、減るもんじゃないって」
確かに指を絡めたくらいで減るようなものはないかもしれない。
あえて言うのならば、俺の精神がすり減るくらいだろうか。
……それも、大問題か。
「ほら、行くよ」
そんな俺の気持ちを無視して、亜玲が足を前に進めていく。
指を絡められている所為で、俺は亜玲についていくことしか出来ない。
(……そう、いえば)
昔は、よく亜玲と出掛けたっけな……。
もちろん当時は子供だったので、互いの家族を含めてだったけれど。
いつからか、亜玲と仲違いして、俺は亜玲を嫌うようになって……。
(こいつは、俺に嫌われてどう思っていたんだろう)
今更ながらに、そう思った。
亜玲は俺に嫌われてどう感じたんだろうか。嫌われるようなことをしたのは亜玲だ。が、初めに酷いことをしたのは俺で……。
過去に浸りつつ、亜玲を見上げた。亜玲の後頭部が見えて、なんだか照れくさくなる。
昔は俺のほうが身長が高かったのに。気が付いたら、亜玲には抜かされていて、体格だって亜玲のほうが立派になった。
そりゃあ、オメガである俺はアルファの亜玲には勝てない。それくらい、頭の中では理解している。
心の中には、昔の天使のような亜玲がまだ住み着いているんだけれど。
「……亜玲」
小さく亜玲のことを呼ぶ。そうすれば、タイミングよく亜玲がこちらに視線を向けた。亜玲は、嬉しそうに笑う。
「なぁに、祈?」
「……なんでもない」
亜玲の言葉に、素っ気なく言葉を返す。
なんでもない。そうだ、なんでもない。
ほんの少し過去に浸っていたとか、懐かしい気持ちを抱いていたとか。そういうの、亜玲には関係ない。亜玲には知られるわけにはいかない。
「そっか」
亜玲は問い詰めてはこなかった。が、俺の手を握る手に力がこもったような気がする。
ぎゅっと握られた手が、震えているような気がする。
(……もしかして、亜玲にはなにか怖いことがあるのか?)
不意に、そんなことを思ってしまった。
亜玲にはなにか恐れていることがあって、それを誤魔化すために明るく振る舞っているのかも……とまで想像して、やっぱりやめた。
だって、そうじゃないか。俺は亜玲に深入りしたくない。亜玲だって、俺なんかには深入りされたくないだろう。
番でも恋人でもない。ただの、幼馴染の男。
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