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第2章
④
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「……は?」
自分でも驚くほどに素っ頓狂な声が出た。
視線をずらして、亜玲を見つめる。亜玲は、ニコニコと笑ったままだった。
(冗談、なのか? それとも……)
亜玲の表情からは、この告白が本気なのか、はたまた嘘なのか。それさえ読み取れなかった。
その所為で、俺の頭は混乱してしまう。亜玲のことを、ぼうっと見つめてしまった。
「俺はね、祈のことが大好きなの。ずっと、ずーっと、ね……」
何処となく執着心を孕んだような声でそう言われて、背筋がぞっとした。
亜玲の腕が、俺のことを抱きしめる。ぎゅうっと抱きしめられて、まるで抱き殺されるのではないかと思うほどだった。
(これは、子供が力加減を誤って玩具を壊すみたいな……)
そんな雰囲気さえ、感じられる。
「……あ、れい」
亜玲の名前を呼んで、目を見つめた。
亜玲の手が、俺の身体の上を這う。腰を撫でて、腹を撫でて。胸まで撫でられた。
身体中になんとも言えない感覚が這いまわる。
「……祈が、俺の腕の中にいるんだ……」
うっとりとした声でそう呟いた亜玲。対する俺の背筋は、ゾクゾクとしている。
「離せ」と言いたいのに、その一言が口から出てくれない。
じっと亜玲に抱きしめられていれば、腕の拘束が緩んだ。
「あのさ、祈」
「……あぁ」
端的に呼ばれて、素っ気なく返事をする。
亜玲は俺の首筋に顔をうずめた。ふわりとした甘い香りが、俺の鼻腔をくすぐる。こいつの香水か、なにかなんだろう。
「この後暇でしょ? 一緒に出掛けようよ」
けれど、それはいただけない。
なので、俺は「嫌だ」と端的に言葉を投げ返した。
「どうして? 今日は土曜日だし、講義もないんだよ?」
「それはそれ、これはこれだ」
亜玲と仲良く出掛けるなんて、絶対にごめんだ。
心の奥底からの気持ちを口に出せば、亜玲がむすっとしたのがわかった。
「祈。祈は、俺の、でしょ?」
まただ。執着心を孕んだような声で、俺のことを呼ぶ。本能がざわめく。
「……お前のになった覚えはない」
が、本当にそうなのだ。一度抱かれたからといって、亜玲のものになるなんて決めていない。
そういう意味を込めてゆるゆると首を横に振れば、亜玲の手が俺の顎を掴む。そして、固定した。
「祈。……俺の言うこと、聞いて」
亜玲が俺の顔を覗き込んで、そう言う。
……顔を固定されている所為で、視線を逸らすこともできない。
「今まで散々焦らしてきたんだから、俺のお願いくらい聞いてくれてもいいじゃんか」
「……焦らすって」
そんなことをした覚えはない。
ついでに言えば、なにがこいつをここまで動かしているのかもわからない。
「ほかの輩と付き合ったりして、俺の心を弄んだくせに」
亜玲が小さくそう吐き捨てた。
……別に、それは亜玲の心を弄んだわけじゃない。そんなつもりは一切ない。
「そんなつもり、ないけど」
「俺はそう思ったの」
なんだこれ。口論にも満たない、痴話喧嘩。
けれど、軽口をたたき合っているとまるで昔に戻ったみたいだった。
……まったくもって、不本意なことに。
「ほら、朝ごはん食べて。俺がシャワーを浴びて、着替えたら行くよ」
亜玲は俺を説得するのは諦めたらしい。それだけを言う。
……もう、なにもかもが面倒になってしまった。
「……はいはい」
どうせ亜玲のことだ。一度付き合えば飽きるだろう。
それに、もういい加減意地を張るのも疲れてしまった。……というよりも。
(腹減った……)
昨夜からなにも食べていないのだ。俺の腹はぺこぺこで、とにかくなにかを腹に入れたかった。
(うま……)
口にした朝食は、信じられないくらいに美味だった。
……亜玲の奴、どういう風に作ったんだろうか。そんな疑問を抱くほどだった。
自分でも驚くほどに素っ頓狂な声が出た。
視線をずらして、亜玲を見つめる。亜玲は、ニコニコと笑ったままだった。
(冗談、なのか? それとも……)
亜玲の表情からは、この告白が本気なのか、はたまた嘘なのか。それさえ読み取れなかった。
その所為で、俺の頭は混乱してしまう。亜玲のことを、ぼうっと見つめてしまった。
「俺はね、祈のことが大好きなの。ずっと、ずーっと、ね……」
何処となく執着心を孕んだような声でそう言われて、背筋がぞっとした。
亜玲の腕が、俺のことを抱きしめる。ぎゅうっと抱きしめられて、まるで抱き殺されるのではないかと思うほどだった。
(これは、子供が力加減を誤って玩具を壊すみたいな……)
そんな雰囲気さえ、感じられる。
「……あ、れい」
亜玲の名前を呼んで、目を見つめた。
亜玲の手が、俺の身体の上を這う。腰を撫でて、腹を撫でて。胸まで撫でられた。
身体中になんとも言えない感覚が這いまわる。
「……祈が、俺の腕の中にいるんだ……」
うっとりとした声でそう呟いた亜玲。対する俺の背筋は、ゾクゾクとしている。
「離せ」と言いたいのに、その一言が口から出てくれない。
じっと亜玲に抱きしめられていれば、腕の拘束が緩んだ。
「あのさ、祈」
「……あぁ」
端的に呼ばれて、素っ気なく返事をする。
亜玲は俺の首筋に顔をうずめた。ふわりとした甘い香りが、俺の鼻腔をくすぐる。こいつの香水か、なにかなんだろう。
「この後暇でしょ? 一緒に出掛けようよ」
けれど、それはいただけない。
なので、俺は「嫌だ」と端的に言葉を投げ返した。
「どうして? 今日は土曜日だし、講義もないんだよ?」
「それはそれ、これはこれだ」
亜玲と仲良く出掛けるなんて、絶対にごめんだ。
心の奥底からの気持ちを口に出せば、亜玲がむすっとしたのがわかった。
「祈。祈は、俺の、でしょ?」
まただ。執着心を孕んだような声で、俺のことを呼ぶ。本能がざわめく。
「……お前のになった覚えはない」
が、本当にそうなのだ。一度抱かれたからといって、亜玲のものになるなんて決めていない。
そういう意味を込めてゆるゆると首を横に振れば、亜玲の手が俺の顎を掴む。そして、固定した。
「祈。……俺の言うこと、聞いて」
亜玲が俺の顔を覗き込んで、そう言う。
……顔を固定されている所為で、視線を逸らすこともできない。
「今まで散々焦らしてきたんだから、俺のお願いくらい聞いてくれてもいいじゃんか」
「……焦らすって」
そんなことをした覚えはない。
ついでに言えば、なにがこいつをここまで動かしているのかもわからない。
「ほかの輩と付き合ったりして、俺の心を弄んだくせに」
亜玲が小さくそう吐き捨てた。
……別に、それは亜玲の心を弄んだわけじゃない。そんなつもりは一切ない。
「そんなつもり、ないけど」
「俺はそう思ったの」
なんだこれ。口論にも満たない、痴話喧嘩。
けれど、軽口をたたき合っているとまるで昔に戻ったみたいだった。
……まったくもって、不本意なことに。
「ほら、朝ごはん食べて。俺がシャワーを浴びて、着替えたら行くよ」
亜玲は俺を説得するのは諦めたらしい。それだけを言う。
……もう、なにもかもが面倒になってしまった。
「……はいはい」
どうせ亜玲のことだ。一度付き合えば飽きるだろう。
それに、もういい加減意地を張るのも疲れてしまった。……というよりも。
(腹減った……)
昨夜からなにも食べていないのだ。俺の腹はぺこぺこで、とにかくなにかを腹に入れたかった。
(うま……)
口にした朝食は、信じられないくらいに美味だった。
……亜玲の奴、どういう風に作ったんだろうか。そんな疑問を抱くほどだった。
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