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第2章
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シャワーを浴びている間、俺はずっと考え込んでいた。
どうして亜玲が俺のことを抱いたのか。もしかしたら、嫌がらせの延長かもしれない。
だけど、どうしてだろうか。それだけではない気がしていた。
衣服を着て浴室を出ると、亜玲が手際よく朝食を作っていた。一人掛けのテーブルの上に、二人分。メニューはシンプルなもので、トーストと目玉焼き。あと、サラダ。飲み物はコーヒーかなにかだろう。
「あ、シャワー終わった?」
亜玲がニコニコと笑って問いかけてくる。
その所為で、俺は一拍遅れて頷いた。だって、亜玲の笑みが不気味だったから。
「……亜玲も、シャワー浴びてきたらどうだ?」
そっと亜玲から視線を逸らして、提案してみる。すると、亜玲は「また、後でいいや」と言って俺のほうに近づいてきた。
俺の顔を覗き込んでくる亜玲。その目がとても美しくて、自然と喉が鳴った。
「とりあえず、食べようよ」
にっこりと笑った亜玲が、俺を朝食に誘ってくる。一瞬頷きそうになるものの、俺はハッとして首を横に振る。
(俺は、亜玲のところになにをしに来たんだ!?)
心の中でそう叫んで、俺は亜玲を睨みつけた。
そうだ。俺は亜玲と仲良くなるつもりでここに来たわけじゃない。
何度も言うが、情事に及んだのだって不可抗力。亜玲が勝手に襲ってきただけ……そう、だと思う。
(最後のほう、記憶ないわけだし……なにか、変なことを言っていなかったらいいんだけど)
途中から記憶がない。ただ唯一わかるのは、これでもかというほどに乱されたことくらいだろうか。
今だって、喉が痛いのだから。多分、散々喘がされた。
「祈?」
奴の顔が、俺に間近に迫ってくる。
口づけできそうなほどに近い距離にある、亜玲の端正な顔。……心臓が、高鳴った。
「い、いや、俺は帰る。……こんな風に仲良くしにきたわけじゃ、ないし」
朝食に罪はない。だから、ちょっと思うことはある。
それでも、亜玲のことだ。捨てるなんてことはしない……だろう。
そう思って俺が玄関に足を向けようとすると、亜玲の手が俺の手首を掴んだ。
「……そんな悲しいこと言わないで。……せっかく、久々に二人きりになれたのに」
「は?」
こいつは一体なにを言っているんだ……?
俺の頬が引きつるのがわかる。亜玲のほうに視線を向ければ、亜玲は眉を下げていた。
「俺の気分は最高なのに。……普段よりも、すっきりと目覚められたし」
「俺の気分は最悪だよ!」
亜玲がなにを思って最高の気分だというのかはわからない。
唯一わかるのは、俺の目覚めは最悪だったということだけだ。
(なにが好き好んで目覚めにコイツの顔を見なくちゃならないんだよ……!)
しかも、仲良く朝食を摂るなんて……。
「……祈」
ふと、亜玲が真剣な声で俺の名前を呼んだ。
……無視するのも申し訳なくて、亜玲にちらりと一度だけ視線を向ける。
亜玲の手が伸びてくる。……そのきれいな指が、俺の顎を掬い上げる。
「なにが、最悪なの?」
きょとんとしながら、亜玲がそう問いかけてくる。な、にがって!
「全部だよ。亜玲に抱かれて、亜玲と同じベッドで寝て、起きて。挙句、仲良く朝食を摂るなんて……」
そんなの、俺の気持ちが許さない。情緒がめちゃくちゃな自覚はある。が、俺の情緒を乱しているのはほかでもない亜玲で……。
「俺は、それが幸せなんだけれどなぁ」
なのに、亜玲はそう言って、俺の顔にぐっと自身の顔を近づけてくる。
「それに、そんな口をたたくんだったら、もっと愛してあげてもいいよ? あ、キスで殺してあげようか?」
……背筋にヒヤッとしたものが這いまわったような気がした。
「あ、れい……」
「いい子の祈りは、俺の言っていることの意味がわかるよね?」
俺の頬がさらに引きつるのがわかった。……俺は、頷くことしか出来ない。
「可愛い。……ほら、こっちだよ」
そう言った亜玲は、俺の手首を掴んでそのまま引っ張っていく。本当に最悪な気分だった。
どうして亜玲が俺のことを抱いたのか。もしかしたら、嫌がらせの延長かもしれない。
だけど、どうしてだろうか。それだけではない気がしていた。
衣服を着て浴室を出ると、亜玲が手際よく朝食を作っていた。一人掛けのテーブルの上に、二人分。メニューはシンプルなもので、トーストと目玉焼き。あと、サラダ。飲み物はコーヒーかなにかだろう。
「あ、シャワー終わった?」
亜玲がニコニコと笑って問いかけてくる。
その所為で、俺は一拍遅れて頷いた。だって、亜玲の笑みが不気味だったから。
「……亜玲も、シャワー浴びてきたらどうだ?」
そっと亜玲から視線を逸らして、提案してみる。すると、亜玲は「また、後でいいや」と言って俺のほうに近づいてきた。
俺の顔を覗き込んでくる亜玲。その目がとても美しくて、自然と喉が鳴った。
「とりあえず、食べようよ」
にっこりと笑った亜玲が、俺を朝食に誘ってくる。一瞬頷きそうになるものの、俺はハッとして首を横に振る。
(俺は、亜玲のところになにをしに来たんだ!?)
心の中でそう叫んで、俺は亜玲を睨みつけた。
そうだ。俺は亜玲と仲良くなるつもりでここに来たわけじゃない。
何度も言うが、情事に及んだのだって不可抗力。亜玲が勝手に襲ってきただけ……そう、だと思う。
(最後のほう、記憶ないわけだし……なにか、変なことを言っていなかったらいいんだけど)
途中から記憶がない。ただ唯一わかるのは、これでもかというほどに乱されたことくらいだろうか。
今だって、喉が痛いのだから。多分、散々喘がされた。
「祈?」
奴の顔が、俺に間近に迫ってくる。
口づけできそうなほどに近い距離にある、亜玲の端正な顔。……心臓が、高鳴った。
「い、いや、俺は帰る。……こんな風に仲良くしにきたわけじゃ、ないし」
朝食に罪はない。だから、ちょっと思うことはある。
それでも、亜玲のことだ。捨てるなんてことはしない……だろう。
そう思って俺が玄関に足を向けようとすると、亜玲の手が俺の手首を掴んだ。
「……そんな悲しいこと言わないで。……せっかく、久々に二人きりになれたのに」
「は?」
こいつは一体なにを言っているんだ……?
俺の頬が引きつるのがわかる。亜玲のほうに視線を向ければ、亜玲は眉を下げていた。
「俺の気分は最高なのに。……普段よりも、すっきりと目覚められたし」
「俺の気分は最悪だよ!」
亜玲がなにを思って最高の気分だというのかはわからない。
唯一わかるのは、俺の目覚めは最悪だったということだけだ。
(なにが好き好んで目覚めにコイツの顔を見なくちゃならないんだよ……!)
しかも、仲良く朝食を摂るなんて……。
「……祈」
ふと、亜玲が真剣な声で俺の名前を呼んだ。
……無視するのも申し訳なくて、亜玲にちらりと一度だけ視線を向ける。
亜玲の手が伸びてくる。……そのきれいな指が、俺の顎を掬い上げる。
「なにが、最悪なの?」
きょとんとしながら、亜玲がそう問いかけてくる。な、にがって!
「全部だよ。亜玲に抱かれて、亜玲と同じベッドで寝て、起きて。挙句、仲良く朝食を摂るなんて……」
そんなの、俺の気持ちが許さない。情緒がめちゃくちゃな自覚はある。が、俺の情緒を乱しているのはほかでもない亜玲で……。
「俺は、それが幸せなんだけれどなぁ」
なのに、亜玲はそう言って、俺の顔にぐっと自身の顔を近づけてくる。
「それに、そんな口をたたくんだったら、もっと愛してあげてもいいよ? あ、キスで殺してあげようか?」
……背筋にヒヤッとしたものが這いまわったような気がした。
「あ、れい……」
「いい子の祈りは、俺の言っていることの意味がわかるよね?」
俺の頬がさらに引きつるのがわかった。……俺は、頷くことしか出来ない。
「可愛い。……ほら、こっちだよ」
そう言った亜玲は、俺の手首を掴んでそのまま引っ張っていく。本当に最悪な気分だった。
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