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第2章
①
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瞼を上げる。
視界に入ったのは、見知らぬ天井。ハッとして身体を起こしたとき……腰に鈍い痛みが走った。
痛みに顔をしかめていれば、俺の隣に誰かがいることに気が付く。
その人物は目をこすりながらのそのそと起き上がった。
寝起きだというのに、恐ろしいほどに顔の整った男だ。
「あぁ、祈。おはよう」
その男――亜玲がにっこりと笑って、そう言ってくる。
……おはようじゃない!
「亜玲!」
亜玲の顔を見て、意識が一気に覚醒した。
だから、俺は叫ぶ。亜玲はきょとんとしていた。
「どうしたの、祈?」
なにもわからないとばかりの表情で、亜玲は俺の腰に腕を回す。
いつの間にかたくましくなっていた腕に意識が集中して、顔に熱が溜まった。
……俺は、昨日、この男と――。
(って、なにを考えているんだ。……俺は、ここに抗議をしに来たはずなのに……!)
だけど、気が付いたら亜玲に抱かれていた。
不本意すぎることに、最奥に欲を注がれてしまった。
自身の身体を見下ろす。情事の痕だとすぐにばれてしまうような赤い痕が、俺の身体中に散っている。
俺が意識を失う前は、ここまでじゃなかったはずなのに。
「……亜玲」
じっと亜玲の顔を見て、名前を呼ぶ。
亜玲は大きく伸びをしつつ、ベッドから下りる。そのまま床に散らばった衣服を回収したかと思うと、こちらを振り向いた。
「朝から大声は出さないほうがいいよ。近所迷惑だし」
なにも、言えなかった。
いくら防音が優れているとはいえ、全く聞こえないというわけではないだろう。
(ということは、もしかして昨夜の俺の声も……)
隣室に聞こえていたのかも……と思うと、さらにカーっと顔に熱が溜まった。
聞かれていたと想像すると、恥ずかしくてたまらない。穴があったら入ってしまいたい。
そう思って掛布団に顔をうずめれば、亜玲が俺の肩をたたいた。
「とりあえず、シャワーでも浴びてきたら? 身体をすっきりさせたいかと思うんだけど」
ちらりと亜玲に視線を向ければ、こいつは憎たらしいほどに笑っていた。
だから、俺は乱暴に掛布団を放り投げて、立ち上がる。床に散らばった衣服をかき集めて寝室を出ていく。
「玄関から数えて二つ目の扉ね」
「……あぁ」
亜玲の言葉に端的に返事をして、教えられたとおりの扉を開ける。脱衣所には、当然だが洗面台が置いてある。
(……なんていうか)
洗面台の鏡に映った俺自身を見つめて、絶句する。
自身でも認識していない場所にも、相当な数の赤い痕が散っていた。
首筋には頑丈なチョーカーを着けているので、幸いにもここにはつけられていないようだ。
(っていうか、そもそも、いつヒートが来るかわからないんだから、アルファの前で首筋を無防備にすることなんて、出来ないんだよな……)
ヒートの際に情事を行い、首筋を噛まれると『番』の契約が成立してしまう。
『番』がいたほうが、色々と面倒なことがないのは理解している。だけど、それは一種の諸刃の刃なのだ。
オメガにとって、『番』契約とは、それほどまでに重要なこと。
(亜玲と番うなんて、死んでもごめんだ)
昨夜、亜玲は俺を番にしてあげようかみたいなことを、言っていた。
所詮は悪ふざけだと思うけれど、本気だったとしても亜玲の番だけは絶対に嫌だ。
あんな、悪魔みたいな男の番だなんて……。
(とにかく、シャワーを浴びて着替えたらもう出て行こう。……こんなところに、長居をするつもりはない)
とりあえず、俺が伝えたいことはしっかりと伝えた……と、思うし。
なし崩しに関係を持ってしまったけれど、もうこれっきりだ。
(ハジメテは好きな奴とって、決めてたのにな……)
イマドキその考えは古いのかもしれない。けれど、ずっと夢見てきたんだ。
俺は好きな奴と身体をつなげるんだって。
「なのに、どういうことなんだろ。……この世で一番嫌いな奴と、身体をつなげるなんて」
俺の口から零れた言葉には、自分自身に対する嘲笑がこれでもかというほどに含まれていた。
視界に入ったのは、見知らぬ天井。ハッとして身体を起こしたとき……腰に鈍い痛みが走った。
痛みに顔をしかめていれば、俺の隣に誰かがいることに気が付く。
その人物は目をこすりながらのそのそと起き上がった。
寝起きだというのに、恐ろしいほどに顔の整った男だ。
「あぁ、祈。おはよう」
その男――亜玲がにっこりと笑って、そう言ってくる。
……おはようじゃない!
「亜玲!」
亜玲の顔を見て、意識が一気に覚醒した。
だから、俺は叫ぶ。亜玲はきょとんとしていた。
「どうしたの、祈?」
なにもわからないとばかりの表情で、亜玲は俺の腰に腕を回す。
いつの間にかたくましくなっていた腕に意識が集中して、顔に熱が溜まった。
……俺は、昨日、この男と――。
(って、なにを考えているんだ。……俺は、ここに抗議をしに来たはずなのに……!)
だけど、気が付いたら亜玲に抱かれていた。
不本意すぎることに、最奥に欲を注がれてしまった。
自身の身体を見下ろす。情事の痕だとすぐにばれてしまうような赤い痕が、俺の身体中に散っている。
俺が意識を失う前は、ここまでじゃなかったはずなのに。
「……亜玲」
じっと亜玲の顔を見て、名前を呼ぶ。
亜玲は大きく伸びをしつつ、ベッドから下りる。そのまま床に散らばった衣服を回収したかと思うと、こちらを振り向いた。
「朝から大声は出さないほうがいいよ。近所迷惑だし」
なにも、言えなかった。
いくら防音が優れているとはいえ、全く聞こえないというわけではないだろう。
(ということは、もしかして昨夜の俺の声も……)
隣室に聞こえていたのかも……と思うと、さらにカーっと顔に熱が溜まった。
聞かれていたと想像すると、恥ずかしくてたまらない。穴があったら入ってしまいたい。
そう思って掛布団に顔をうずめれば、亜玲が俺の肩をたたいた。
「とりあえず、シャワーでも浴びてきたら? 身体をすっきりさせたいかと思うんだけど」
ちらりと亜玲に視線を向ければ、こいつは憎たらしいほどに笑っていた。
だから、俺は乱暴に掛布団を放り投げて、立ち上がる。床に散らばった衣服をかき集めて寝室を出ていく。
「玄関から数えて二つ目の扉ね」
「……あぁ」
亜玲の言葉に端的に返事をして、教えられたとおりの扉を開ける。脱衣所には、当然だが洗面台が置いてある。
(……なんていうか)
洗面台の鏡に映った俺自身を見つめて、絶句する。
自身でも認識していない場所にも、相当な数の赤い痕が散っていた。
首筋には頑丈なチョーカーを着けているので、幸いにもここにはつけられていないようだ。
(っていうか、そもそも、いつヒートが来るかわからないんだから、アルファの前で首筋を無防備にすることなんて、出来ないんだよな……)
ヒートの際に情事を行い、首筋を噛まれると『番』の契約が成立してしまう。
『番』がいたほうが、色々と面倒なことがないのは理解している。だけど、それは一種の諸刃の刃なのだ。
オメガにとって、『番』契約とは、それほどまでに重要なこと。
(亜玲と番うなんて、死んでもごめんだ)
昨夜、亜玲は俺を番にしてあげようかみたいなことを、言っていた。
所詮は悪ふざけだと思うけれど、本気だったとしても亜玲の番だけは絶対に嫌だ。
あんな、悪魔みたいな男の番だなんて……。
(とにかく、シャワーを浴びて着替えたらもう出て行こう。……こんなところに、長居をするつもりはない)
とりあえず、俺が伝えたいことはしっかりと伝えた……と、思うし。
なし崩しに関係を持ってしまったけれど、もうこれっきりだ。
(ハジメテは好きな奴とって、決めてたのにな……)
イマドキその考えは古いのかもしれない。けれど、ずっと夢見てきたんだ。
俺は好きな奴と身体をつなげるんだって。
「なのに、どういうことなんだろ。……この世で一番嫌いな奴と、身体をつなげるなんて」
俺の口から零れた言葉には、自分自身に対する嘲笑がこれでもかというほどに含まれていた。
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