【R18】悪魔な幼馴染から逃げ切る方法。

すめらぎかなめ(夏琳トウ)

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第1章

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 亜玲の指先は冷たかった。

 その指に触れられていると、ゾクゾクとしたものが背中を駆けあがっていく。

 ……頭が警告を鳴らした。このまま、ここにいてはいけないと。

「ふざけるな! 俺は、お前のことが嫌いなんだよ……!」

 亜玲の手を振り払って、もう一度玄関のほうに身体を向ける。

 ……時間の無駄だった。こいつと話そうとした俺が馬鹿だった。

(亜玲は、悪魔だ)

 昔の天使のような亜玲は、もう居ないんだ。

 今の亜玲は悪魔で、俺の不幸を願っているんだ。

 ぎゅっと唇を結んで、俺は一歩を踏み出そうとした。……踏み出せなかったけれど。

 それは、亜玲が俺の手首を掴んだからだ。

「なに、逃げようとしてるの?」

 そう言った亜玲が、俺の身体を自身のほうに引き寄せる。気が付いたら、俺は亜玲の腕の中にいた。

 驚いて目を見開けば、亜玲がぎゅうっと俺の身体を抱きしめてくる。……冗談じゃ、ない。

「離せ! お前にこんなことをされる筋合いは……!」

 亜玲の腕の中から抜け出そうと、暴れる。が、そんな俺の抵抗を簡単にねじ伏せて、亜玲は素早く俺の身体を床に押し倒した。

 そのまま亜玲は俺の身体の上に跨ってくる。頭の中でさらに強い警告音が響く。このままだと、ダメだと。

 黒曜石のような目が、俺を見つめている。その目の奥に宿った感情は、一体なんなのだろうか。

(って、こんなことを思っている場合じゃない。さっさと、逃げよう)

 だから、俺は暴れる。

 でも、亜玲にいとも簡単にねじ伏せられてしまった。俺の抵抗は、亜玲には小さなダメージ一つ与えられなかった。

 亜玲が俺の肩を掴んでまた床に押し付ける。……その力は遠慮がなくて、痛みを与えてくるほどだ。

「あのさぁ、祈」
「な、んだよ……」

 俺を見下ろす亜玲の目が、怖い。

 その所為だろう。俺の声は震えていた。……怖い。本能が、そう告げる。

 そんな俺の気持ちなど知りもしない亜玲は、俺の頬に指先を押し付けて来た。先ほどと同じ、冷たい指先だ。

「なに、か言えよ……!」

 沈黙が場を支配することに耐えられず、俺は震える声でそう吐き捨てた。

 互いの呼吸の音だけが聞こえる空間。……辛い。いたたまれない。

 にっこりと笑った亜玲が、俺を見下ろす。そして、奴の指が俺の頬から顎に移動し、そこを掬い上げる。

「……祈、可愛い」
「――っ!」

 亜玲は、そう囁いた。

 そして、俺の唇に自身の唇を重ねてくる。

 ちゅっと音を立てて口づけられて、俺は目を見開いた。

 ……こいつ、今、なにをした!?

「な、なっ!」

 ゆっくりと離れていく亜玲の顔を、まじまじと見つめた。

 なんで、なんでこんなことされなきゃならないんだよ!

「な、にするんだよ……!」

 なのに、抗議の声は小さくて震えていて、弱々しい。

 思いきり強く言いたかったのに、言えない。気が動転して、脳内が行われたことを理解したくないと訴えてくる。

 そりゃそうだ。だって今、俺は、亜玲と口づけて――。

「可愛い反応だね。……キスだけで、こんなに可愛いなんて」

 亜玲は俺の話なんて聞いていないようだった。そう呟いて、俺の頬を指先でするりと撫でる。

 冷たい指先が火照った頬を冷ましていく。……心地いい、なんて、思ってはダメなのに。

 どくんどくんと、心臓が嫌な音を立てている。……と、とりあえず、なんとかして、亜玲の下から抜け出さないと……。

「ふ、ふざけ、るな……」

 なにか言わなくちゃ。

 そう思った俺の口から出てきたのは、覇気のない言葉。

「遊びで、口づけなんてするな。……こんなの」
「こんなの、なの? 気持ちが通じ合っていないって言いたいの?」

 亜玲は俺のことをバカにするような声でそう言った。

 ……なんだこいつ。本当に、悪魔みたいな男だ。

「祈って、案外バカだよね。……キスなんて誰だってするでしょ。気持ちが通じ合っていなくても、遊びでも」

 にっこりと笑った亜玲が、俺を見下ろした。

 俺は、息を呑む。だって俺は、亜玲みたいな考えじゃない。
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