【完結】【R18】恋愛未経験なのに、モテる騎士の幼馴染に「童貞を拗らせた責任を取れ」と迫られています。正直知らない。

すめらぎかなめ(夏琳トウ)

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本編

モテる幼馴染の秘密 14

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 少し身じろぎして、なんか狭いなぁって思って瞼を開ける。

 すると、視界いっぱいに広がったマルクスの顔に驚いて慌てて飛び起きて、額と額がごつんと音を立ててぶつかった。

「……ロドルフ」

 マルクスが抗議するような声をかけてくる。

 けど、俺はそれどころじゃない。身体が、特に腰が痛い。

 その所為で俺は眠る前に自分がどういうことをしていたのかを、否応なしに思い出してしまった。

(お、れ、マルクスと……)

 なんか無性に恥ずかしくて、顔にカーっと熱が溜まっていくような感覚。

 マルクスの顔をまっすぐに見ることも難しくて、彼から必死に顔を逸らした。

「ロドルフ」

 名前を呼ばれても、そちらを見ることが出来ない。

 些細な抵抗。だけど、察しの悪いマルクスは強引に俺の顔を自身のほうに向けさせる。

 ……瞬間、マルクスが息を呑んだのがわかった。

「……マルクス」

 ほうっとしつつ、マルクスの名前を呼ぶ。すると、マルクスはどう思ったのだろうか。俺の唇に自身の唇を押し付けてくる。

 重なった唇。熱いのは俺の唇なのか、はたまたマルクスの唇なのか。それが、わからない。

「……ロドルフ、結婚しよう」

 しばらくして、マルクスがおもむろにそう告げてくる。

 ……ムードもなにもないプロポーズだった。その所為で、俺は一瞬言葉の意味を理解することが出来なかった。

 ぱちぱちと目を瞬かせて、俺はマルクスを見つめる。

 結婚、結婚、結婚……。

「ば、馬鹿を言うな!」

 俺はマルクスの肩を掴んで、自分から引きはがす。

 マルクスの目が大きく見開かれた。まさか、断られると思わなかったのだろう。

「俺は絶対に嫌だ」

 はっきりとそう告げれば、マルクスが「どうしてだ」と問いかけてくる。

 真剣そのものの声だった。

 本気でどうして断られたのかわかっていない。声からそれがひしひしと伝わってくる。

「……責任を取るとか、そういうの嫌だ」

 馬鹿みたいに真面目なマルクスのことだし、俺を抱いた責任を取ろうとしているだけに違いない。

 たとえそこに愛情があっても、そんなの俺が嫌だ。

 そもそも、マルクスだったら相手を選び放題なんだ。俺みたいなのと結婚する必要なんてない……。

「お前はっ、俺なんかよりもずっといい奴と結婚できるじゃんか。……俺みたいなのだと」

 自分の声は弱々しくて、なんか言いたくないって思っているようだった。

 小さなころから俺とマルクスは一緒にいた。そのうえで、釣り合っていないとかそういう陰口をたたかれることも多かった。

 マルクスはいつだって人気者で、優秀で。……比べて俺はいつだって平凡で。

 二人一緒にいると、惨めになることのほうがずっと多かった。

(それなのに、今更どの面下げてマルクスと結婚するんだよ……)

 マルクスの側にいると、俺はどんどん嫌な奴になる。劣等感に苛まれて、どんどん苦しくなっていく。

 醜い嫉妬もするだろうし、俺以外に優しくするなとか言いそうになる。

「ロドルフ」
「もう嫌だ。出て行ってくれ。……もう、顔も見たくない」
「ロドルフ!」
「最後にいい思い出が出来たから。……俺、別の奴と――」

 その言葉は最後まで続かなかった。

 マルクスの唇が、俺の唇に重なった。強引に重ねられた唇は、俺の卑屈な言葉を呑み込んでいくかのようだ。

「お前が別の奴と結婚するなら、俺は一生独身でいい」

 俺の目を見てマルクスがそう言い切る。

「むしろ、死を選ぶかもしれない。俺はロドルフ以外と添い遂げたくないし、ロドルフが俺以外の奴と結婚するのなんて見たくない」

 目を合わせて、マルクスがそう言う。

 俺は視線を逸らしたかったのに、逸らせない。マルクスがじっと俺のことを見つめているから、なんだろう。

 その視線に縫い付けられたように、身動きが出来なくなる。

「だから、俺と結婚しろ。……俺を生かすために、結婚しろ」
「な、んだよ、それ……」

 なんでプロポーズが上から目線なんだよ……。

 そう言いたい気持ちをぐっとこらえて、俺は目元をガシガシと拭う。

 だが、その手をマルクスが掴んで。かと思えば、俺の目元を舌で舐める。

「……しょっぱいな」
「バカか、お前」

 俺の涙を舐めとっておいて、その口ぶりはないだろうに。

 そう思うのに、なんか案外悪くなかった。

「俺は、重いと思う。……マルクスが、嫌になるかもしれない」
「嫌になんてなるか。むしろ、嬉しい」
「束縛をするかも、しれない」
「違う。逆に俺が束縛をすると思う。……俺以外と話すなって」

 マルクスがそう告げて、俺の頬に指を押し付けた。

「俺以外と添い遂げようとするなら、ロドルフを殺して俺も死んでやる」

 ……はた迷惑な心中だな。こっちは同意してないっての。

「……はいはい、わかったよ。……お前と結婚してやる。俺も、案外お前のこと好きだし」

 少し呆れたようにそう言えば、マルクスははっきりと「違うだろ」という。

 言葉の意味が分からなくてぽかんとした俺に、マルクスはニヤッと笑って言った。

「案外じゃない。――ロドルフは、俺のことが大好きなんだ」



 俺は結局マルクスに絆されて、こいつと結婚することになった。

 両親にその意思を伝えると、驚く間もなく「だろうな」というだけだった。なんでも、俺とマルクスが両片想いなのは両親には筒抜けだったらしい。

 そして、俺とマルクスは永遠の愛を誓って一生を共にするパートナーとなった。

 結婚してもきっと、なにも変わらない……って思っていた俺を、殴りたい。

「ロドルフ、好きだ」

 離れていた分というべきなのか、マルクスは俺に熱烈に愛を囁いてくる。

 ……正直、恥ずかしくてたまらないくらいに。

 でも、まぁ、うん。嬉しいって思う俺もいるから、別にいいかな……って、うん。



 拗らせた幼馴染との恋は、まだまだ道半ばだ。

【END】
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