【完結】【R18】恋愛未経験なのに、モテる騎士の幼馴染に「童貞を拗らせた責任を取れ」と迫られています。正直知らない。

すめらぎかなめ(夏琳トウ)

文字の大きさ
上 下
14 / 15
本編

モテる幼馴染の秘密 14

しおりを挟む
 少し身じろぎして、なんか狭いなぁって思って瞼を開ける。

 すると、視界いっぱいに広がったマルクスの顔に驚いて慌てて飛び起きて、額と額がごつんと音を立ててぶつかった。

「……ロドルフ」

 マルクスが抗議するような声をかけてくる。

 けど、俺はそれどころじゃない。身体が、特に腰が痛い。

 その所為で俺は眠る前に自分がどういうことをしていたのかを、否応なしに思い出してしまった。

(お、れ、マルクスと……)

 なんか無性に恥ずかしくて、顔にカーっと熱が溜まっていくような感覚。

 マルクスの顔をまっすぐに見ることも難しくて、彼から必死に顔を逸らした。

「ロドルフ」

 名前を呼ばれても、そちらを見ることが出来ない。

 些細な抵抗。だけど、察しの悪いマルクスは強引に俺の顔を自身のほうに向けさせる。

 ……瞬間、マルクスが息を呑んだのがわかった。

「……マルクス」

 ほうっとしつつ、マルクスの名前を呼ぶ。すると、マルクスはどう思ったのだろうか。俺の唇に自身の唇を押し付けてくる。

 重なった唇。熱いのは俺の唇なのか、はたまたマルクスの唇なのか。それが、わからない。

「……ロドルフ、結婚しよう」

 しばらくして、マルクスがおもむろにそう告げてくる。

 ……ムードもなにもないプロポーズだった。その所為で、俺は一瞬言葉の意味を理解することが出来なかった。

 ぱちぱちと目を瞬かせて、俺はマルクスを見つめる。

 結婚、結婚、結婚……。

「ば、馬鹿を言うな!」

 俺はマルクスの肩を掴んで、自分から引きはがす。

 マルクスの目が大きく見開かれた。まさか、断られると思わなかったのだろう。

「俺は絶対に嫌だ」

 はっきりとそう告げれば、マルクスが「どうしてだ」と問いかけてくる。

 真剣そのものの声だった。

 本気でどうして断られたのかわかっていない。声からそれがひしひしと伝わってくる。

「……責任を取るとか、そういうの嫌だ」

 馬鹿みたいに真面目なマルクスのことだし、俺を抱いた責任を取ろうとしているだけに違いない。

 たとえそこに愛情があっても、そんなの俺が嫌だ。

 そもそも、マルクスだったら相手を選び放題なんだ。俺みたいなのと結婚する必要なんてない……。

「お前はっ、俺なんかよりもずっといい奴と結婚できるじゃんか。……俺みたいなのだと」

 自分の声は弱々しくて、なんか言いたくないって思っているようだった。

 小さなころから俺とマルクスは一緒にいた。そのうえで、釣り合っていないとかそういう陰口をたたかれることも多かった。

 マルクスはいつだって人気者で、優秀で。……比べて俺はいつだって平凡で。

 二人一緒にいると、惨めになることのほうがずっと多かった。

(それなのに、今更どの面下げてマルクスと結婚するんだよ……)

 マルクスの側にいると、俺はどんどん嫌な奴になる。劣等感に苛まれて、どんどん苦しくなっていく。

 醜い嫉妬もするだろうし、俺以外に優しくするなとか言いそうになる。

「ロドルフ」
「もう嫌だ。出て行ってくれ。……もう、顔も見たくない」
「ロドルフ!」
「最後にいい思い出が出来たから。……俺、別の奴と――」

 その言葉は最後まで続かなかった。

 マルクスの唇が、俺の唇に重なった。強引に重ねられた唇は、俺の卑屈な言葉を呑み込んでいくかのようだ。

「お前が別の奴と結婚するなら、俺は一生独身でいい」

 俺の目を見てマルクスがそう言い切る。

「むしろ、死を選ぶかもしれない。俺はロドルフ以外と添い遂げたくないし、ロドルフが俺以外の奴と結婚するのなんて見たくない」

 目を合わせて、マルクスがそう言う。

 俺は視線を逸らしたかったのに、逸らせない。マルクスがじっと俺のことを見つめているから、なんだろう。

 その視線に縫い付けられたように、身動きが出来なくなる。

「だから、俺と結婚しろ。……俺を生かすために、結婚しろ」
「な、んだよ、それ……」

 なんでプロポーズが上から目線なんだよ……。

 そう言いたい気持ちをぐっとこらえて、俺は目元をガシガシと拭う。

 だが、その手をマルクスが掴んで。かと思えば、俺の目元を舌で舐める。

「……しょっぱいな」
「バカか、お前」

 俺の涙を舐めとっておいて、その口ぶりはないだろうに。

 そう思うのに、なんか案外悪くなかった。

「俺は、重いと思う。……マルクスが、嫌になるかもしれない」
「嫌になんてなるか。むしろ、嬉しい」
「束縛をするかも、しれない」
「違う。逆に俺が束縛をすると思う。……俺以外と話すなって」

 マルクスがそう告げて、俺の頬に指を押し付けた。

「俺以外と添い遂げようとするなら、ロドルフを殺して俺も死んでやる」

 ……はた迷惑な心中だな。こっちは同意してないっての。

「……はいはい、わかったよ。……お前と結婚してやる。俺も、案外お前のこと好きだし」

 少し呆れたようにそう言えば、マルクスははっきりと「違うだろ」という。

 言葉の意味が分からなくてぽかんとした俺に、マルクスはニヤッと笑って言った。

「案外じゃない。――ロドルフは、俺のことが大好きなんだ」



 俺は結局マルクスに絆されて、こいつと結婚することになった。

 両親にその意思を伝えると、驚く間もなく「だろうな」というだけだった。なんでも、俺とマルクスが両片想いなのは両親には筒抜けだったらしい。

 そして、俺とマルクスは永遠の愛を誓って一生を共にするパートナーとなった。

 結婚してもきっと、なにも変わらない……って思っていた俺を、殴りたい。

「ロドルフ、好きだ」

 離れていた分というべきなのか、マルクスは俺に熱烈に愛を囁いてくる。

 ……正直、恥ずかしくてたまらないくらいに。

 でも、まぁ、うん。嬉しいって思う俺もいるから、別にいいかな……って、うん。



 拗らせた幼馴染との恋は、まだまだ道半ばだ。

【END】
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

処理中です...