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本編
モテる幼馴染の秘密 14
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少し身じろぎして、なんか狭いなぁって思って瞼を開ける。
すると、視界いっぱいに広がったマルクスの顔に驚いて慌てて飛び起きて、額と額がごつんと音を立ててぶつかった。
「……ロドルフ」
マルクスが抗議するような声をかけてくる。
けど、俺はそれどころじゃない。身体が、特に腰が痛い。
その所為で俺は眠る前に自分がどういうことをしていたのかを、否応なしに思い出してしまった。
(お、れ、マルクスと……)
なんか無性に恥ずかしくて、顔にカーっと熱が溜まっていくような感覚。
マルクスの顔をまっすぐに見ることも難しくて、彼から必死に顔を逸らした。
「ロドルフ」
名前を呼ばれても、そちらを見ることが出来ない。
些細な抵抗。だけど、察しの悪いマルクスは強引に俺の顔を自身のほうに向けさせる。
……瞬間、マルクスが息を呑んだのがわかった。
「……マルクス」
ほうっとしつつ、マルクスの名前を呼ぶ。すると、マルクスはどう思ったのだろうか。俺の唇に自身の唇を押し付けてくる。
重なった唇。熱いのは俺の唇なのか、はたまたマルクスの唇なのか。それが、わからない。
「……ロドルフ、結婚しよう」
しばらくして、マルクスがおもむろにそう告げてくる。
……ムードもなにもないプロポーズだった。その所為で、俺は一瞬言葉の意味を理解することが出来なかった。
ぱちぱちと目を瞬かせて、俺はマルクスを見つめる。
結婚、結婚、結婚……。
「ば、馬鹿を言うな!」
俺はマルクスの肩を掴んで、自分から引きはがす。
マルクスの目が大きく見開かれた。まさか、断られると思わなかったのだろう。
「俺は絶対に嫌だ」
はっきりとそう告げれば、マルクスが「どうしてだ」と問いかけてくる。
真剣そのものの声だった。
本気でどうして断られたのかわかっていない。声からそれがひしひしと伝わってくる。
「……責任を取るとか、そういうの嫌だ」
馬鹿みたいに真面目なマルクスのことだし、俺を抱いた責任を取ろうとしているだけに違いない。
たとえそこに愛情があっても、そんなの俺が嫌だ。
そもそも、マルクスだったら相手を選び放題なんだ。俺みたいなのと結婚する必要なんてない……。
「お前はっ、俺なんかよりもずっといい奴と結婚できるじゃんか。……俺みたいなのだと」
自分の声は弱々しくて、なんか言いたくないって思っているようだった。
小さなころから俺とマルクスは一緒にいた。そのうえで、釣り合っていないとかそういう陰口をたたかれることも多かった。
マルクスはいつだって人気者で、優秀で。……比べて俺はいつだって平凡で。
二人一緒にいると、惨めになることのほうがずっと多かった。
(それなのに、今更どの面下げてマルクスと結婚するんだよ……)
マルクスの側にいると、俺はどんどん嫌な奴になる。劣等感に苛まれて、どんどん苦しくなっていく。
醜い嫉妬もするだろうし、俺以外に優しくするなとか言いそうになる。
「ロドルフ」
「もう嫌だ。出て行ってくれ。……もう、顔も見たくない」
「ロドルフ!」
「最後にいい思い出が出来たから。……俺、別の奴と――」
その言葉は最後まで続かなかった。
マルクスの唇が、俺の唇に重なった。強引に重ねられた唇は、俺の卑屈な言葉を呑み込んでいくかのようだ。
「お前が別の奴と結婚するなら、俺は一生独身でいい」
俺の目を見てマルクスがそう言い切る。
「むしろ、死を選ぶかもしれない。俺はロドルフ以外と添い遂げたくないし、ロドルフが俺以外の奴と結婚するのなんて見たくない」
目を合わせて、マルクスがそう言う。
俺は視線を逸らしたかったのに、逸らせない。マルクスがじっと俺のことを見つめているから、なんだろう。
その視線に縫い付けられたように、身動きが出来なくなる。
「だから、俺と結婚しろ。……俺を生かすために、結婚しろ」
「な、んだよ、それ……」
なんでプロポーズが上から目線なんだよ……。
そう言いたい気持ちをぐっとこらえて、俺は目元をガシガシと拭う。
だが、その手をマルクスが掴んで。かと思えば、俺の目元を舌で舐める。
「……しょっぱいな」
「バカか、お前」
俺の涙を舐めとっておいて、その口ぶりはないだろうに。
そう思うのに、なんか案外悪くなかった。
「俺は、重いと思う。……マルクスが、嫌になるかもしれない」
「嫌になんてなるか。むしろ、嬉しい」
「束縛をするかも、しれない」
「違う。逆に俺が束縛をすると思う。……俺以外と話すなって」
マルクスがそう告げて、俺の頬に指を押し付けた。
「俺以外と添い遂げようとするなら、ロドルフを殺して俺も死んでやる」
……はた迷惑な心中だな。こっちは同意してないっての。
「……はいはい、わかったよ。……お前と結婚してやる。俺も、案外お前のこと好きだし」
少し呆れたようにそう言えば、マルクスははっきりと「違うだろ」という。
言葉の意味が分からなくてぽかんとした俺に、マルクスはニヤッと笑って言った。
「案外じゃない。――ロドルフは、俺のことが大好きなんだ」
俺は結局マルクスに絆されて、こいつと結婚することになった。
両親にその意思を伝えると、驚く間もなく「だろうな」というだけだった。なんでも、俺とマルクスが両片想いなのは両親には筒抜けだったらしい。
そして、俺とマルクスは永遠の愛を誓って一生を共にするパートナーとなった。
結婚してもきっと、なにも変わらない……って思っていた俺を、殴りたい。
「ロドルフ、好きだ」
離れていた分というべきなのか、マルクスは俺に熱烈に愛を囁いてくる。
……正直、恥ずかしくてたまらないくらいに。
でも、まぁ、うん。嬉しいって思う俺もいるから、別にいいかな……って、うん。
拗らせた幼馴染との恋は、まだまだ道半ばだ。
【END】
すると、視界いっぱいに広がったマルクスの顔に驚いて慌てて飛び起きて、額と額がごつんと音を立ててぶつかった。
「……ロドルフ」
マルクスが抗議するような声をかけてくる。
けど、俺はそれどころじゃない。身体が、特に腰が痛い。
その所為で俺は眠る前に自分がどういうことをしていたのかを、否応なしに思い出してしまった。
(お、れ、マルクスと……)
なんか無性に恥ずかしくて、顔にカーっと熱が溜まっていくような感覚。
マルクスの顔をまっすぐに見ることも難しくて、彼から必死に顔を逸らした。
「ロドルフ」
名前を呼ばれても、そちらを見ることが出来ない。
些細な抵抗。だけど、察しの悪いマルクスは強引に俺の顔を自身のほうに向けさせる。
……瞬間、マルクスが息を呑んだのがわかった。
「……マルクス」
ほうっとしつつ、マルクスの名前を呼ぶ。すると、マルクスはどう思ったのだろうか。俺の唇に自身の唇を押し付けてくる。
重なった唇。熱いのは俺の唇なのか、はたまたマルクスの唇なのか。それが、わからない。
「……ロドルフ、結婚しよう」
しばらくして、マルクスがおもむろにそう告げてくる。
……ムードもなにもないプロポーズだった。その所為で、俺は一瞬言葉の意味を理解することが出来なかった。
ぱちぱちと目を瞬かせて、俺はマルクスを見つめる。
結婚、結婚、結婚……。
「ば、馬鹿を言うな!」
俺はマルクスの肩を掴んで、自分から引きはがす。
マルクスの目が大きく見開かれた。まさか、断られると思わなかったのだろう。
「俺は絶対に嫌だ」
はっきりとそう告げれば、マルクスが「どうしてだ」と問いかけてくる。
真剣そのものの声だった。
本気でどうして断られたのかわかっていない。声からそれがひしひしと伝わってくる。
「……責任を取るとか、そういうの嫌だ」
馬鹿みたいに真面目なマルクスのことだし、俺を抱いた責任を取ろうとしているだけに違いない。
たとえそこに愛情があっても、そんなの俺が嫌だ。
そもそも、マルクスだったら相手を選び放題なんだ。俺みたいなのと結婚する必要なんてない……。
「お前はっ、俺なんかよりもずっといい奴と結婚できるじゃんか。……俺みたいなのだと」
自分の声は弱々しくて、なんか言いたくないって思っているようだった。
小さなころから俺とマルクスは一緒にいた。そのうえで、釣り合っていないとかそういう陰口をたたかれることも多かった。
マルクスはいつだって人気者で、優秀で。……比べて俺はいつだって平凡で。
二人一緒にいると、惨めになることのほうがずっと多かった。
(それなのに、今更どの面下げてマルクスと結婚するんだよ……)
マルクスの側にいると、俺はどんどん嫌な奴になる。劣等感に苛まれて、どんどん苦しくなっていく。
醜い嫉妬もするだろうし、俺以外に優しくするなとか言いそうになる。
「ロドルフ」
「もう嫌だ。出て行ってくれ。……もう、顔も見たくない」
「ロドルフ!」
「最後にいい思い出が出来たから。……俺、別の奴と――」
その言葉は最後まで続かなかった。
マルクスの唇が、俺の唇に重なった。強引に重ねられた唇は、俺の卑屈な言葉を呑み込んでいくかのようだ。
「お前が別の奴と結婚するなら、俺は一生独身でいい」
俺の目を見てマルクスがそう言い切る。
「むしろ、死を選ぶかもしれない。俺はロドルフ以外と添い遂げたくないし、ロドルフが俺以外の奴と結婚するのなんて見たくない」
目を合わせて、マルクスがそう言う。
俺は視線を逸らしたかったのに、逸らせない。マルクスがじっと俺のことを見つめているから、なんだろう。
その視線に縫い付けられたように、身動きが出来なくなる。
「だから、俺と結婚しろ。……俺を生かすために、結婚しろ」
「な、んだよ、それ……」
なんでプロポーズが上から目線なんだよ……。
そう言いたい気持ちをぐっとこらえて、俺は目元をガシガシと拭う。
だが、その手をマルクスが掴んで。かと思えば、俺の目元を舌で舐める。
「……しょっぱいな」
「バカか、お前」
俺の涙を舐めとっておいて、その口ぶりはないだろうに。
そう思うのに、なんか案外悪くなかった。
「俺は、重いと思う。……マルクスが、嫌になるかもしれない」
「嫌になんてなるか。むしろ、嬉しい」
「束縛をするかも、しれない」
「違う。逆に俺が束縛をすると思う。……俺以外と話すなって」
マルクスがそう告げて、俺の頬に指を押し付けた。
「俺以外と添い遂げようとするなら、ロドルフを殺して俺も死んでやる」
……はた迷惑な心中だな。こっちは同意してないっての。
「……はいはい、わかったよ。……お前と結婚してやる。俺も、案外お前のこと好きだし」
少し呆れたようにそう言えば、マルクスははっきりと「違うだろ」という。
言葉の意味が分からなくてぽかんとした俺に、マルクスはニヤッと笑って言った。
「案外じゃない。――ロドルフは、俺のことが大好きなんだ」
俺は結局マルクスに絆されて、こいつと結婚することになった。
両親にその意思を伝えると、驚く間もなく「だろうな」というだけだった。なんでも、俺とマルクスが両片想いなのは両親には筒抜けだったらしい。
そして、俺とマルクスは永遠の愛を誓って一生を共にするパートナーとなった。
結婚してもきっと、なにも変わらない……って思っていた俺を、殴りたい。
「ロドルフ、好きだ」
離れていた分というべきなのか、マルクスは俺に熱烈に愛を囁いてくる。
……正直、恥ずかしくてたまらないくらいに。
でも、まぁ、うん。嬉しいって思う俺もいるから、別にいいかな……って、うん。
拗らせた幼馴染との恋は、まだまだ道半ばだ。
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