5 / 15
本編
モテる幼馴染の秘密 5
しおりを挟む
「――可愛い」
マルクスが小さくそう呟いたのが、わかった。
……可愛い。
(た、確かに俺は、マルクスに比べれば可愛いほうだろうけれど……)
精悍な顔立ちのマルクスに比べ、俺は童顔だ。
年齢よりも幼くみられることなんて日常的だし、「可愛い」と言われたことだって数えきれないほどにある。
なのに、どうしてなのだろうか。今、俺の心臓は早く音を鳴らしている。
「なぁ、キスしていいか?」
自分の耳を疑った。
(こいつ、今、なんて……)
聞き間違いじゃなかったら、「キスしていいか?」と聞こえたような気がする。
聞き返したい。でも、聞き返せない。
先ほど聞き返して、生々しい表現をされたところだ。
もしかしたら、今回もそういう風になるかも――と思ったら、どうしても聞き返せなかった。
「……なぁ」
マルクスが、俺の頬を撫でる。
かと思えば、顎をすくい上げられて半ば無理やり視線を合わせられた。
……マルクスのきれいな目が、仄かに欲情しているようにも見える。
(こいつ、絶対に勃たないとか、嘘だろ……!)
そう思うが、先ほど言った通り『俺が例外』ということなのかも。
そこまで思ったら、抗議をすることが出来なかった。
「……あの、さ」
手が自然とマルクスの衣服を掴んだ。
しわになるのもお構いなしに、ぎゅっと握れば、マルクスが息を呑んだのがわかる。
とくとくと早い心臓の音は、一体どっちのものなのか。それは、定かじゃない。
「試す、だけ、だったらいいけど……」
恥ずかしくて、視線を逸らす。
「い、言っておくけど、キスだけだからな――」
と、言いたかったのに。
言い終わるよりも前に、唇にふれた柔らかいもの。
驚いて目を見開けば、すぐ目の前にマルクスの精悍な顔がある。
(最後まで、話を聞け――!)
そんな風に思って、抗議をしようと唇を開ける。
でも、それを見計らったかのように、マルクスが俺の唇を舌で舐めた。
ぬるりとした舌の感触に、余計に驚いてしまって身体から力が抜ける。
「……ロドルフ」
「お前っ!」
半ば上目遣いになりつつ、マルクスを睨みつける。
こいつ、キスだけって言ったのに。
(まぁ、確かにこれも、キス……なのか?)
軽いものも、深いものも。キスと言えばキスだ。ひとくくりにすれば、キスの部類だ。
……ダメだ。キスという単語が頭の中でぐるぐると回って、目まで回ってしまいそうだ。
「なぁ、ロドルフ。……もっと、したい」
ぐっと俺に顔を近づけてきて、マルクスがそう言ってくる。……やめろ、やめろ!
「お、俺、縁談を控えてるんだってば……!」
だから、こんな不埒な行動を続けるわけにはいかない。
(だって、それに、縁談相手は男だし……)
縁談相手が男だから、なおさらマルクスと不埒な行為をするわけにはいかなかった。
相手が女ならばまだ、まだよかった。男だと、どうしても……なんていうか、マルクスと重ねてしまいそうなのだ。
「だから、これ以上は無理。……な、悩み相談ってそれだけだろ? じゃあ、これで解散な」
そう言って立ち上がろうとすれば。マルクスに肩を掴まれて、引き戻された。
「お前、なんのつもり!?」
マルクスが俺の身体を、自身の膝の上に載せた。かと思えば、身体をくるりとひっくり返されて、後ろから抱きしめられる。
この心臓の音は、本当にどっちのものなのだろうか。マルクスのものなのか、俺のものなのか。
もしくは――両方の心臓の音なのか。
「正直、俺はロドルフに俺以外の奴と結婚してほしくない」
「……あっそ」
自分でも驚くほどに、素っ気ない声が出た。
「だって、ロドルフと俺、人生の半分以上を一緒に過ごしているから」
「……今後のことを考えると、半分にも満たないぞ」
そうだ。仮に寿命が六十年だとして。俺たちの年齢だと、まだまだ半分にも満ちていない。
つまり、今後の人生のほうが長いっていうこと。
「だから、離れていても慣れるって」
……ずきん。
心臓が、傷ついたような音を鳴らした。誤魔化すように、胸の前でぎゅっと手を握る。
忘れていた気持ちが、胸の中に溢れ出てしまいそうだった。
……忘れようとして、頑張って、ようやく忘れ、封じ込めていた気持ち。
正直、ここで出てくるなんて、思いもしなかった。
マルクスが小さくそう呟いたのが、わかった。
……可愛い。
(た、確かに俺は、マルクスに比べれば可愛いほうだろうけれど……)
精悍な顔立ちのマルクスに比べ、俺は童顔だ。
年齢よりも幼くみられることなんて日常的だし、「可愛い」と言われたことだって数えきれないほどにある。
なのに、どうしてなのだろうか。今、俺の心臓は早く音を鳴らしている。
「なぁ、キスしていいか?」
自分の耳を疑った。
(こいつ、今、なんて……)
聞き間違いじゃなかったら、「キスしていいか?」と聞こえたような気がする。
聞き返したい。でも、聞き返せない。
先ほど聞き返して、生々しい表現をされたところだ。
もしかしたら、今回もそういう風になるかも――と思ったら、どうしても聞き返せなかった。
「……なぁ」
マルクスが、俺の頬を撫でる。
かと思えば、顎をすくい上げられて半ば無理やり視線を合わせられた。
……マルクスのきれいな目が、仄かに欲情しているようにも見える。
(こいつ、絶対に勃たないとか、嘘だろ……!)
そう思うが、先ほど言った通り『俺が例外』ということなのかも。
そこまで思ったら、抗議をすることが出来なかった。
「……あの、さ」
手が自然とマルクスの衣服を掴んだ。
しわになるのもお構いなしに、ぎゅっと握れば、マルクスが息を呑んだのがわかる。
とくとくと早い心臓の音は、一体どっちのものなのか。それは、定かじゃない。
「試す、だけ、だったらいいけど……」
恥ずかしくて、視線を逸らす。
「い、言っておくけど、キスだけだからな――」
と、言いたかったのに。
言い終わるよりも前に、唇にふれた柔らかいもの。
驚いて目を見開けば、すぐ目の前にマルクスの精悍な顔がある。
(最後まで、話を聞け――!)
そんな風に思って、抗議をしようと唇を開ける。
でも、それを見計らったかのように、マルクスが俺の唇を舌で舐めた。
ぬるりとした舌の感触に、余計に驚いてしまって身体から力が抜ける。
「……ロドルフ」
「お前っ!」
半ば上目遣いになりつつ、マルクスを睨みつける。
こいつ、キスだけって言ったのに。
(まぁ、確かにこれも、キス……なのか?)
軽いものも、深いものも。キスと言えばキスだ。ひとくくりにすれば、キスの部類だ。
……ダメだ。キスという単語が頭の中でぐるぐると回って、目まで回ってしまいそうだ。
「なぁ、ロドルフ。……もっと、したい」
ぐっと俺に顔を近づけてきて、マルクスがそう言ってくる。……やめろ、やめろ!
「お、俺、縁談を控えてるんだってば……!」
だから、こんな不埒な行動を続けるわけにはいかない。
(だって、それに、縁談相手は男だし……)
縁談相手が男だから、なおさらマルクスと不埒な行為をするわけにはいかなかった。
相手が女ならばまだ、まだよかった。男だと、どうしても……なんていうか、マルクスと重ねてしまいそうなのだ。
「だから、これ以上は無理。……な、悩み相談ってそれだけだろ? じゃあ、これで解散な」
そう言って立ち上がろうとすれば。マルクスに肩を掴まれて、引き戻された。
「お前、なんのつもり!?」
マルクスが俺の身体を、自身の膝の上に載せた。かと思えば、身体をくるりとひっくり返されて、後ろから抱きしめられる。
この心臓の音は、本当にどっちのものなのだろうか。マルクスのものなのか、俺のものなのか。
もしくは――両方の心臓の音なのか。
「正直、俺はロドルフに俺以外の奴と結婚してほしくない」
「……あっそ」
自分でも驚くほどに、素っ気ない声が出た。
「だって、ロドルフと俺、人生の半分以上を一緒に過ごしているから」
「……今後のことを考えると、半分にも満たないぞ」
そうだ。仮に寿命が六十年だとして。俺たちの年齢だと、まだまだ半分にも満ちていない。
つまり、今後の人生のほうが長いっていうこと。
「だから、離れていても慣れるって」
……ずきん。
心臓が、傷ついたような音を鳴らした。誤魔化すように、胸の前でぎゅっと手を握る。
忘れていた気持ちが、胸の中に溢れ出てしまいそうだった。
……忘れようとして、頑張って、ようやく忘れ、封じ込めていた気持ち。
正直、ここで出てくるなんて、思いもしなかった。
194
お気に入りに追加
485
あなたにおすすめの小説

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる