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第2章
見知らぬ部屋 9
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「……フリント」
何処となく、ジェムの声が熱を帯びているような気がする。
でも、それには気が付かないふりをして、顔を背けた。ジェムの手は、相変わらず俺の手を撫でまわしている。
「俺らがしたことは、確かに最低なことだ。……わかっている」
「……あぁ」
わかっているのならば、まだ救いようがあるのかもしれない。
「だから、俺もクォーツも、責任を取りたいって思ってる」
「……責任、って」
目を伏せる。もしも、ジェムの言っていることが本当なのだとすれば。こいつらに責任を取る必要なんてない。元はと言えば、俺に興奮剤を盛った奴が悪いんだし。
……けど、それに乗っかったこいつらもこいつらだという気持ちも、確かにあって。
「……俺、は」
口をもごもごと動かして、返答を迷う。
本当は、なかったことにしてしまいたかった。関係を持ったということは忘れる。もしくは、夢だと思うようにする。
それが、一番手っ取り早い。……わかっているのに。もしかしたら、俺は。
(……いや、気のせいだ。そんなこと、あり得ない)
しかし、ぶんぶんと首を横に振ってその考えを打ち消す。その後、ジェムの目を見つめれば、奴は俺の手の甲に口づけを落とした。
ジェムの容貌と合わさると、まるで忠誠を誓う騎士のようにも見える。
「俺らは、責任をもってフリントを幸せにする」
……けれど、言葉の意味がすぐには理解できなかった。幸せにするって。
「い、いや、それって……」
自身の頬が引きつっているのがわかった。だって、そうじゃないか。責任をもって幸せにするなんて、そんなの、まるで――。
「プロポーズにしか、聞こえないんだけれど……」
上ずったような声で、そう言葉を返す。……ジェムは、きょとんとしていた。多分、こいつもクォーツには劣るが天然なのだろう。それは、嫌というほどに伝わっている。
「……むしろ、俺は今、フリントにプロポーズした」
どうやら、これはジェムなりのプロポーズだったらしい。……もう、なにも言うまい。っていうか。
「別に、俺、お前らと結婚しなくてもいいし……」
この国は割と結婚制度ががばがばで、同性婚でも重婚でも双方の同意があれば割と簡単に出来る。だから、男の俺が男二人と結婚しようとも、問題ない。法的に咎められることもなければ、変な目で見られるようなことでもない。
かといって。
――納得できるかは、また別問題なのだ。
「いや、だって俺、別に一人でも生きていけるし……」
貞操を奪われたという意味では、ちょっといろいろと思うことはある。だが、それだけだ。
女相手に勃たなくなったかもという不安はあるけれど、それでも問題ない。俺は男でも女でも愛せる性質だから。
「……俺らとの結婚、嫌なのか?」
「嫌っていうか……」
本当はめちゃくちゃ嫌だ。こいつらと結婚すると妬みに晒されるし、なによりも身体が持ちそうにない。一度関係を持っただけでもわかる。こいつらは俺が気を失うまで抱く。……ちょっとはこっちの身体を労わってほしい。
「だって、お前ら、めちゃくちゃに抱くし……」
俺の声は、自分でも驚くほどに拗ねた雰囲気だった。……なんだ、これ。これだと、ただ拗ねているだけにしか聞こえない。
「そ、それに、俺は元からお前らのこと受け入れるつもりなかったし……。身体を重ねたからって、結婚するなんて、ちょろすぎるし……」
しどろもどろになりながら、それっぽい言葉を並べる。
だって、俺は今までこいつらを袖にしてきた。どっちのお嫁さんにもなりたくないって、言ってきた。
今更それを覆す勇気は、ない。
「ちょろくなって、いいぞ」
「……ジェム」
「俺らは、フリントが自らの手に堕ちてきてくれるのが、嬉しいんだ。……好きだ」
真摯な眼差しで訴えられて、俺の心臓が高鳴る。……なんだろうか、これは。
何処となく、ジェムの声が熱を帯びているような気がする。
でも、それには気が付かないふりをして、顔を背けた。ジェムの手は、相変わらず俺の手を撫でまわしている。
「俺らがしたことは、確かに最低なことだ。……わかっている」
「……あぁ」
わかっているのならば、まだ救いようがあるのかもしれない。
「だから、俺もクォーツも、責任を取りたいって思ってる」
「……責任、って」
目を伏せる。もしも、ジェムの言っていることが本当なのだとすれば。こいつらに責任を取る必要なんてない。元はと言えば、俺に興奮剤を盛った奴が悪いんだし。
……けど、それに乗っかったこいつらもこいつらだという気持ちも、確かにあって。
「……俺、は」
口をもごもごと動かして、返答を迷う。
本当は、なかったことにしてしまいたかった。関係を持ったということは忘れる。もしくは、夢だと思うようにする。
それが、一番手っ取り早い。……わかっているのに。もしかしたら、俺は。
(……いや、気のせいだ。そんなこと、あり得ない)
しかし、ぶんぶんと首を横に振ってその考えを打ち消す。その後、ジェムの目を見つめれば、奴は俺の手の甲に口づけを落とした。
ジェムの容貌と合わさると、まるで忠誠を誓う騎士のようにも見える。
「俺らは、責任をもってフリントを幸せにする」
……けれど、言葉の意味がすぐには理解できなかった。幸せにするって。
「い、いや、それって……」
自身の頬が引きつっているのがわかった。だって、そうじゃないか。責任をもって幸せにするなんて、そんなの、まるで――。
「プロポーズにしか、聞こえないんだけれど……」
上ずったような声で、そう言葉を返す。……ジェムは、きょとんとしていた。多分、こいつもクォーツには劣るが天然なのだろう。それは、嫌というほどに伝わっている。
「……むしろ、俺は今、フリントにプロポーズした」
どうやら、これはジェムなりのプロポーズだったらしい。……もう、なにも言うまい。っていうか。
「別に、俺、お前らと結婚しなくてもいいし……」
この国は割と結婚制度ががばがばで、同性婚でも重婚でも双方の同意があれば割と簡単に出来る。だから、男の俺が男二人と結婚しようとも、問題ない。法的に咎められることもなければ、変な目で見られるようなことでもない。
かといって。
――納得できるかは、また別問題なのだ。
「いや、だって俺、別に一人でも生きていけるし……」
貞操を奪われたという意味では、ちょっといろいろと思うことはある。だが、それだけだ。
女相手に勃たなくなったかもという不安はあるけれど、それでも問題ない。俺は男でも女でも愛せる性質だから。
「……俺らとの結婚、嫌なのか?」
「嫌っていうか……」
本当はめちゃくちゃ嫌だ。こいつらと結婚すると妬みに晒されるし、なによりも身体が持ちそうにない。一度関係を持っただけでもわかる。こいつらは俺が気を失うまで抱く。……ちょっとはこっちの身体を労わってほしい。
「だって、お前ら、めちゃくちゃに抱くし……」
俺の声は、自分でも驚くほどに拗ねた雰囲気だった。……なんだ、これ。これだと、ただ拗ねているだけにしか聞こえない。
「そ、それに、俺は元からお前らのこと受け入れるつもりなかったし……。身体を重ねたからって、結婚するなんて、ちょろすぎるし……」
しどろもどろになりながら、それっぽい言葉を並べる。
だって、俺は今までこいつらを袖にしてきた。どっちのお嫁さんにもなりたくないって、言ってきた。
今更それを覆す勇気は、ない。
「ちょろくなって、いいぞ」
「……ジェム」
「俺らは、フリントが自らの手に堕ちてきてくれるのが、嬉しいんだ。……好きだ」
真摯な眼差しで訴えられて、俺の心臓が高鳴る。……なんだろうか、これは。
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