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第2章
見知らぬ部屋 8
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「……は?」
俺の口から、なんとも言えない声が漏れた。だって、そうだろう。
いきなりここに住めなんて、冗談じゃない。別に住む場所を失ったわけでもないのだから。
「幸いにも、一部屋空いている。だから、部屋には困らないぞ」
「そ、それは、そうだけれどさ……」
確かにそれは間違いない。もしもジェムとクォーツ、どちらかと同じ部屋だったら俺が困る。
しかし、この問題はそれ以前の問題だ。どうして、俺がここに住むことになるのか。
「けどさ、どうして俺がここに住むんだよ。俺、住む場所あるし……」
もしも、俺に住む場所がなかったら。ジェムの提案に甘えていたかもしれない。でも、俺には住む場所がある。わざわざ他人と共同生活をする必要なんてこれっぽっちもない。
そんな俺の言葉を聞いたジェムが、眉をひそめた。その後、ためらいがちに口を開く。
「これは俺の憶測でしかない。確実なことじゃないと前置きをしておく」
「あ、あぁ……」
なんだか、重々しい雰囲気だ。そう思いつつ俺がこくんと首を縦に振れば、ジェムは俺の顔を見つめてきた。
……なんだろうか、この男。俺とは別の意味で顔が良い。……いや、理解していたことだけれどさ。
「フリントは、誰かに狙われている」
「……はぁ?」
けれど、ジェムの言葉が想定外すぎて、目をぱちぱちと瞬かせてしまった。
俺が、狙われる……?
(一体、なんのためにだよ……)
俺は没落貴族の令息で、顔が良いこと以外特に取り柄のない男だ。そんな俺を狙ったところで、なにかになるとは思えない。
俺のその考えが伝わったのか、ジェムはゆるゆると首を横に振った。
「なにか明確な理由がなくても、狙われることはある。……今回は違うが、何処かで恨みを買ったとか、な」
ジェムの言葉は正しかった。無意識のうちに人から恨みを買うことは、確かにあるだろう。
が、俺が気になったのはそこじゃない。……ジェムの言った、『今回は違う』ということだ。
つまり、今回はそういう原因じゃないということ。
「……ジェム」
そっとジェムの目を見つめて、名前を呼んだ。少し居心地悪そうに視線を逸らすジェム。
多分だけれど、ジェムは俺にこのことを話したくないのだ。それを、悟る。
かといって、俺が理由もなしに納得するわけがない。それは、ジェムも知っているのだ。なので、こんなにも迷っている。
「なぁ、教えてくれ。……恨みを買ったわけじゃないんだったら、どういう理由で俺が狙われるんだ?」
追及の言葉を口にする。ジェムは折れたのか、「はぁ」とため息をついた後、俺の目をまっすぐに見つめてきた。
「多分、好意とか、そういう類だろう」
「……好意?」
「恋愛感情のことだ。愛とか、恋とか。そういう類のこと」
それは、わかっている。言葉の意味くらい、俺にだって理解している。ただ、どうして好意の類が俺を狙う動機になるのか。
「相手は、どうにもフリントにやたらと面倒な恋愛感情を抱いているはずだ。あの興奮剤、かなり高価なものだし、強力なものだ」
「……それって」
「もしかしたら、偶然を装ってフリントを襲うつもりだったのかもな」
自然と眉間にしわが寄った。
「不運だったのは、自分よりも先に俺らがフリントを見つけたことだ」
「……はぁ」
まぁ、それが俺にとって良かったのか悪かったのかは別として――俺は、どうやら本当に狙われていたらしい。
命じゃなくて、『貞操』という部分を。いや、もう貞操もなにもないのだけれど。
「……けど、結局貞操とか、その、だな……」
少し視線を下げて、ジェムにそう告げる。ジェムは目を大きく見開いたかと思うと、俺の手を掴んだ。
しかも、包み込むように撫でまわしてくる。……俺、なにか変なスイッチを入れてしまったのだろうか?
俺の口から、なんとも言えない声が漏れた。だって、そうだろう。
いきなりここに住めなんて、冗談じゃない。別に住む場所を失ったわけでもないのだから。
「幸いにも、一部屋空いている。だから、部屋には困らないぞ」
「そ、それは、そうだけれどさ……」
確かにそれは間違いない。もしもジェムとクォーツ、どちらかと同じ部屋だったら俺が困る。
しかし、この問題はそれ以前の問題だ。どうして、俺がここに住むことになるのか。
「けどさ、どうして俺がここに住むんだよ。俺、住む場所あるし……」
もしも、俺に住む場所がなかったら。ジェムの提案に甘えていたかもしれない。でも、俺には住む場所がある。わざわざ他人と共同生活をする必要なんてこれっぽっちもない。
そんな俺の言葉を聞いたジェムが、眉をひそめた。その後、ためらいがちに口を開く。
「これは俺の憶測でしかない。確実なことじゃないと前置きをしておく」
「あ、あぁ……」
なんだか、重々しい雰囲気だ。そう思いつつ俺がこくんと首を縦に振れば、ジェムは俺の顔を見つめてきた。
……なんだろうか、この男。俺とは別の意味で顔が良い。……いや、理解していたことだけれどさ。
「フリントは、誰かに狙われている」
「……はぁ?」
けれど、ジェムの言葉が想定外すぎて、目をぱちぱちと瞬かせてしまった。
俺が、狙われる……?
(一体、なんのためにだよ……)
俺は没落貴族の令息で、顔が良いこと以外特に取り柄のない男だ。そんな俺を狙ったところで、なにかになるとは思えない。
俺のその考えが伝わったのか、ジェムはゆるゆると首を横に振った。
「なにか明確な理由がなくても、狙われることはある。……今回は違うが、何処かで恨みを買ったとか、な」
ジェムの言葉は正しかった。無意識のうちに人から恨みを買うことは、確かにあるだろう。
が、俺が気になったのはそこじゃない。……ジェムの言った、『今回は違う』ということだ。
つまり、今回はそういう原因じゃないということ。
「……ジェム」
そっとジェムの目を見つめて、名前を呼んだ。少し居心地悪そうに視線を逸らすジェム。
多分だけれど、ジェムは俺にこのことを話したくないのだ。それを、悟る。
かといって、俺が理由もなしに納得するわけがない。それは、ジェムも知っているのだ。なので、こんなにも迷っている。
「なぁ、教えてくれ。……恨みを買ったわけじゃないんだったら、どういう理由で俺が狙われるんだ?」
追及の言葉を口にする。ジェムは折れたのか、「はぁ」とため息をついた後、俺の目をまっすぐに見つめてきた。
「多分、好意とか、そういう類だろう」
「……好意?」
「恋愛感情のことだ。愛とか、恋とか。そういう類のこと」
それは、わかっている。言葉の意味くらい、俺にだって理解している。ただ、どうして好意の類が俺を狙う動機になるのか。
「相手は、どうにもフリントにやたらと面倒な恋愛感情を抱いているはずだ。あの興奮剤、かなり高価なものだし、強力なものだ」
「……それって」
「もしかしたら、偶然を装ってフリントを襲うつもりだったのかもな」
自然と眉間にしわが寄った。
「不運だったのは、自分よりも先に俺らがフリントを見つけたことだ」
「……はぁ」
まぁ、それが俺にとって良かったのか悪かったのかは別として――俺は、どうやら本当に狙われていたらしい。
命じゃなくて、『貞操』という部分を。いや、もう貞操もなにもないのだけれど。
「……けど、結局貞操とか、その、だな……」
少し視線を下げて、ジェムにそう告げる。ジェムは目を大きく見開いたかと思うと、俺の手を掴んだ。
しかも、包み込むように撫でまわしてくる。……俺、なにか変なスイッチを入れてしまったのだろうか?
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