上 下
33 / 41
第2章

見知らぬ部屋 7

しおりを挟む
「連絡、入れてくれたのか?」

 きょとんとしつつジェムを見つめれば、ジェムは頷いた。そして、床に腰を下ろす。

 寝台に腰掛けている俺は、ただジェムの顔を見下ろした。

「あぁ、もちろん、本当の理由は言っていない」
「……そ、っか」

 それならば、安心だ。まさか、媚薬か興奮剤に犯されて、性行為に耽っていたなんて言えるわけがない。……そんなことになったらクビだ、クビ。

「一応倉庫の近くで倒れていて、そのまま運んだことにした。そのうえで、熱が高いから今日は休ませると」

 ジェムが淡々とそう言う。……よかった。それならば、怪しまれることはないだろう。

 ほっと胸をなでおろしていれば、ジェムが俺の顔を見つめてくる。……なにか、ついているのだろうか?

「……ジェム?」

 ぼうっとジェムの名前を呼ぶと、ジェムがハッとしたように顔を逸らす。その顔は、仄かに赤い。

「いや、なんでもない。……ところで、フリントはなにか気になることはあるか? あったら、答えるが……」

 気を取り直したようにそう言うジェムに、俺は思考回路を張り巡らせる。……とりあえず、無断欠勤の件は大丈夫そうだし。

「えぇっと、この部屋は、誰の部屋だ?」

 室内を見渡して、そう問いかける。見たところ、宿屋とかそういう類のところではないような気がする。

 うまく言葉には出来ないけれど、生活感があるというか、馴染んでいるというか……。

「ここは俺とクォーツが共同で借りているアパートの一室だ。ちょうど、物置になっていた場所だな」
「……そっか」

 なんでも、二人は俺を自身のアパートに運んでくれたらしい。……ちょっといろいろと危機的状況なのかもしれないが、変なところに運ばれるよりはマシだ。病院とかに行っても、面倒なことになるだろうし。

「……前々から思ってたけど、お前ら共同生活しているんだな」

 それは間違いなく、今聞くことじゃない。それはわかっていたけれど、気になったのでそう問いかける。

 俺の問いかけを聞いてジェムは驚いたように目を見開くものの、肩をすくめていた。

「まぁ、俺らは金を貯める必要があるからな。……基本的に、こういうところは折半。節約している」
「……そっか」

 ジェムやクォーツほどの冒険者ともなれば、あっさりとある程度の金を貯められそうなものだ。が、未だに金を貯めているということは、もしかしたらかなりの大金なのかもしれない。……俺が口を挟むことじゃない。

「俺もクォーツも、いろいろと訳ありでな。……こうやって共同生活をしているほうが、都合がいいんだ」
「……ふぅん」

 俺には意味がわからなかったけれど、こいつらがそう言うのならばそうなのだろう。納得した。

「……とりあえず、助けてくれてありがと。……俺、もうちょっとしたら自分のアパートに帰るから」

 いつまでもお世話になるわけにはいかない。だって、こいつらだって仕事があるんだ。俺が居候するのもある意味迷惑だろう。

 ……っていうか、ここに居たら余計に抱かれるような気がする。俺の身体が、持たない。

「……フリント」

 だが、ふとジェムが真剣な声で俺を呼び止めた。……なんだろうか。そう思って、俺が奴の顔を見つめる。

「正直、これは提案するべきかしないべきか、迷っていたんだ。……だが、背に腹はかえられない」
「……あぁ」

 なんだろう。歯切れが悪い。……ジェムのこういう態度は珍しいっていうか、なんていうか。

(こいつ、普段豪快だしな……)

 豪快すぎて、ちょっとついて行けないことも多い男なのに。

 そう思いつつ俺が眉をひそめていれば、ジェムは意を決したように俺のことを見つめた。

「……フリント、お前、今日からここに住め」

 そして、少しためらいがちにそう言ってきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

処理中です...