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第2章

見知らぬ部屋 1

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「……んっ」

 身をよじる。瞬間壁かなにかに足をぶつけて、その衝撃でゆっくりと意識が浮上した。

 瞼を開ければ、見知らぬ真っ白な天井。何処となく品があって、俺の家じゃなくて……。

「って、ここ、何処だ……?」

 未だに落ちそうになる瞼を開けて、半ば無理やり意識を覚醒させた。

 視線だけで辺りを見渡すものの、見える範囲じゃここが何処なのかはわからない。だから、俺は寝かされている身体を起こそうとしたのだけれど――。

「いった!」

 なんていうか、身体が痛い。特に、腰のあたりが鈍く痛む。……正直、横になっていたい。

(でも、ここが何処だか理解するほうが先決だ……)

 しかし、そう思いなおして重たくて痛む身体を無理やり起こした。そのまま壁に背中を預けて、視線を動かす。

 どうやらここは普通の部屋らしい。そして、俺が寝かされていたのはなんの変哲もない寝台。……誰かに、連れ込まれたのか。

(いや、なんか、思い出したくもない記憶が……)

 おぼろげに浮かぶ記憶。けど、それを思い出したくない。ずきずきと痛む額を手で押さえて、深呼吸。

 落ち着け、落ち着け。とりあえず、落ち着け……。

「あ、フリント、目が覚めました?」
「……ぁ」

 そんなときなんの前触れもなく部屋の扉が開いて、見知った顔の人物が入ってくる。……奴は俺に近づいてくる。かと思えば、こつんと俺の額に自身の額をぶつけた。

「うん、熱はなさそうですね」
「え、えぇっと……」

 こいつの顔を見た瞬間、意識を失うまでのことを否応なしに思い出してしまう。

 あの情欲に濡れた目。たくましい身体。俺のことを快楽の渦に落して……。

(って、なに考えてるんだ! 今は、そうじゃないだろ……!)

 ぶんぶんと首を横に振って、邪な考えを振り払う。そんな俺を見て、クォーツはどう思ったのだろうか。ふっと口元を緩めていた。

「可愛い。……おはようございます、フリント」
「っつ!」

 クォーツが俺の頬に手を当てて、唇にちゅっと口づけを落としてきた。……な、な、なっ!

「な、にして……」

 自分の声が驚くほどに震えている。それを実感しつつ、俺はクォーツの手を払いのける。

 クォーツは、少し悲しそうに眉を下げた。

「あれ? もしかして、記憶がない感じですか?」
「……そ、れは」

 視線を彷徨わせて、下に向けた。記憶は、ある。もちろん全部あるとは言えない。最後のほうは曖昧だし、口走った言葉なんて覚えちゃいない。

 だけど、覚えていることもあるのだ。クォーツやジェムの身体とか、どれだけ愛されたとか……。

(ダメだ……なんていうか、身体が……)

 なんとなく、身体が熱いような気がする。もう、媚薬か興奮剤は抜けているだろうに。

「……記憶、ちゃーんとあるみたいですね」

 俺の態度を見て、クォーツがそう言ってきた。恐る恐るクォーツの目を見つめる。にたりと笑ったその目つきが、なんだか蠱惑的で……。心臓が、どくんと音を立てる。

「クォーツ……」

 自身の身体を抱きしめる。なんだろうか。どう、言い表せばいいのか……。

(俺、こいつに、全部暴かれたんだ……)

 そう思ったら、なんだか無性に恥ずかしくて。自分の身体を抱きしめていれば、クォーツが俺の手首を掴んだ。

 奴は寝台の上に腰掛けて、俺の身体を自身の膝の上に置いた。

「……くぉー、つ」

 後ろからぎゅっと抱きしめられて、クォーツの体温が直に伝わってくる。……どくどくと音を鳴らす心臓。

 なんだろうか、これは……。

(身体つなげたからって、こんなに意識するもんか……?)

 確かに俺はこいつに抱かれて、喘がされて。しまいには快楽を強請って……。

 でも、それだけだ。そもそもあれは俺の意思じゃなくて、媚薬か興奮剤の所為。それは、つまり、だな……。

「……フリント」
「ひゃぁっ!」

 ふと耳に息を吹きかけられて、俺の身体が跳ねた。

 さらには、クォーツの奴は俺の衣服の上から胸をまさぐってくる。これは、セクハラじゃぁ……!
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