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第2章

降りかかった災難 3

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 休憩室を出た俺は、ふらふらとしながらギルド内を歩いていた。すれ違う職員たちに心配されながらも、俺は笑った。

 笑えば誤魔化せる範疇を超えているとは思う。が、なんとか誤魔化したかった。

「……あれ、フリント?」

 名前を呼ばれて、身体が跳ねる。……一番会いたくない奴らだ。

(なんていうか、本当に災難だ……)

 心の中でそう思いつつ、俺は声のほうに視線を向ける。……いつも通り、ジェムとクォーツがいた。

 二人は俺の顔を見て、なんともいえない表情を浮かべた。かと思えば、大股でこちらに近づいてくる。

「顔色、悪いですけれど?」

 クォーツがそう問いかけてきた。そんなの、百も承知の上だ。自分でもわかっている。……多分。

「休んだらどうだ?」

 続けてジェムがそう言ってくる。……休めるんだったら、休みたいよ、俺だって!

「いや、大丈夫だ。……ちょっと、疲れが溜まっているだけだから」

 それだけを言って、二人の隣を通り抜けようとする。が、瞬間手首を掴まれた。

「ぁっ」

 口から少し高い声が漏れる。身体がびくんと跳ねて、それに驚いたのか手首が離された。

「……フリント?」
「い、いや、なんでも、ないから!」

 誤魔化すようにそれだけを言って、俺は早足でこの場を去る。

(お、れ、今、変な声上げた……!)

 間違いない。俺の身体は何処かおかしい。変な声を上げたのもそうだけれど、ちょっと触れられただけでこんなにも反応するものなのだろうか?

(しかも、悪い意味で反応しているんだよな……。ただ、驚いてるっていうよりも……)

 どちらかと言えば、性的に反応しているような気がする。って、なんでだよ……。

 そう思いつつ、俺は早足で倉庫に向かう。鍵を開けて、中に入って明かりをつけた。……埃っぽい。

「さぁ、やるか……」

 小さくそう呟いて、俺は足を踏み出したのだけれど……。

「っつ」

 足から力が抜けた。その場にがくんと膝をついてしまって、身体に力が入らない。

(う、わ……)

 徐々に呼吸が荒くなって、その場に膝立ちしているのも辛くなる。

 心臓の音がどんどん早くなっているような気もする。頭がくらくらとして、もうなにも考えたくない。

「なんだよ、これ……」

 未知の感覚に、背筋が震える。こんなの、おかしい。そう思うのに、対処法が一つもわからない。

 誰かに助けを求めようにも、ここら辺は閑散としている。目的がないと近づく人はいない。……無理だ。

(クソッ、休めばよかった……!)

 頭の中がふわふわとして、ぼうっとして。口から悪態を出す余裕もなくて。

 ただただ、その場で胸を押さえる。苦しい。辛い。でも、それ以上に――なにかが、欲しいと思ってしまった。

(なにかって……なんだ?)

 意味がわからない。ただ、刺激というか、快感というか……。

 そこまで考えたとき、ふと入り口の扉が開いたのがわかった。

「フリント!」

 誰かが、俺のほうに駆けてくる。……ぼうっとする頭でも、理解できた。足音は二人分。合わせ、この声はジェムだ。

「おい、大丈夫か?」

 珍しく、ジェムが感情を露わにしている。……とまぁ、そんなことを思う余裕なんてすぐに消えた。

「……だ、いじょうぶ」
「嘘だな」

 俺の言葉を、ジェムは蹴り飛ばす。そして、その手が俺の肩に触れた。

「ひゃっ」

 俺の喉から、甲高い女みたいな声が零れた。……ジェムが、驚いて手を引っ込めた。俺も、驚いて目を見開く。

「……おい、フリント」

 ジェムが、怪訝そうに俺に声をかけてくる。恥ずかしい。穴があったら、入りたい。

(なんで、俺、あんな声……)

 頭の中がぐちゃぐちゃだ。でも、それ以上に――もう、冷静じゃいられない。

「じぇ、む……」

 助けを求めるように、ジェムの衣服の端を掴んだ。……奴が、身体を震わせたのがわかった。だけど、引けない。

「……フリント」
「も、無理……」

 もうこの際、コイツでいい。医者に連れて行ってほしい。心の底から、そう思う。

「クォーツ、倉庫の扉を閉めろ。ついでに、中から施錠してくれ」
「え……あ、はい」

 けれど、ジェムの指示の意味がこれっぽっちもわからなかった。だって、そうじゃないか。

 ……なんで、中から施錠するんだよ。
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