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第2章
降りかかった災難 1
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その日は、なんていうか朝から災難というか、トラブル続きだった。
ギルド内での冒険者同士のけんかから始まり、けんかの被害の後片付け。書類の紛失に、備品の欠陥。頼まれていた依頼品は数が足りず、ギルドの職員全員でてんやわんや。
なんとか落ち着いた頃には、もうすっかり昼時も過ぎていた。
「先輩、大丈夫ですか……?」
休憩室でぐったりと倒れこむ俺を見て、イアンがそう声をかけてくる。なので、俺はゆるゆると首を横に振る。
「大丈夫じゃない……もう、疲れた」
多分、ここまでトラブルが続く日は年に一度あるかないかだろう。合わせ、後日オーナーと責任者が来ることになってしまった。……正直、あの人たち苦手だから会いたくないんだけれどなぁ。
「まぁ、これでも飲んで落ち着いてくださいよ」
倒れこむ俺を見かねてか、イアンがコップを差し出してくる。その中にはどうやらお茶が入っているらしく、俺はコップを受け取ってありがたく口に運ぶ。お茶はとても冷たくて、乾いた喉を潤すにはちょうどよかった。
「悪いな。……イアンも、疲れているだろうに」
こんな風に先輩にも気を遣って、余計に疲れるだろう。
心の中でそう思っていると、イアンはゆるゆると首を横に振っていた。
「いえ、僕はまだ新人なので、そこまで仕事を任されていないので……」
苦笑を浮かべたイアンが、ソファーに腰掛ける。……そっか。まだ、新人なのか。
(イアンはしっかりしているから、新人だって思えないんだよな……)
仕事はしっかりとこなすし、熱心だし物覚えも早いし。俺もすっかり頼り切っているけれど、よく考えればこいつはまだ入ってきて十ヶ月ほどなのだ。新人というのは一年目のことをさすので、こいつもまだ一応新人だ。
「僕にできることは、出来るだけやりたいんです。……先輩たちの、力になりたい」
にっこりと笑ったイアンの顔が、やたらと可愛らしく見える。だからこそ、俺は手を伸ばしてイアンの髪の毛を撫でた。
「おぉ、偉い偉い。……助かってるよ」
そう告げれば、イアンが笑った。年相応の、可愛らしい笑みだ。なので、その笑みを見て俺も笑う。
「ところで、先輩。……変なこと、聞いてもいいですか?」
ふと、イアンが改まったようにそんなことを言う。……変なこと。
「あぁ、いいよ。答えにくいことだったら、はぐらかすから」
「ありがとう、ございます」
俺の言葉を聞いて、イアンが律儀にも礼を言ってくる。そんな、礼を言われるようなことじゃないんだけれどな……。
「あの、先輩は……あの二人と、恋仲なのですか?」
が、その言葉を聞いて俺はガバッと顔を上げた。……あの二人。それはつまり、『ジェムとクォーツ』のことだ。むしろ、それ以外ありえない。
「な、なんで……」
「いえ、なんていうか、親しそうじゃないですか。先輩もあの二人には気を許しているっていうか……」
俺の頬が引きつるのがわかった。気を許しているわけじゃ……ない。でも、俺の態度ははたから見ればあの二人に気を許している風に見えるのか……。
(なんていうか、ちぐはぐだな)
心の中でそう思って、俺はゆるゆると首を横に振った。
「違う。恋仲なんかじゃない。……あえて言うのならば、腐れ縁の知り合い、みたいな?」
それは仮にも冒険者に対してどうなんだ。俺の中の良心がそう問いかけてきたが、その考えをねじ伏せる。
イアンは、俺の回答を聞いて笑っていた。
「そうですか。……変なことを聞いてしまって、すみませんでした」
声のトーンが、先ほどよりも数段高い。……なにか、いいことでもあったのだろうか?
「あっ、じゃあ、僕そろそろ戻りますね。この後、別件で呼び出されていて……」
「あぁ」
イアンが、立ち上がって休憩室を出ていく。イアンが出て行った後、ぱたんと扉が音を立てて閉まった。
休憩室にいるのは、正真正銘俺一人となった。
ギルド内での冒険者同士のけんかから始まり、けんかの被害の後片付け。書類の紛失に、備品の欠陥。頼まれていた依頼品は数が足りず、ギルドの職員全員でてんやわんや。
なんとか落ち着いた頃には、もうすっかり昼時も過ぎていた。
「先輩、大丈夫ですか……?」
休憩室でぐったりと倒れこむ俺を見て、イアンがそう声をかけてくる。なので、俺はゆるゆると首を横に振る。
「大丈夫じゃない……もう、疲れた」
多分、ここまでトラブルが続く日は年に一度あるかないかだろう。合わせ、後日オーナーと責任者が来ることになってしまった。……正直、あの人たち苦手だから会いたくないんだけれどなぁ。
「まぁ、これでも飲んで落ち着いてくださいよ」
倒れこむ俺を見かねてか、イアンがコップを差し出してくる。その中にはどうやらお茶が入っているらしく、俺はコップを受け取ってありがたく口に運ぶ。お茶はとても冷たくて、乾いた喉を潤すにはちょうどよかった。
「悪いな。……イアンも、疲れているだろうに」
こんな風に先輩にも気を遣って、余計に疲れるだろう。
心の中でそう思っていると、イアンはゆるゆると首を横に振っていた。
「いえ、僕はまだ新人なので、そこまで仕事を任されていないので……」
苦笑を浮かべたイアンが、ソファーに腰掛ける。……そっか。まだ、新人なのか。
(イアンはしっかりしているから、新人だって思えないんだよな……)
仕事はしっかりとこなすし、熱心だし物覚えも早いし。俺もすっかり頼り切っているけれど、よく考えればこいつはまだ入ってきて十ヶ月ほどなのだ。新人というのは一年目のことをさすので、こいつもまだ一応新人だ。
「僕にできることは、出来るだけやりたいんです。……先輩たちの、力になりたい」
にっこりと笑ったイアンの顔が、やたらと可愛らしく見える。だからこそ、俺は手を伸ばしてイアンの髪の毛を撫でた。
「おぉ、偉い偉い。……助かってるよ」
そう告げれば、イアンが笑った。年相応の、可愛らしい笑みだ。なので、その笑みを見て俺も笑う。
「ところで、先輩。……変なこと、聞いてもいいですか?」
ふと、イアンが改まったようにそんなことを言う。……変なこと。
「あぁ、いいよ。答えにくいことだったら、はぐらかすから」
「ありがとう、ございます」
俺の言葉を聞いて、イアンが律儀にも礼を言ってくる。そんな、礼を言われるようなことじゃないんだけれどな……。
「あの、先輩は……あの二人と、恋仲なのですか?」
が、その言葉を聞いて俺はガバッと顔を上げた。……あの二人。それはつまり、『ジェムとクォーツ』のことだ。むしろ、それ以外ありえない。
「な、なんで……」
「いえ、なんていうか、親しそうじゃないですか。先輩もあの二人には気を許しているっていうか……」
俺の頬が引きつるのがわかった。気を許しているわけじゃ……ない。でも、俺の態度ははたから見ればあの二人に気を許している風に見えるのか……。
(なんていうか、ちぐはぐだな)
心の中でそう思って、俺はゆるゆると首を横に振った。
「違う。恋仲なんかじゃない。……あえて言うのならば、腐れ縁の知り合い、みたいな?」
それは仮にも冒険者に対してどうなんだ。俺の中の良心がそう問いかけてきたが、その考えをねじ伏せる。
イアンは、俺の回答を聞いて笑っていた。
「そうですか。……変なことを聞いてしまって、すみませんでした」
声のトーンが、先ほどよりも数段高い。……なにか、いいことでもあったのだろうか?
「あっ、じゃあ、僕そろそろ戻りますね。この後、別件で呼び出されていて……」
「あぁ」
イアンが、立ち上がって休憩室を出ていく。イアンが出て行った後、ぱたんと扉が音を立てて閉まった。
休憩室にいるのは、正真正銘俺一人となった。
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