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第1章

二人の師匠 3

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 俺がそんなことを考えている間に、ウォーデルさんは立ち上がって何処かに行く。どうやら、冒険者の一人に声をかけられたようだ。

 そんな彼の背中を見つめつつ、俺はぼうっとしてしまった。

(ギルド内に、犯罪グループ側が、いる……?)

 正直、そういうのは考えたくもない。……いや、まだ決まったわけじゃない。そもそも、ウォーデルさんは「ここら辺の」と言っていた。それすなわち、ほかのギルド職員の可能性も、ある。

「……あぁ、そうだ。余計なことは考えるな、今は、とにかく」

 とにかく、仕事に集中しなくては。

 小さくそう呟いて、俺はギルドの受付の仕事に集中しようとした……のだけれど。

「……フリント」

 嫌というほど聞いた声で、名前を呼ばれた。

 自身の頬が引きつるのわかる。でも、無視はダメだ。だって、今は仕事中なのだから。

 作り笑いを浮かべて、顔を上げる。そこには、相変わらず無愛想なジェムが立っていた。

「依頼のあった鉱石を採掘してきた。……納品する」

 端的にそう告げて、ジェムが俺に小さな袋を手渡してくる。その袋の中身をチェック。……うん、間違いない。依頼のあった鉱石だ。

「お疲れ様でした。では、後日報酬をお支払いしますね」

 こういう納品タイプの依頼は、依頼者に依頼品を手渡してから報酬が支払われる。そのため、今は渡せない。

 ジェムも、その後ろにいるクォーツも。冒険者としての腕はいいし、歴戦の剣士って感じだから、それはよく理解している……んだけれどなぁ。

「フリント」

 ジェムが、俺の頬に手を当てて名前を呼んでくる。……触れないでほしい。

「お触り厳禁ですよ、ジェムさん」

 よそ行きの笑みを浮かべて、俺は端的にそう告げる。普段は軽口をたたいているけれど、公衆の面前ではそうはいかない。しっかりと、冒険者と職員という立場をわきまえないとならない。

「……フリントと俺の、仲だろう」
「どういう仲なんですかね!?」

 だけど彼の言葉に、思わず大きな声が漏れた。ハッとして周囲を見渡せば、近くの視線はこちらに集まっている。……幸いにも、がやがやとしていたこともあり遠くまでは聞こえていないようだ。

「この後、暇だろうか?」

 ……俺の気持ちなんて知りもしないジェムが、そう問いかけてくる。……暇なわけがない。

「生憎、本日は午後の勤務なので。暇じゃありませんよ」
「……そうか」

 ジェムの声音が、少し下がった。こいつは無愛想でわかりにくいっていうけれど、俺にはめちゃくちゃわかるんだけれどなぁ。むしろ、わかりやすいタイプだと思う。

「じゃあ、また後日誘う」
「二度とごめんです」
「この間一緒に食事しただろ」
「あれは、一回限りです!」

 そうだ。しかも、あれは不可抗力。……決して、俺が受け入れたわけじゃない。ただ、こいつらが勝手についてきただけで……。

 そんなことを考えて、俺は自然と立ち上がっていた。瞬間、ジェムが俺の耳元に唇を寄せる。

「――そういう怒ってる顔、最高に可愛い」
「っつ!」

 しかも、無駄に低いいい声でそう言われて、俺の顔にカーっと熱が溜まっていくのがわかった。こ、こいつ……!

「ちょっと、ジェムばっかりフリントと戯れないでください。俺も混ぜてください」

 挙句、クォーツまでこっちに寄ってきて。なんていうか、周囲の視線が集中していないのをいいことに、こいつら好き勝手するつもりだと、悟った。

「可愛い。……もっと、触りたい」
「っつ!」

 クォーツが下から俺の顔を覗き込んできて、俺にだけ聞こえるような声量でそう告げる。

 その目の奥に、確かな情欲が宿っている。……確かに、ダンジョン帰りの冒険者って、興奮してること多いけれど……!

「や、め」

 ジェムが、俺の身体を周囲から隠すように、場所を移動する。生憎と言っていいのか、ここは一番端。隣は壁。……ジェムの奴が俺の身体を隠せば、後ろからしか見えないだろう。

(しかも、今後ろに誰もいないしっ……!)

 誰かがいたら、助けてもらったのに。そう思ったけれど、こんな光景を見られたくない。……誰もいなくて、助かったと思いなおした。
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