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第1章
二人の師匠 2
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「ところでよ、あいつらはお前さんに迷惑をかけてないか?」
ウォーデルさんが、自身の頭を掻きながらそう問いかけてくる。だから、俺は苦笑を浮かべることしか出来なかった。
ウォーデル・ラングトン。それが、この人の名前。一流の剣士で元はフリーの冒険者だった。彼の存在はもはや伝説となっており、若い男の冒険者が一番に憧れる人物だと言われている。
そんな彼は年には勝てないと十五年ほど前に冒険者を引退して、以来後継者育成に力を入れている。というわけで、彼は弟子の様子を見にこちらに顔を出すのだ。
そして、ウォーデルさんの最も有名な弟子が……ジェムとクォーツの、二人。つまり、この人はあの二人にとって頭の上がらない師匠なのだ。
「その様子だと、迷惑しているようだなぁ」
「……ははっ」
言葉には出さないけれど、この笑い方でウォーデルさんはすべてを悟ったのだろう。笑いながら俺の頭をガシガシと撫でる。
「あいつらは、わしが最も可愛がっている弟子たちでな。……だから、目に入れても痛くないほど可愛がっているんだ」
……それは、よく知っている。ウォーデルさんは、なにかあったらあの二人のことを話しているし、きっと孫みたいに思っているんだろうな。
「けれど、ほかの奴に迷惑をかけるのは、ダメだな。……今度、こってり絞っておいてやる」
「……お手柔らかに、お願いしますね」
「お前は優しいな」
ウォーデルさんは笑いながらそう言うけれど、実際は優しいわけじゃない。ただ、反動がすごそうっていうだけ。
ストレスがたまった分、俺へのセクハラが悪化するんじゃないか……とか、そういう心配をしているだけ。
「ところで、ウォーデルさんはなにか用事があるのでは?」
「あぁ、そうだったそうだった。……ここら辺の、治安について少し、な」
ウォーデルさんは、先ほどまでの楽しそうな表情を一気に引っ込めて、顔を引き締める。元々強面ということもあり、彼のこういう表情は大層迫力があった。
「実は、最近ここら辺の治安が一気に悪くなっていてな。あちこちで強盗やら窃盗騒ぎが起きているんだ」
「……そう、ですか」
強盗といえば、この間このギルドに押し入ってきた強盗のことを思い出す。あの翌日、職員全員が集められ、いろいろな報告をされた。その際に聞いたことで一番頭に残っているのは、あの強盗はただの末端だろうということ。
(……巨大な犯罪グループが関わっている可能性があるって、言ってたな)
ここら辺は冒険者の街だ。すなわち、身分確認はそこまで厳しくない。偽装の身分証でここに入っている奴も、いると言われている。
「まぁ、わしとしてもこの街でそんなことが起こると、黙ってはいられないんでな。弟子のいくらかに治安部隊の手伝いをさせているんだが……」
……こういうところが、ウォーデルさんが誰からも信頼される要因なんだろうな。そう、思う。
「ただ、どうにもいろいろと胡散臭くてな」
「胡散臭い、とは?」
俺がそう問いかければ、ウォーデルさんは俺のことを手招きする。俺が顔を近づければ、その耳元に唇を寄せた。
「多分だが、ここら辺のギルドの職員の中に、あっち側がいると思うんだよ」
「……は?」
いやいやいや、さすがにそれはないだろう。……そう、言いたいのに。言えなかった。
だって、ウォーデルさんの勘は割と当たるから。あと、不確定な情報を人に教えるような人じゃない。
「とにかく、わしらはいろいろと調査を続行する。……フリント君も、気を付けるに越したことはない」
「……あ、はい」
返事をしてウォーデルさんの目を見つめれば、彼の目はまるで『このことは内密に』とでも言いたげな色を宿していた。
……そっか。ギルド職員の中に犯罪グループの協力者がいるんだったら、黙っておいたほうがいいのか。
(でも、どうしてそれを俺には教えたんだ……?)
俺がウォーデルさんから信頼されているからだったら、いいんだけれど……。
ウォーデルさんが、自身の頭を掻きながらそう問いかけてくる。だから、俺は苦笑を浮かべることしか出来なかった。
ウォーデル・ラングトン。それが、この人の名前。一流の剣士で元はフリーの冒険者だった。彼の存在はもはや伝説となっており、若い男の冒険者が一番に憧れる人物だと言われている。
そんな彼は年には勝てないと十五年ほど前に冒険者を引退して、以来後継者育成に力を入れている。というわけで、彼は弟子の様子を見にこちらに顔を出すのだ。
そして、ウォーデルさんの最も有名な弟子が……ジェムとクォーツの、二人。つまり、この人はあの二人にとって頭の上がらない師匠なのだ。
「その様子だと、迷惑しているようだなぁ」
「……ははっ」
言葉には出さないけれど、この笑い方でウォーデルさんはすべてを悟ったのだろう。笑いながら俺の頭をガシガシと撫でる。
「あいつらは、わしが最も可愛がっている弟子たちでな。……だから、目に入れても痛くないほど可愛がっているんだ」
……それは、よく知っている。ウォーデルさんは、なにかあったらあの二人のことを話しているし、きっと孫みたいに思っているんだろうな。
「けれど、ほかの奴に迷惑をかけるのは、ダメだな。……今度、こってり絞っておいてやる」
「……お手柔らかに、お願いしますね」
「お前は優しいな」
ウォーデルさんは笑いながらそう言うけれど、実際は優しいわけじゃない。ただ、反動がすごそうっていうだけ。
ストレスがたまった分、俺へのセクハラが悪化するんじゃないか……とか、そういう心配をしているだけ。
「ところで、ウォーデルさんはなにか用事があるのでは?」
「あぁ、そうだったそうだった。……ここら辺の、治安について少し、な」
ウォーデルさんは、先ほどまでの楽しそうな表情を一気に引っ込めて、顔を引き締める。元々強面ということもあり、彼のこういう表情は大層迫力があった。
「実は、最近ここら辺の治安が一気に悪くなっていてな。あちこちで強盗やら窃盗騒ぎが起きているんだ」
「……そう、ですか」
強盗といえば、この間このギルドに押し入ってきた強盗のことを思い出す。あの翌日、職員全員が集められ、いろいろな報告をされた。その際に聞いたことで一番頭に残っているのは、あの強盗はただの末端だろうということ。
(……巨大な犯罪グループが関わっている可能性があるって、言ってたな)
ここら辺は冒険者の街だ。すなわち、身分確認はそこまで厳しくない。偽装の身分証でここに入っている奴も、いると言われている。
「まぁ、わしとしてもこの街でそんなことが起こると、黙ってはいられないんでな。弟子のいくらかに治安部隊の手伝いをさせているんだが……」
……こういうところが、ウォーデルさんが誰からも信頼される要因なんだろうな。そう、思う。
「ただ、どうにもいろいろと胡散臭くてな」
「胡散臭い、とは?」
俺がそう問いかければ、ウォーデルさんは俺のことを手招きする。俺が顔を近づければ、その耳元に唇を寄せた。
「多分だが、ここら辺のギルドの職員の中に、あっち側がいると思うんだよ」
「……は?」
いやいやいや、さすがにそれはないだろう。……そう、言いたいのに。言えなかった。
だって、ウォーデルさんの勘は割と当たるから。あと、不確定な情報を人に教えるような人じゃない。
「とにかく、わしらはいろいろと調査を続行する。……フリント君も、気を付けるに越したことはない」
「……あ、はい」
返事をしてウォーデルさんの目を見つめれば、彼の目はまるで『このことは内密に』とでも言いたげな色を宿していた。
……そっか。ギルド職員の中に犯罪グループの協力者がいるんだったら、黙っておいたほうがいいのか。
(でも、どうしてそれを俺には教えたんだ……?)
俺がウォーデルさんから信頼されているからだったら、いいんだけれど……。
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