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第1章

三人での食事 4

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「あのなぁ、お前ら……」

 なんだか、頭が痛くなってきた。その所為で俺が「はぁ」とため息をついていれば、両側から頬をつつかれた。

 ……こいつら、こういうときは息ぴったりなんだよな。

「俺は、別にフリントに疲れてほしいわけじゃないんだが」
「……知ってる」

 ジェムとクォーツは、元からこういう性格なのだ。だから、わざと俺が疲れるようなことを言っているわけじゃない。

 けれど、もう少し気を遣ってくれるとありがたいというか……。

「だけどさ、お前らもう少し俺に気を遣ってくれない?」
「……俺たち的には、もうこの上なく気を遣っているんですけれど」

 俺の問いかけに答えたのはクォーツだった。……これで気を遣っているのか。なんだか、余計に頭が痛くなってきた。

「あぁ、気を遣っている。……フリントにだけは、嫌われたくないと思ってるからな」

 ジェムのほうも、そう答える。……俺にだけは、嫌われたくない、か。

(なんていうか、こいつらも真面目なんだよな……)

 かといって、絆されるかと問われれば答えはノーだ。絶対に絆されるわけにはいかない。

 そう思いつつパンを口に運んでいれば、ティムルが器用にトレーを二つ持ってやってきた。

「どうぞ、ステーキセットです」

 ティムルが、ジェムとクォーツ。それぞれの前にステーキセットを置く。肉厚なステーキと、少し硬めのパン。あと、サラダとスープ。カットフルーツは俺と同じ奴。飲み物にジュース。

「では、ごゆっくり」

 二人の前にセットを置き終えたティムルが、奥に引っ込む。そんなティムルを見送りつつ、俺は食事を続けていた。

 ……そういえば、こいつらとここで鉢合わせたことないなぁ。

「なんていうか、とても豪華ですね。……わぁ、美味しそう」

 隣で、クォーツがそう呟く。あ、ということは正真正銘この店は初めてか。

「……っていうか、お前ら普段昼はなに食べてるんだ?」

 ふと気になったので、そう問いかけてみる。二人は、しばし考え込んでいた。

「ダンジョンに行っているときは、軽食だ。この時間は基本的にダンジョンにいることが多いからな」
「休日は、適当に買って食べてますよ。……俺たちの住んでいるアパートの近くに、美味しい総菜屋があるんです」
「へぇ」

 そんなに美味しい総菜屋なら、ぜひとも一度行ってみたいものだ。値段が、安ければだけれど。

(……っていうか、あれ?)

 今、クォーツの奴、『俺たちの住んでいるアパート』って言ったよな……?

(え、もしかしてこいつら、同居してるわけ?)

 パーティを組んでいるからと言って、同居している奴は滅多にいない。そりゃあ、金のない新米だったら一定数はいるけれどさ……。

 ついでにいえば、こいつらクラスになれば大豪邸だって建てられるだろう。なのに、アパートなのか。

「なぁ、お前らって……」

 そう声をかけようとすると、不意に唇の端に指を押し付けられた。驚いてそちらに視線を向けると、クォーツがにっこりと笑っている。俺に見せた指には、小さな野菜。

「フリントって、こういうところが可愛いですよね」

 クォーツは、それだけを言ってその野菜を口に運ぶ。……うん、そういうのは女性にしてやったほうが需要があると思うんだ。

「……俺の食べかすなんて、食べるなよ」

 眉間にしわを寄せてそう言えば、クォーツはこてんと首を傾げた。

「フリントじゃないと、こんなことしませんけれど?」

 さも当然のように、こいつはそう言う。……なんていうか、本当にペースが乱れる。この二人組は、俺にとって天敵かもしれない。

「クォーツ、食べたらギルドに戻るぞ。……明日に受ける依頼を探さないとな」
「わかってますよ」

 しかしまぁ、俺を挟んで仕事の話をしないでほしい。なんていうか、俺って場違いだなって、思うから。

(まぁ、完全に場違いっていうわけじゃ、ないけれど)

 俺だって、ギルド職員なわけだしな。

 心の中でそう思いつつ、俺と二人組の剣士は他愛もない話をしつつ、食事を済ませるのだった。
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